セメントの pH
 
ねらい
 建築・土木に、身の回りのいたるところで多量に使われているセメントは、水に溶けるとアルカリ性(塩基性)を示すことを確かめる。
 
準備と留意点
器具:ビーカー(200 ml)、薬さじ、ガラス棒、ピンセット、万能pH試験紙、上皿天秤、薬包紙
薬品:セメント(10 g)、純水
・セメントは、フイルムケースなどにあらかじめ10gずつ量り取っておいてもよい。
・家庭用セメント(灰色)1.3 kgで300円程度。
・生セメント(ポルトランドセメント)4 kgで900円程度。
 
操作と留意点
@セメント約10 gを200 mlビーカーにとる。
・このときセメントを舞い上げて、鼻から吸ったり、目に入れたりしないように注意する。
Aこれに約100 mlの純水を加えガラス棒でかき混ぜる。
B万能pH試験紙を2〜3 cmに切り取り、ピンセットではさんで、セメント液に浸し、すぐに引き上げ標準変色表と照らし合わせてpHを測定する。
・pH試験紙は、溶液に直接浸した場合すぐに引き上げること。長い時間浸しておくと、色素が水溶液に溶けていってしまい色がわからなくなってしまう。ガラス棒を液につけ、pH試験紙に1滴の液をつけてもよい。
・変色したpH試験紙を標準変色表と照らし合わせる操作もできるだけ手早く行うこと。時間が経つと、空気中の二酸化炭素などのためにアルカリが中和されてしまい実際より中性に近い測定値になってしまう。
・標準変色表は、印刷なので実際の試験紙の色と少し異なるので、直感で一番近い色を見つけるようにするとよい。
・ここではセメントを10 g用いているが、もっと少量で行ってもよい。ただし、セメントと水の割合は、変えない方が、pHの測定のためには扱いやすい。
 
後始末
・上澄み液は、アルカリ廃液として回収する。
中和後、多量の水にうすめて廃棄する。
・固形物は、紙などにくるんでゴミとして捨てる。
・セメントはアルカリ性が強いので、手に着くと皮膚が荒れやすい。実験後は手をよく洗っておくこと。
 
実験結果とまとめ
・セメントは、灰色の粉末である。
・セメントに純水を加えて混ぜると容器が熱くなる。
・水を加えてかき混ぜても溶けないで濁った懸濁液となる。
・純水を混ぜてしばらく置いておくとセメントが沈んで底にたまる。
・上澄み液のpHは約10〜11で塩基性を示す。
 
考察の例
・セメントに純水を加えると容器が温かくなることから発熱反応であることがわかる。これは、下記の反応式のようにセメントの成分の酸化カルシウムCaOが水と反応し水酸化カルシウムCa(OH)になるときの反応熱が原因と考えられる。
  CaO + HO → Ca(OH)
・セメントは、純水に溶けていないように見えるが、液が塩基性であることから、一部の成分が水に溶けていると言える。
・純水に溶けたのは、上記の化学反応式で生成した水酸化カルシウムで、少し水に溶けて電離し塩基性を示したと思われる。
  Ca(OH) → Ca2+ + 2OH
 
発展実験
[セメント液のpHを精密に調べる]
@pHの測定を万能pH試験紙でおおよそ調べたあと、その値から適当なpH試験紙を選んで正確なpHを測定してみる。
・AZY(アリザリンイエロー)あたりが適する。
 
[セメントと塩酸との反応を調べる]
@セメント約3 gをペトリ皿(または蒸発皿)に取る。
・蒸発皿の方が、底が白いので溶液の色を観察しやすい。
A10 %または3 mol/l塩酸を少量ずつ加えて、数分間観察する。最終的に塩酸は、全部で30 ml程度加える。
(結果と考察)
・塩酸を加えるとセメント粉末の多くは溶けてしまい、黄色味を帯びた水溶液になる。また、容器が温かくなることから発熱反応であることがわかる。
 これは、下記の反応式のようにセメントの成分の酸化カルシウムCaOが水と反応し水酸化カルシウムCa(OH)になるときの反応熱と、酸化カルシウムや水酸化カルシウムと塩酸との中和反応に伴う中和熱が原因である。
CaO + HO → Ca(OH)
CaO + 2HCl → CaCl + H
Ca(OH) + 2HCl → CaCl +2H
・塩酸を加えたときに少量の気泡が発生することがある。これは、成分の酸化カルシウムの一部が空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムCaCOになっていたため、次の反応で塩酸と反応し、二酸化炭素が生じたためであろう。
 CaO + CO → CaCO
 CaCO + 2HCl → CaCl + HO + CO
  また、発熱反応で水が沸騰していることも考えられる。
・反応後、黒褐色の粉末が溶液中に沈んで残されているのが観察される。これは、酸に溶けないケイ酸の化合物であろう。溶液が、黄色味を帯びているのは、成分の鉄(V)イオンが溶けているためである。
・この実験を1〜2 mol/l塩酸で行うとセメントの大部分が溶けないで残る。6 mol/l塩酸では、反応が激しすぎるのでやや危険である。
 
[セメントの固まり方をを調べる]
@セメント約20 ml、およびセメントと砂を体積比1:3で混ぜたもの約20 mlを水を加えて練り、それぞれをフィルムケースに入れる。
・加える水の量は、練ったときに流動性がわずかにある程度とする。
・同量の水を加えて練ると、砂を加えたものの方が流動性が大きい。
Aしばらく静置しておくと上部に水が分離してくるので傾けて捨てるか、ろ紙などで吸い取る。
・砂を加えた方が、初めは流動性が大きい(粘性が小さい)。固まる早さは、両者にほとんど差はない。わずかに砂を入れた方が、はやく流動性を失っているように感じられる。
B1時間以上たち、流動性がなくなったらフィルムケースから取り出し、放置し乾燥させる。フィルムケースをさかさにし、くずれない程度に床にたたきつけ、少しずつ移動させて取り出すとよい。
・フィルムケースに入れたままで置いておくと完全に固まって白くなるまでに数日を要する。また、両者の固まるまでの時間の差がわからない。
C完全に固まり白く乾燥するまでの時間を調べる。
D固まりを金床にのせ、ポリ袋などをかぶせて、ハンマーでたたく。その時の割れ方から硬さなどを比較する。
・セメントのみよりも、砂を混ぜた方が硬く崩れにくいことがわかる。
 
     (参考)最も硬いコンクリート


 
  セメント 砂利
体積比 1.0 3.2 5.5
質量比 1.0 2.7 4.2
とは、直径が2〜0.06mmのもの。
砂利とは、直径が2mm以上の小石に、砂の混じったもの。
・砂は、川砂または山砂(粘土質を取り除いたもの)を使用する。
・海砂や粘土質の混じった砂を使うと、その成分がアルカリ骨材反応を起こし、クラックができたり、硬化不良になったりする。
 
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