青少年のための科学の祭典 第1回神戸大会(1996.1.6〜7)出展資料
                             “人工イクラ作り”へのジャンプ
   バイオリアクターの作成
       −固定化酵母によるアルコール発酵−
 
[目的]
 アルギン酸のナトリウム塩は、水に溶けて粘性のある溶液となる。この水溶液と酵母との混合液を冷たい塩化カルシウム水溶液中に滴下する。そうすると水に不溶のアルギン酸カルシウムゲルに酵母が閉じこめられ直径約5mmの粒子となる。これを酵母固定化ゲルという。
 入手しやすい市販の湿潤パン酵母を用いて酵母固定化ゲルをつくり、手製のカラムに充填して、グルコース(ブドウ糖)を原料としてエタノールの連続生産を行うことを目的とする。
 
[材料・試薬]
市販の湿潤パン酵母(製菓・製パン用生イースト)
  Saccharomyces cereviciae 500gで500円程度 冷蔵庫で保存すれば、購入後1カ月は使える。
 
 ※ 乾燥酵母(ドライイースト)は、水分を約5%にしたもので生きている酵母が少ない、しかし酵素は変性していないので製菓・製パンに家庭用としてよく使われている。これを使ってもよいが、培養・増殖に時間がかかるので、湿潤パン酵母を使った方がよい。
 
●アルギン酸ナトリウム(500cps)
  Sodium Alginate 500gで3,500円程
 天然物なので雑菌が入っている可能性があり、煮沸消毒が必要。
 
 コンブを煮出して取り出したアルギン酸を用いることもできるようである。
 
 ※ アルギン酸とは、褐藻類全般に含まれている多糖類で、細胞壁の成分および細胞間の充填物質である。工業的には、ジャイアントケルプやマコンブ、カジメなどから抽出分離している。
 アルギン酸は、β-D-マンヌロン酸と α-L-グルロン酸が種々の割合で1→4結合した直鎖状酸性多糖である。マンヌロン酸とグルロン酸の割合は、褐藻の種類によって異なるが2:3程度である。
 人工イクラ、食品添加物(増粘多糖類やゲル化剤)、製剤用基材、医用材料(繊維)、化粧品、歯科印象剤、製紙、繊維糊剤、溶接棒成形助剤、塗料などに用いられている。フィルムや繊維にすることもできる。
 具体的には、練り歯磨きの増粘剤、オブラート、口紅などにも使用されている。
 
 市販のデザートベース(ハウスのフルーチェなど)には、ペクチンという果物などから取り出したアルギン酸に似たような性質の多糖類が入っていて、牛乳と混ぜると成分中のカルシウムによってゼリー状に固まる。
 
●塩化カルシウム・二水和物
    Calcium Chloride,Dihydrate CaCl・2HO 食品添加物用 500gで800円程度
     ※ 市販の除湿剤の塩化カルシウムを使ってもよい。
 
●栄養培地用試薬  (※ は、簡易培地で培養するときには、必要のない試薬)
    ブドウ糖 D-Glucose C12      500gで1000円程度
    酵母エキス Yeast Extract           200gで5000円程度
    ペプトン Peptone               25gで 700円程度
    リン酸二水素カリウム Potassium Dihydrogen Phosphate KHPO
                           食品添加物用  500gで1000円程度
   ※ 塩化カリウム Potassium Chloride KCl   500gで 500円程度
   ※ 塩化アンモニウム Ammonium Chloride NHCl 500gで1000円程度
    硫酸マグネシウム・七水和物 Magnesium Sulfate MgSO・7H
                   食品添加物用  500gで 600円程度
   ※ 硫酸マンガン・四〜五水和物 Manganese(U) Sulfate MnSO・4〜5H
                           500gで1500円程度
   ※ 硝酸亜鉛・六水和物 Zinc Nitrate Zn(NO・6HO (劇物)
                           25gで 500円程度
 
 
[器具]使う器具は、あらかじめよく洗った後、加熱消毒をしておく。(できればオートクレーブで消毒する)
    200mlビーカー(2)、1Lビーカー(1)、100ml三角フラスコ(2)
    100mlメスシリンダー(1)、500mlメスシリンダー(1)
    ガラス棒(2)、10ml駒込ピペット(1)、5mmφシリコンチューブ(1.5m)
    薬さじ(2)、薬包紙、上皿はかり(1)、スクリューコック(1)
    ガスバーナー(1)、三脚(1)、マッチ、スタンド(1)、温度計(1)
    マグネチックスターラー(1)、スターリングバー(1)
    恒温水槽(1)、外径25mmガラス管20cm(1)、ゴム栓(2)
    直径7mmガラス管5cm(2)、ナイロン網と重りまたはグラスウール
  培養器具: 恒温振盪培養水槽(1)、500ml振盪フラスコ(坂口フラスコ)(1)
                ※ なければ500ml平底フラスコ(1)
 
 ※ 作成したバイオリアクターを長期間使用するには、雑菌が入らないように使用する水・試薬や器具はできるだけ加熱殺菌またはオートクレーブして用いるのがよい。こうして作成した固定化酵母は、冷蔵庫で数カ月は保存できる。生徒実験など短期間の実験ならそれほど殺菌に気を使わなくてもうまくいく。
 
 
[実験方法]
 
    固定化酵母の作成
 
 酵母菌をアルギン酸カルシウムのゲルで固定化する。
 
 
1.純水約500mlを煮沸殺菌後、冷却する。以降の実験にこれを使う。
2.アルギン酸ナトリウム1gを200mlのビーカーにとり、純水50mlを加える。ガラス棒でかき混ぜよく水をなじませる。
3.加熱し沸騰させ溶解し、さらに10分間加熱殺菌する。その後冷却する。
4.パン酵母50gを別の200mlビーカーにとり、殺菌した純水を50ml加えて均一に懸濁させる。
5.この懸濁液をかくはんしながら、2.のアルギン酸ナトリウム水溶液を加え、十分かくはんする。
6.塩化カルシウム20gを1Lビーカーに取り、これに殺菌した純水を加えて 400mlとし、冷蔵庫に入れて4〜6℃に冷却する。(5%、約0.5 mol/L)
7.冷却した塩化カルシウム水溶液をマグネチックスターラーでゆるやかにかくはんしながら4.の懸濁液を10ml駒込ピペットで1滴ずつ滴下する。これで、粒径約5mmの球形の酵母固定化ゲルが約100mlできる。
8.得られたゲルを塩化カルシウム水溶液に入れたまま冷蔵庫に入れ4〜6℃で約2時間置いておき、ゲル化を促進する。このとき30分毎に軽くかくはんする。
 
 
    酵母の培養
 
 酵母固定化ゲル内の酵母の密度は、上記の作成法では低いため、酵母を培養し増殖する。以下の方法で培養すると酵母は1ml当たり1000億〜1兆個になるそうである。
 培養せずバイオリアクターをつくっても一応は、発酵し低い濃度のエタノールができるし、二酸化炭素の気泡も十分目に見えるだけ発生する。
 生徒実験で時間がとれないときは、培養しなくてもよいであろう。
 
1.栄養培地およびグルコース水溶液をつくる。
塩溶液をつくる  200mlビーカーに純水約80mlを入れ、下記の塩を溶かしていく。
        リン酸二水素カリウム KHPO         3.0g
        塩化カリウム KCl               3.0g
        塩化アンモニウム NHCl            2.3g
        硫酸マグネシウム・七水和物 MgSO・7HO    1.3g
        硫酸マンガン・四〜五水和物 MnSO・4〜5HO 0.05g
        硝酸亜鉛・六水和物 Zn(NO・6HO    0.2g
       溶けたら純水を加えて100mlにする。
栄養培地をつくる  1Lビーカーに純水約800mlを入れ、下記のものを溶かしていく。
        ブドウ糖 D-Glucose C12   100g
        酵母エキス Yeast Extract      7.5g
        ペプトン Peptone          7.5g
        塩溶液               50 ml
       溶けたら純水を加えて1Lにする。(pH=約4.7になる)
 
  15%(W/V)グルコース水溶液をつくる(100ml+反応時間(分)×1ml 以上必要)
 
    ※ 薬品がそろわないときなどに下記の簡易培地で培養してもよい。
 
        ブドウ糖 D-Glucose C12       50g
        酵母エキス Yeast Extract           1.0g
        ペプトン Peptone               2.0g
 
        リン酸二水素カリウム KHPO       1.0g
        硫酸マグネシウム・七水和物 MgSO・7HO 0.4g
        以上を純水に溶かして1Lにする。
 
2.できた栄養培地およびグルコース水溶液を沸騰後10分間煮沸し消毒する。(できれば、115℃で15分間オートクレーブで消毒するのがよい。)その後、放冷する。
3.酵母固定化ゲルの全部を500ml振盪フラスコに流し込むようにして入れる。その後、振盪フラスコを傾けて塩化カルシウム水溶液を捨てる。最後にビーカーの底の溶液を除くのには、ピペットをアスピレーターに付けて吸い取るとよい。
4.酵母固定化ゲル約100mlに約100mlの培地溶液を加え軽くかくはんし溶液を捨てゲルを洗浄する。最後にフラスコの底の洗浄液を除くのには、ピペットをアスピレーターに付けて吸い取るとよい。
5.100mlの培地を再び注ぎ、振盪培養器にセットする。
6.好気性条件下(栓をしないで軽くラップフィルムをかけておく)で、30℃で24時間(できれば48時間)振盪培養する。このとき、泡が出過ぎるようなら消泡剤としてサラダオイル2〜3滴を加える。
7.フラスコ内の培養液を捨てた後、500mlビーカーに酵母固定化ゲルを全部入れる。
8.4〜6℃に冷やした15%グルコース水溶液50mlを用いて、2回酵母固定化ゲルを洗浄する。
9.カラムにする直径25mmのガラス管の一方に直径7mmガラス管を取り付けたゴム栓をする。グルコース水溶液を導入するシリコンチューブをスクリューコックを締めてグルコース溶液が流れないようにして取り付ける。
10.酵母固定化ゲルを洗浄したブドウ糖溶液ごとカラムに流し込むように充填する。作成したゲルの約半分を使用することになる。
11.ゲルの上部にグラスウールまたはナイロン網と小さな重りを置いて、発生する二酸化炭素によるゲルの浮上を防ぐ。
バイオリアクターを次ページの図のように設置し、サイホンの原理で15%グルコース水溶液を1分間に1mlの流速で送る。流速は、グルコース水溶液の位置(高さ)とスクリューコックの締め具合で調節する。
 
※ サイホンの代わりに、医療用の点滴の装置を用いると流速の調整が大変やりやすく、正確で安定した流量で連続運転ができる。
 
 
[グルコース濃度の測定法] フェノール硫酸法
 
1.試験管に試料1.0mlと5%(W/V)フェノール水溶液1.0mlを取り、混ぜる。
2.さらに、濃硫酸5mlを液面に直接あたるように勢いよく加える。ピペットの先端を太くして、硫酸が出やすいようにしておくとよい。
 ※ このとき沸騰するので火傷をしないように試験管の上の方を持つ。
3.10分間そのままの状態で放置した後よく混合し、さらに10〜20分放置する。
4.490nmの吸光度を測定する。
5.試料中のグルコース濃度は0.1mg/ml程度が適当であるので、上記の方法で既知濃度のグルコース水溶液(0.02〜0.2mg/ml)を用いてあらかじめ検量線を作成しておく。
 
※ 吸光度の測定は、ガラス製キュベットを使用する。プラスチック製だとフェノールで変質し白くなってしまう。
 
(反応)グルコースの2位と5位のヒドロキシル基が、濃硫酸により脱水し、 5−(ヒドロキシメチル)フルフラールになる。この分子中のアルデヒド基がフェノールと縮合し、発色する。
 
 
[エタノール濃度の測定法]
 
1.試料50.0 ml(一般的には100 mlを使用する)を取り、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和する。(酸性のままでは、脱水反応をおこして収率が悪くなる)
2.中和した試料に純水15mlを加えて蒸留し、留分を約45ml取り、50ml(元の試料と同じ体積)にメスアップして検液とする。共沸混合物として約96℃で流出する。
3.検液を50mlメスシリンダーに30ml程度取り、酒精計(または比重計)を入れて、その示度と液温から、Gay­Lussac氏酒精計表を用いてエタノール濃度を(体積%)を定める。
  比重計を用いる場合は、15℃における比重を測り、Windisch氏酒精表によってエタノールの容量%を求める。
 
 
[実験結果]
 
反応前
    グルコース水溶液     15.0%(W/V)  150 mg/ml  pH = 4.7
 
1時間後
   グルコース流入速度      80 ml/hr.   pH = 3.3
   流出液中のグルコース濃度  8.7%(W/V) 87 mg/ml(フェノール硫酸法)
       エタノール濃度 5.5%(V/V)(蒸留し、比重法で測定)
   二酸化炭素生成速度    1.60 L/hr.(5分間で測定,標準状態に換算)
 
 ※ 以上は、培養を20時間程した酵母固定化ゲルを使ったデーターである。もっと時間をかけて(48時間以上)培養し、グルコースの流入速度も50〜60 ml/hr.に落とせば発酵率も上がり流出液中のグルコースは2〜3%、エタノールは7〜8%にまでなるようである。
 
 
 
[ 考 察 ]
 
 グルコースの消費速度   C12 = 180
 
       (150−87)mg/ml×80 ml/hr.= 5040 mg/hr.≒ 5.0 g/hr.
 
        5.04 g/hr.
       ─────── = 0.028 mol/hr.
        180 g/mol
 
 二酸化炭素生成速度
 
        1.60 L/hr.
       ─────── = 0.0714 mol/hr.
        22.4 L/mol
 
 
 エタノール生成速度
 
    OH=46  エタノールの比重(15℃) 0.794 g/cm
 
        80 ml/hr.×5.5%/100×0.794 g/cm
       ─────────────────── ≒ 0.076 mol/hr.
            46 g/mol
 
 
 発酵率の計算
 
    12 → 2 COH + 2 CO
  分子量 180.16       92.14     88.02
 
          発酵液100ml中のエタノール(ml)×0.794×100
発酵率(%) = ───────────────────────
          発酵前の培養液100ml中のグルコース(g)×0.511
 
 0.794 : 15℃におけるエタノールの密度(g/ml)
 0.511 : 92.14/180.16
 
    5.5 × 0.794
   ───────── ×100 = 57%
    15 × 0.511
 
 
[アルコール発酵について]
 
 生物は、生命活動を営むために、たえずエネルギーを必要とする。「呼吸」とは、生物が有機物を分解してエネルギーを得る働きで、酸素を用いる好気呼吸と酸素を用いない嫌気呼吸とがある。地球上の多くの生物は好気呼吸によって糖質や脂質など呼吸基質を完全に酸化分解し二酸化炭素と水にし、エネルギーを得ている。嫌気呼吸に比べて呼吸基質の化学エネルギーの利用効率は極めて高い。たとえば、グルコースでは、
    12 + 6O = 6CO + 6HO + 2870kJ
の反応において発生するエネルギーの40.4%(1159kJ)を使って36〜38分子のADPをATPに変えることができる。
 酵母も酸素があるときには、アルコール発酵とともにこの様な好気呼吸も行っている。
 他方、酵母や乳酸菌などは、無酸素状態で培養すると、嫌気呼吸であるアルコール発酵や乳酸発酵をする。また、筋肉中や脳などの動物組織内で、酸素不足状態でグリコーゲンやグルコースが乳酸に分解される嫌気呼吸を解糖という。 アルコール発酵の現象は、古くからワインやビールなどの醸造に利用されてきた。しかし、そのしくみが明らかにされたのは、19世紀になってからである。この発酵が酵母菌の働きによるということは、L.Pasteur(1860)により初めて証明され、ついで、E.Buchner(1897)が、酵母の無細胞抽出液でもこの発酵が進むことを示した。この発見を契機として、酵素系の解析が進められた。
 酵母中に含まれる14種の酵素の混合物チマーゼ(Zymase)の作用によってグルコースは分解されてまずピルビン酸になる。(この反応経路は解糖と言われ約10種類の酵素が働く) その後、ピルビン酸は酵素デカルボキシラーゼ(decarboxylase)の作用による脱炭酸反応で二酸化炭素を奪われアセトアルデヒドになり、さらにアルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase)の作用でNADHから水素を受け取り(つまり還元されて)エタノールになる。
 
      2ADP
       ↓                  アセトアルデヒド
 C12 ──→ 2CH(CO)COOH ──→ 2CHCHO ──→ 2CHCHOH
  グルコース   ↓     ピルビン酸      ↓          ↑    エタノール
      4H+2ATP           2CO       4H
 
 この過程で、1分子のグルコースは、2分子の二酸化炭素と2分子のエタノールになったことになる。この反応の熱化学方程式は、
    12 = 2CO + 2CHCHOH + 234kJ
この反応で発生するエネルギーの26.1%(61kJ)を使って2分子のADPをATPに変えることができる。
 
 
[バイオリアクターの実用化]
 
 アルコール発酵(醸造)など微生物を利用した食品などの製造は有史以前から知られており、長い歴史を有するが、近年になり装置の小型化、工程の連続化、省力化、コストの削減などを目的として、固定化酵素や固定化細菌を用いた、バイオリアクターの開発が活発に行われている。
 酵素や微生物(あわせて生体触媒という)の固定化には、担体結合法(水不溶性の担体に物理的に吸着、あるいは化学的に結合固定化)、架橋法(担体を用いず生体触媒どうしを試薬で架橋して固定化)、包括法(高分子のゲルの中に包み込むか、半透膜性の被膜で被覆)の3つの方法がある。微生物の固定化には、この実験で用いた包括法がよく用いられている。
 これまでにバイオリアクターは、アルコール発酵だけでなく、L-アスパラギン酸(1973)、異性化糖(グルコースを果糖に変える)(1973)、低乳糖乳(1977)、L-アラニン(1982)、パラチノース(1985)、カカオバター様油脂(1988)など既に多数の工業的生産が実用化している。
 
 次世代のエネルギー源としてバイオマスエネルギーが提唱されている。これは、第一次石油危機を契機として、特に米国エネルギー省(DOE)が将来のエネルギー資源として化石燃料・核エネルギーと並んで太陽エネルギーを取り上げ、これを変換・固定化する手段として生物の機能が多いに期待でき、化石資源が枯渇した後を埋めるエネルギー源の一つとして再生可能な資源であるバイオマスが有望であるという構想を打ち出してからである。
 このバイオマスの処理技術として、固定化酵母によるバイオリアクター・エタノール発酵が注目されている。
 
 
 
[アルギン酸の利用]
 
    人工種子
 
 植物組織片を培養してカルス化(脱分化)したものを、植物ホルモン濃度の変化あるいは浸透圧の変化などにより再分化させると、不定胚といわれる胚様の組織が生じる。
 不定胚の形成には、まず組織をオーキシンを含む培地で培養してカルスを誘導した後、オーキシンを含まない培地に移植する方法がよく用いられる。
 この様にしてできた、不定胚または不定芽をアルギン酸・ゼラチン・カラギーナンなどのゲルのカプセルに封入すれば、人工種子ができる。さらに乾燥や微生物汚染から守る外部被膜をつくれば保存性がよくなる。
 
 
    ノーカーボン紙
 
 アルギン酸でタンニン酸入りのマイクロカプセルをつくり、ろ紙の上に置き、さらに硫酸鉄(V)水溶液を浸したろ紙を重ねる。上から、ガラス棒などでなぞると文字や絵が出てくる。
 
 
    pHテスター
 
 アルギン酸でpH指示薬入りのマイクロカプセルをつくり、調べたい液に入れるとカプセルに色が付く。
 
 
    人工イクラ(じんこういくら)作り
 
 下記の方法で人工イクラらしきものをつくってみた。食用色素(食紅)で着色すると、見た目にはイクラそっくりのきれいな粒々ができた。
 
[作り方]
@1%アルギン酸ナトリウム水溶液をつくる。加熱しながら溶かす。
  ※ 試食するので,10分以上煮沸殺菌する。
Aそれに濃縮ジュースやかき氷用シロップなどを同体積混ぜる。
B10%乳酸カルシウム水溶液にAの溶液を先を切って穴を太くしたスポイト で1滴づつ入れる。
C水道水でよくすすいで、食べてみましょう。
  ※ 使用する器具類もすべて,お料理するときのようにきれいに洗っておくか,殺菌消毒しておくこと。
 
▼ 塩化カルシウム(豆腐をつくるのに使うにがりの成分)で固めるとなめると少し苦い。しかし,乳酸カルシウムを使用するとそれほど苦くなく,おいしく食べることができる。
 
▼ カルピスを混ぜてみたが,すぐに固まってしまい,粒にできなかった。乳製品でありカルシウムイオンを含むためであろう。
 
人工イクラのような内部の軟らかい粒を作るために
1.アルギン酸ナトリウムを1/2の0.5%の濃度にする。
2.塩化カルシウムを2〜3%の濃度にする。(もっと薄くてもできるかもしれません。これは、多量に作ることを長いことやっているとだんだん軟らかくなってきたことから分かりました。)
3.塩化カルシウムから、すぐに引き上げて水で洗うこと。(こうすると外側は、膜を張っているが、内部は液体状態のものができる。)
4.できるだけ大きな粒にすること。(ポリエチレンのスポイトの先端を切り落として、管を太くすると大粒が滴下できる。)
 
 
[参考文献]
●大阪ハイテクノロジー専門学校編「第13回バイオテクノロジー講習会実習マニュアル」大阪(1990)
●「'95青少年のための科学の祭典」全国大会実行委員会編「青少年のための科学の祭典 実験解説集」(財)日本科学技術振興財団,東京(1995)p.66 "人工イクラつくりに挑戦!!"
●日本化学会編「楽しい化学の実験室U」東京化学同人,東京(1995) 1,900円
        p.20〜24 "マイクロカプセルをつくる" 大橋ゆか子執筆
●日本化学会編「化学便覧・応用化学編 第5版」丸善,東京(1995) 43,260円
   第U分冊 p.473〜479 11.12.4 天然多糖類(アルギン酸)
        p.674〜679 13.5.3  バイオリアクター
        p.746〜762 14.4   バイオマス
 
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