松瀬一族と河童祭   北松浦郡吉井町
 国鉄(※今は松浦鉄道)神田トンネル付近を流るる佐々川愛宕渕(あたごぶち)と称する淵がある。この淵近くで田の畦(あぜ)を塗っていると、河童が現われて先祖の尻にいたずらをするので、何度も追い払ったが、いうことを聞かないので河童の手を鍬(くわ)で打ち切って持ち帰り、石棺にしまいこんで隠した。

吉井町愛宕渕 1998/7/11 撮影
吉井町立石免・愛宕渕

 河童は手がないと困るので先祖のところに毎夜通って「悪い事は致しません。何とぞお返し下さい。手は七日間の内につがないとつがりません。松瀬家一統の子孫の末の世まで二度と悪い事は致しません」と哀願し七夜通ったので、これを許して手を返したのである。

 河童からは、よほど嬉しかったのであろう御礼に黄金の10文を貰ったのであるが、時の殿様の耳に入り一文を残して召上げられたのである

 河童から得たといわれる古銭は今も現存している。松瀬一統の内で誰かの家に保管されている。松瀬家をつぐ人でないと拝観することができない。残されている一文の銭は、いつの時代かにすり替えたものか、黄金の銭ではない。ほかに何かわけのあって替えられたものであろう。

 しかし残されている一文の古銭は、2000年以前の支那の珍しい貴重な古銭である。なおこの銭については、河童から一千文の銭を得たが、時の殿様の耳に入り三文を残して召上げられたとの伝説もある。  黄金とはいっていないので今残されているのが河童から得たのかも知れない。


 また松瀬一義家の先祖は河童神に奉仕する神官であったため、昔水難よけのお守り札を印刷していた。その版板二枚が現在家宝として残されていて、それには下記の如く彫刻されている。

一、水神宮御守   松瀬内大川五
一、吉田宮中水神宮御守 松瀬郡馬

御守1
お守り札
たて約30cmです
 
御守2
お守り札

 松瀬家一統は、各戸で毎年12月13日までの内に必ず河童祭の祭典を行なうことになっている。

 祭典の時は神箸12神ぶんを山枇杷(やまびわ)という樹で長さ一尺二寸の大箸(はし)が作られる。そして金属を使用せず作られた昔の一升桝にオコワを山盛りに入れて、桝の四隅に四神分の大箸を立てるのである。

 そのほかにおカケミ(※掛魚・カケメ)、神酒、おシトギ(※うるち米)、八神分の山批杷の大箸、里芋三個、種籾(たねもみ)一俵を新しいムシロに並べてお供えをする。神室内には金属類は一本の針釘でも置くことはできないので整理される。神室は一寸位を開き、後の戸障子は閉ざされる。当主のみが祈願をするのである。祭典お祝の食事に使用するお箸は、山枇杷のお著で、普通のお箸の長さのものである。食事の時一粒の御飯粒も落としてはならないと、特に厳しく言われる。しかも一統外の人に、祭事に作ったものを食べさせることは厳禁されている。万一それを食べると頭の毛がはげるといわれている。

 お祭りに使ったカマドの灰、食器の洗い水など特別の所に納め、決してそのままにすることはできない実に厳しい祭典である。

吉井町本宮神社 1998/7/11 撮影
松瀬一族の氏神・吉井町立石免の本宮神社

 そして毎年夏土用入りの前日に、松瀬一統は集合して「ほこら」に鎮座の河童神を拝礼し、一同はその年の祭り当番の家で、盛大なるお祝を受けるのである。

 要するに一般の祭典は公開し大いに祝福されるが、この河童祭は特色の祭神なる故に、公開をさけ秘かに行なわれる、世にも珍妙無類の不思議なる奇祭である。

「註」

 松瀬家一族の言い伝えに、河童と称することは禁じられている。川の人ということである。
 また、河を粗末にしてはならない。例えば河で洗濯する場合には、水の使用を水神に願ってから洗濯をする。河童祭の行事についても厳しい掟がある。この記事を書くのにも 伝説の厳重なる精神を尊重し、一族の人々の了解を得、また河童と呼ぶことにも、神のお許しを願い、初めて公開するのである。  (松瀬順一)

<吉井町郷土誌二版 郷土誌編纂委員会 吉井町教育委員会
二版昭和57年11月発行より 抜粋>



今年(1998年)は、7月19日にお祭りがありました。そこで一族(八軒)の人々に、このホームページへの掲載のご了解を得ました。
 またこの地区では、7月25日に「川祭り」がありましが、この日は「だんご」を食べ、泳ぎに行ってはいけない日です。

【 1998/7/11 現地を訪問してお聞きした、神秘なるがための逸話

 平成6年9月、松瀬一族の氏神様の本宮神社に泥棒が入り、「ひつぎ」の錠前を壊されました。 この「ひつぎ」の中は、「絶対見てはいけない」というがありましたので、誰も見たものはいませんでした。
 泥棒が入ったので、相談してしかたなく中を改めようということになり、中を見たものの、泥棒が何を盗んでいったのか全くわからず、布のハギレなどが残っていただけで、「たいした物は入っていなかった」そうです。

 ⇒吉井町 河童伝説その2 長渕の河童



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