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京都市基本構想
   (昭和58年7月26日議決)

第1 基本構想の目的

 京都は,美しい古都である。自然に恵まれ 千百有余年の歴史をもつ京都は,いまや,世界の多くの人々を魅了するはなはだ個性的な都市となった。
 しかし,京都は,ただ古い伝統を守っているだけではなく,将来に向かっての生き生きとした活動力をもつ都市として,たえず新しく再生しつづけなくてはならない。
 いま,京都は,かえってその古い歴史のゆえにさまざまな問題を抱えているばかりか,他の都市と同じように近代都市としての多くの悩みをもっている。
 このような二重の困難を克服して,京都がきたるべき21世紀に向かって大きく飛躍するためには,明確な理念を設定し,長期的な見通しのもとに,総合的な施策をたて,それを一歩一歩実行に移していくことが必要である。
 このような理念の設定は,過去においてもしばしばなされた。昭和25年の「京都国際文化観光都市建設法」の制定や昭和32年の「平和都市宣言」は,それぞれ京都という都市にふさわしい時宜にかなったものであった。
 さらに,昭和53年に行った「世界文化自由都市宣言」は,広く世界の文化をとり入れ たえず新しい文化を創造していく都市にしようとする高まいな理念の提示であった。
 いま,このような理念を,具体的な施策と結びつけるために,昭和55年(1980年)を起点として,おおよそ20年の将来を展望し,市政の基本方針であり,市民のまちづくりの指針となる基本構想を策定する。
 この構想は,そのような意図のもとにつくられたものであり,「第1 基本構想策定の目的」,「第2 まちづくりの目標」,「第3 施策の大綱」及び「第4 構想推進のために」から成り立っている。
 「まちづくりの目標」では,まちづくりの基調テーマと,望まれる都市像を示し,「施策の大綱」では,この目標を達成するための施策の方向を明らかにし,「構想推進のために」では,この構想を推進するための基本的な姿勢を示している。

第2 まちづくりの目標

 わたくしたち市と市民は,基調テーマにおいて,21世紀へ向かう新しいまちづくりの基本姿勢を示し,都市像では,五つの分野から成る京都の将来像を掲げる。

1 基調テーマ

伝統を生かし 創造をつづける都市・京都
    ―建都1200年をのぞむ市民のまちづくり―

 京都は,1994年に,平安京が創建されてから1,200年を迎える。その長い歴史を振り返るとき,先人たちは,建都以来幾たびかの試練にあいながらも,自らのくらしを守り高めるために,知恵と力を結集し,すぐれた伝統のうえに創造を加え,山紫や水明の自然のなかに,つねに個性あるまちを築きつづけてきた。
 近年の高度経済成長期においても,京都は,その影響に十分対応できない面もあったが,努めて保存と開発の調和を図り,伝統と個性を生かした独自の道を歩んできた。
 しかし,いま,きびしい社会経済情勢のなかで,京都」においても,都市問題がますます複雑化し,市民生活の安定と向上を妨げるさまざまな問題に直面している。すなわち,くらしの豊かさの一つの指標ともなる市民所得の伸び悩みや,京都を特徴づけ,その存在を確かなものにしてきた文化創造活動の停滞が,憂慮されている。また,環境の悪化や生活様式の変化とも関連して,人口や産業の郊外への流動が進み,市民の生活や諸活動の基盤である地域社会の構造を大きく変化させつつある。加えて,高齢化社会の急速な到来は,市民生活に広範かつ複雑な影響を与えていくことが予想される。
 そして,いまなお十分に解決されていない人権にかかわる問題が,市民すべての課題として存在している。
 これらの問題を克服して,京都の価値を真に生かし,市民のためにゆとりとうるおいのある豊かな社会を築くには,これまでの調和ある発展のうえに,さらに積極的な活動を展開して,生き生きとした新たなまちづくりを進めていく必要がある。
 わたくしたちは,基本的人権の尊重をまちづくりの基本に置いて,市民のくらしを守り高めるために,安全で快適に定住できる環境を整え,市民の連帯と共同の意識が息づく福祉の風土をはぐくみ,次代を担う子供や青年たちを育て,地域に根ざした産業を盛んにし,すぐれた文化を創造するまちを築く。
 さらに,京都都市圏はもとより,近畿圏や全国的広がりのなかで,学術,文化,観光,経済などの広域的機能を分担する近代都市としての発展を図り,世界の諸都市と平和のうちに交流を深め,すぐれた文化を創造しつづける永久に新しい文化都市を実現していく。
 わたくしたちは,明治期における建都1100年が京都近代化推進の一つの契機となったことを想起し,つねに先行進取の努力を重ねてきた先人たちのまちづくりの精神を継承し,間近に迫る建都1200年を飛躍のときとして,21世紀を切りひらく市民主体のまちづくりを進める。

2 都市像

歴史的風土と調和した住みよいまち
 ―美しい山河をたもち 安全で快適な居住環境を―

 京都は,美しい自然のなかに豊かな歴史を織り込み,人々を魅了する個性ある都市として発展しつづけてきた。
 いま,このすぐれた資産を継承し,さらに地域社会の特性を生かしたうるおいのある環境を創造し,明日の都市活動を活性化させるまちづくりが求められている。
 わたくしたちは,それぞれの地域において,公害がなく,安全で快適な環境を整え,地域の個性を生かしたまちづくりを進め,これらを連係して明日の京都を築く。とくに,地域社会が衰退しつつある都心部においては,市民の定住できる環境を整え,その活力を再生する。
 さらに,京都全体の都市活動を支える若々しい交通動脈を整え,自然と環境を守る自立的な供給・処理の体制「をめざす。また,これらの機能的整備にとどまらず,貴重な歴史的風土を将来の環境に生かし,後世に伝えるに足るすぐれた都市景観を創造し,個性豊かな美しいまちを築く。

健康で生きがいのある福祉のまち
 ―市民の連帯と共同の意識が息づく福祉の風土を―

 京都は,地域社会でつちかわれた福祉の風土を背景に,保健医療や社会福祉の面でも先駆的な取組を展開してきた,すぐれた伝統をもつまちである。
 いま,健康と福祉にかかわる市民の願いは,貧困や疾病に重点を置いたかつての施策の領域にとどまらず,市民生活のあらゆる分野にわたって広がりを見せている。また,人ロ構造の急速な高齢化への対応は,緊要な課題となっており,とくに,高齢者がその知恵や経験を生かすことができる社会の実現が求められている。
 わたくしたちは,市民一人一人がその個性と能力を生かし,生きがいにみちた生涯を送ることができるよう,その自立を妨げるさまざまな障害を取り除き,健康で豊かなくらしを築いていける条件づくりを進める。
 そのため,市民のライフサイクル(生涯にわたる生活周期)に対応して,健康と福祉にかかわる施策を体系的に整えるとともに,情報を拡充して,市民の選択に基づく主体的な参加を進め,心のふれあう地域社会をはぐくみ,総合的で系統的な市民福祉を確立する。

人間性をはぐくみ 未来をひらく教育のまち
 ―生涯にわたる学習と開かれた学術研究の場を―

 京都は,真理を探究する自由な学問の気風や教育に対する熱意が伝統的に生きつづけてきたまちである。
 いま,社会の進展に対応して,この伝統のうえに未来を切りひらくたくましい子供や青年たちを育て,市民の生涯にわたる学習の場を広げ,さらに学術研究の基盤を強化することが求められている。
 わたくしたちは,豊かな知恵と力と人間性をつちかい,高い人権意識と国際感覚を身につけ,個性的で主体的に行動できる市民を育てていく。そのため,家庭や地域社会での教育を重視し,学校教育を充実し,多様な社会教育を進め,これらの連携を図って,市民の生涯教育をいっそう推進する。
 さらに,学術研究機関の拡充強化を図り,すぐれた研究をはぐくむとともに,市民に開かれた研究の場としての活用を進め,明日の世界をひらく教育と学術研究のまちを築く。
 

豊かなくらしをめざす活力ある産業のまち
 ―手づくりの伝統と先端の技術による多様な発展を―

 京都は,産業の面においても,すぐれた伝統を生かしつつ,つねにその時代の最新の技術をとり入れて,発展しつづけてきたまちである。
 いま,我が国の経済をめぐる環境がさらに大きく変化していくことが予想されるなかで,京都の産業の進むべき方向を見定め,産業活動の活性化を図ることが求められている。
 わたくしたちは,多彩な人材,豊富な文化的資産,先端的な学術研究機関などを積極的に生かし,情報の流通を重視して,すべての産業分野において創造的な知識集約化を進める。また,産業間の有機的な連携を強めて,特徴ある製品の開発や既存産業の新たな展開を図り,次代を先導する新しい産業の育成に努める。
 このようにして,消費者の真のニ一ズにこたえる活力ある産業のまちを築き,市民の資質を生かした働きがいのある職場と望ましい所得を確保し,より豊かな市民のくらしをめざす。

創造性にみちた文化と芸術のまち
 ―自由な発想と世界との交流による飛躍を―

 京都は,日本文化創造の源として,日本人の一人一人が訪れたいと願う心のふるさとであり,すぐれた歴史と文化を世界に示す日本の顔である。また,四季の変化に富む自然のなかで洗練されてきた伝統文化は,市民の日常生活のなかに深く広く息づいている。
 いま,この豊かな資産を生かし,文化創造の活性化を図り,京都の文化をより高めていくことが強く求められている。
 わたくしたちは,このまちのもつすぐれた文化の蓄積-を背景に,市民のくらしのあらゆる分野において,創造活動を活発に展開し,その土壌のうえに新しい文化と芸術の開花をめざす。
 さらに,広く世界と平和のうちに文化を交流することによって,潜在する京都の文化力を引き出し,21世紀に向けて,世界のなかに永遠に生きつづける文化都市を実現していく。

 

 第3 施策の大綱

 わたくしたちは,この施策の大綱において,市民生活をめぐるさまざまな課題を,相互に密接な関連をもつ七つの部門にまとめ,まちづくりの目標を具体化し,これを実現するための施策の方向を示す。
 この大綱において,基本的人権の尊重は,各部門を貫く最も重要な課題であり,すべての施策を通して,市民人一人の人間としての尊厳の確保を図ることが必要である。とくに,同和問題をはじめ,女性,障害者及び外国人の人権の保障にかかわる問題については,総合的に取組を進めなければならない。
 なかでも,同和問題は,歴史的社会的理由により,いまなお一部の市民が市民的権利と自由を完全に保障されていないという重大な社会問題であり,その早期解決は,行政の責務であるとともに,国民的課題である。そのため,環境の改善,教育の充実,職業の安定,生活相談・生活指導及び市民啓発の拡充など,あらゆる分野にわたる総合施策を推進する。
 また,女性の地位向上は,調和のとれた社会の発展を図るうえで重要な課題であり,固定的な男女の役割分担を解消し,女性が生涯の生き方を主体的に選択でき,設計できるよう,男女平等の教育の推進,就業条件の整備と向上,社会参加の促進,健康の増進と福祉の向上及び家庭生活の安定を図る。
 障害者の自立の促進については,障害をもつ人ももたない人も,同じ社会に共に生きる者として,あらゆる分野において等しく参加できるよう,保健医療の拡充,教育・訓練の推進,雇用と就労の拡大,福祉サービスの向上及び生活環境の整備を進める。
 さらに,本市に居住する韓国・朝鮮人などの外国人についても,歴史的経過を踏まえた民族問題に対する正しい理解を深め,人権と自由の保障に努めて,生活の安定を図る。
 このように,市と市民のたゆみない努力により,すべての市民の自由と平等が保障され,だれもが健康で文化的な生きがいにみちた生活が営めるまちづくりを進める。

 1 健康と福祉

 (1)健康を基本とした生涯福祉を確立する

(ライフサイクル施策の推進)
 すべての市民が,その生涯を通して身体的,精神的かつ社会的に良好な状態をたもち,人間としてのくらしにかかわる願いが充足されるよう,健康を基本とした福祉のまちづくりを進める。
 そのため,市民一人一人の生涯にかかわる生活課題を基点として,ライフサイクルの展開に対応した健康と福祉に関する施策を総合し,系統化していく。

(健康の保持増進)
 市民が健康な生活を営むことができるよう,公害の防止,食品の安全性の確保など健康を阻害する社会的要因の除去に努め,就業条件の向上を促すとともに,自然を生かした快適な環境づくりに努める。
 また,自分の健康は自分で守るという意識を高め,保健情報や健康管理の機会の活用を図るとともに,自発的なスポーツ・レクリエーション活動を進める。
 さらに,だれもが,いつでも適切な保健医療サービスを受けられるよう,保健指導,疾病予防,治療及びリハビリテーションを総合的かつ系統的に供給できる保健医療システムを確立する。

(所得の確保と居住水準の向上)
 市民のくらしの安定と自立をめざして,就業の場の確保を図るとともに,公的年金,扶助,手当などの諸制度による生活保障の充実に努める。
 また,すべての市民が快適な住生活を営めるよう,居住水準の向上に努める。

(児童の福祉)
 子供たちが,その人格を尊重され,心身共に健全に育つよう,家庭,学校及び地域の協力によって,多様で豊かな成育環境を整える。
 そのため,単親家庭の増加などにより複雑化する児童の福祉需要に対応して,施設の整備と運営の改善を図り,児童にかかわる保健医療と福祉のサービスを拡充する。

(高齢者の福祉)
 高齢者が,自立をたもち,知識や技能を生かして,他の世代の人たちと共に充実した生活を営みながら,京都の良い伝統をいっそう発展させることができるよう,働きがいのある仕事の場や所得の確保,保健医療の充実などに努め,生活環境を整備する。また,介護などを要する高齢者に対して,必要な施策を拡充する。
 さらに,だれもが若い時期から生涯にわたる生活設計を進め,多彩な社会活動をつづけながら健やかに老いることができる社会環境づくりに努める。

(2)心のふれあう地域社会づくりを進める

(地域社会の形成)
 市民の連帯感を醸成し,交流の輪を広げて,心のふれあう地域社会づくりを進める。
 そのため,コミュニティ施設などを整備して,市民が愛着をもてる居住環境を整え,地域にかかわる情報を提供し,市民の自主的な諸活動の活発化を促す。

(地域福祉の確立)
 地域社会を基盤として,すべての市民が等しく参加し,互いに助けあい,生き生きとした生活を営めるよう,地域福祉の確立を図る。
 そのため,既存の福祉施設をはじめ,各種のコミュニティ施設を活用して拠点づくりを行い,ボランティア活動など多様な福祉活動を育成するとともに,相互の連携を図って,コミュニティ・ケアなどの福祉施策を推進する。

(3)健康と福祉の総合推進体制を確立する

(健康と福祉の施策の総合化)
 健康と福祉にかかわる多様な施策を総合的に推進するため,行政の各分野の連携を強め,市民の参加と関係者の協力によって,地域に根ざした健康と福祉のサービスのネットワークを整備する。
 そのため,必要な健康と福祉のサービスが包括的かつ有機的に機能するセンター行政の確立をめざす。

(情報システムの整備)
 市民が,健康と福祉にかかわるサービスを有効に活用できるよう,市民生活に必要な情報の整備や相談機能の拡充も含めて,情報システムの開発整備を図る。

2 労働と消費生活

(1)働きがいのある就業の場を確保する

(就業機会の確保)
 働くことは,人が人間らしく生きていくための基本的な権利であり,市民の働きがいのある就業の場の確保と雇用の安定をめざして,市民一人一人の能力を生かすことができるよう,多様な産業の振興に努める。とりわけ,多くの市民の働く場である中小企業の経営の安定を図る。また,人口構造の高齢化の進行,働く女性の増加など労働力の需給構造の変化に対応して,職業相談,雇用情報の提供,職業能力の開発など就業促進のための条件整備を進める。

(労働環境の整備)
 就業条件の改善と福利厚生の充実を促し,安全かつ快適に働ける職場づくりを進める。とくに,未組織労働者などに対する勤労者福祉施策を充実する。

(2)消費者の権利を守り,くらしの向上を図る

(くらしの文化の醸成)
 資源の浪費や環境破壊を招くような社会の傾向を反省するとともに,伝統にはぐくまれた生活の知恵を見直して,豊かでうるおいのあるくらしの文化を高めていく。

(消費者の権利の確立)
 消費生活の向上を図るため,自ら考え,行動する消費者としての意識を高めていくとともに,商品の安全性の確保,適切な商品選択の保障,消費者の意見の事業活動等への反映,消費生活に関する情報の公開など,消費者の権利の確保に努める。
 消費者被害に関しては,簡便,迅速かつ公平な救済が可能となるよう,被害救済システムの確立を図る。

(生活必需品等の安定供給と物価の安定)
 生活必需品等の安定供給と物価の安定のため,公正な競争関係の維持,物価の調査・監視体制の強化及び流通機構の整備を図る。

3 産業

(1)文化環境を生かし,産業の多様な発展をめざす

(産業発展の方向)
 長い歴史につちかわれた文化の蓄積と先端的な学術研究機能が共存する京都の文化環境を,すべての産業分野において積極的に活用して知識集約化を進め,独創的で質の高い製品やサービスの生産と提供を促す。
 また,京都にふさわしい均衡のとれた産業構造を確保し,生産と流通,伝統産業と近代産業など,産業間の多様な連携を強め,知識情報産業の役割を高めて,産業活動の高度化と活性化を推進し,新しい産業分野の開拓を促す。

(工業の振興)
 多くの分野に蓄積されている高度で創造的な技術と洗練された美的感覚を生かして,付加価値が高い技術集約的な都市型工業を育てる。
 伝統産業については,すぐれた生産システムや技法を継承,発展させつつ,生活様式の変化に対応したデザインや新製品の開発を促進し,需要の開拓を図る。
 また,伝統技術と先端技術など多様な技術交流を進め,技術力の向上や独創的な製品の開発を促す。

(商業とサービス業の振興)
 市民に身近な小売業やサービス業については,商品知識の豊富さなどの特性を伸ばして消費者のニーズにきめ細かに対応し,消費者との信頼関係を深めることを促して,その振興を図る。
 また,産業活動の高度化や円滑化に貢献する知識情報産業や卸売業を育てる。

(観光産業の振興)
 地場産業と多様な関連をもち,京都の経済に大きな比重を占める観光産業を振興するため,観光目的の多様化や個性化に対応して,歴史的風土にはぐくまれた観光資源の保全と活用を図り,現代の文化や産業と結びついた新しい観光の開発に努めるとともに,内外の人々を温かく迎え入れる態勢をつくる。

(農林業の振興)
 農林業は,生鮮食料品の安定供給,環境の保全な ど,市民の日常生活に大きな役割を果たしている。
 そのため,経営基盤の充実を促すとともに,土地条件に適した農林産物の生産を振興し,関連分野との連携の強化を図り,市民生活に溶け込んだ都市型農林業として育成する。

(2)中堅・中小企業を振興する

 中小企業を京都の産業活動の主要な担い手として積極的に位置づけ,その長所を伸ばすことにより,活動分野の拡大を図る。
 そのため,人材の確保と育成や資金調達力の強化を促すとともに,企業間の共同化・協業化を進め,経営基盤の充実を図る。また,大企業と中小企業の事業活動を調整しつつ,長期的な観点から両者の共存共栄を図る。
 技術や経営の革新など京都の産業活動に先導的役割を果たしている中堅企業についても,その育成発展のための条件整備を進め,地元中小企業との連携の強化を図る。

(3)産業活動を支える基盤をつくる

 輸送施設,流通施設及び供給・処理施設の整備充実に努める。また,広く世界に目を向けた市場開拓や創造的な技術開発を促進するための条件整備を進める。
 既成市街地に存立基盤をもつ小規模工場については,住環境の改善と一体となった生産環境の整備を進める。同時に,工場等の市域外流出の防止と新規の都市型工業の立地促進のための基盤整備を図る。
 また,地域商店街の整備など生活圏に対応した商業施設の充実と適正配置を図るとともに,広域的な役割を果たす商業・業務地を整備する。
 さらに,すべての産業分野において,その高度化に必要な情報機能を充実し,中枢管理機能の強化を図る。
 農林地については,市民生活に果たす役割を重視して,その保全に努めるとともに,生産性向上のための基盤整備を進める。

4 教育と学術研究

(1)豊かな文化に根ざした生涯にわたる教育を進める

(生涯教育の推進)
 市民一人一人が,それぞれの多様な能力に応じ,適切な教育を受けることができるよう,その機会を保障する。
 そのため,学校教育をはじめ,家庭や地域における教育,社会教育を充実し,これらの連携を強めて,市民が生涯にわたって学習できる態勢をつくる。

(学校教育の充実)
 学校教育では,各校種間の連携のもとに,学習指導,生徒指導など学校指導の充実を図り,教職員の指導力の向上に努めるとともに,学校と家庭や地域社会との結びつきを強める。
 さらに,子供たちが安全な環境で充実した学習を行うことができるよう,学校施設などを整備し,学校周辺の環境を整えるとともに,地域ごとに学校配置や学校規模の適正化に努める。
 京都の教育のなかで大きな役割を果たしている私学教育の振興を図るとともに,公私の連携と協調をいっそう進める。
 また,職業能力や教養の向上などに重要な役割を担う専修学校や各種学校の充実を促す。

(家庭と地域における教育の充実)
 人間形成の基盤となる家庭教育を重視し,その機能が十分発揮されるよう,家庭教育に関する情報を提供し,相談体制を整備する。

 また,地域において青少年が健全に育ち,市民が互いに学びあえるよう,社会環境の浄化,世代間の交流の場づくり及び指導者の育成を進めて,地域の教育機能を高める。

(多様な社会教育の場づくり)
 学術研究や伝統産業などあらゆる分野のすぐれた人材と,貴重な歴史的自然的資産を積極的に活用して,市民の学習意欲に対応した多様な社会教育を推進する。
 また,図書館などの各種社会教育施設を体系的に整備充実する。

(2)開かれた学術研究の場づくりを進める

(学術研究機能の充実)
 学術研究都市としての基盤をさらに強化するため,大学や学術研究機関の拡充整備を促すとともに,国際的な学術研究機関などの誘致と育成を図る。
 さらに,京都府南部に構想されている学術研究都市をはじめ,内外の研究機関との連携を深めて,我が国における学術研究の中枢都市としての機能をいっそう強めていく。

(市民と結びついた学術研究)
 市民の生涯教育の観点から,大学や学術研究機関がさまざまな教育の機会を広く市民に提供することを期待する。
 また,学術研究のすぐれた成果を市民生活の向上や地域の産業の発展のために役立てるように努める。

5 文化

(1)伝統文化を継承し,くらしに生かす

(日本文化のふるさと)
 伝統文化が市民の生活や産業のなかに生きつづけて発展し,つねに新しい文化が創造される日本文化の永遠のふるさとをめざす。

(伝統文化の継承と発展)
 伝統的な芸能,美術,工芸などを継承,保存し,市民生活に身近なものとしてその発展を図るため,鑑賞や参加の場づくりを進めるとともに,継承者を育成する。また,建造物,庭園,史跡などの歴史的資産の保全を図り,都市空間のなかに積極的に生かしていく。
 さらに,地域に根ざした伝統行事や芸能についても,市民の積極的な参加により,その継承を図る。

(2)地域に根づく文化とスポーツ活動をはぐくむ

(市民の文化活動)
 市民の自主的な文化活動が,地域社会において,さらにこれを越えて広範かつ活発に展開されるよう,多彩な振興事業を進めるとともに,文化施設の計画的整備を図る。

(市民のスポーツ・レクリエーション)
 健康増進と体力づくりのため,また,地域社会の交流にも資するために,地域におけるスポーツ・レクリエーション活動を振興するとともに,地域の体育・スポーツ施設から国際競技施設に至るまで,体系的に整備を進める。

(3)多様な芸術を創造する

 芸術のあらゆる分野にわたって,人材の育成と定着を図り,出版,デザインなどの関連産業との連携を強めて,文化創造活動の活性化を促す。
 高度な芸術が上演できる劇場の設置や各種展示施設の整備充実を進め,出版,放送などのマスメディアの積極的な活用も図って,市民が質の高い芸術に接することができるように努める。
 このようにして,市民の文化的素養を高め,その土壌のうえに新しい芸術の開花をめざす。

(4)世界との文化交流を推進する

(市民の手による交流)
 姉妹・友好都市をはじめ,広く世界の諸都市との友好を深めるため,海外からの来訪者や留学生を受け入れる態勢を整え,交流のためのボランティア活動の活発化を図るとともに,あらゆる分野での市民の手による幅広い交流を進める。

(文化交流の基盤づくり)
 日本及び日本文化に関する高度な研究機関,外国文化センターなどの国際的文化交流機関の誘致と育成を進め,これを拠点にして文化交流を促進する。
 さらに,世界の高度な芸術,民族芸能,スポーツなどを紹介する多彩な国際的催しの開催を進め,交流の気運を高めて,市民と内外の人々とのふれあいの場を広げる。

6 安全と供給・処理

(1)災害に強い安全な都市をつくる

(総合防災体制の確立)
 市民の生命と財産を災害から守るため,防災意識の向上を図り,自主的な防災組織を育てるとともに,地域ごとに防災センターを設置し,これを拠点として災害時の避難誘導,物資の備蓄などによる市民生活の確保を図る。さらに,災害に強い安全な都市構造をめざして都市整備を進め,総合的に対応できる体制を確立する。

(地震・火災対策の充実)
 災害時における被害を最小限にとどめるため,建築物や都市施設の耐震化と不燃化を効果的に進め,安全な避難路,避難空地などを確保するとともに,消防力の強化充実を図る。

(治山・治水機能の向上)
 山紫水明の風土を保全し,台風,集中豪雨などによる被害を防止するため,治山・治水機能を高めるとともに,危険地での開発を抑制し,低温地での浸水害対策を進める。

(2)公害のない快適な環境をつくる

 公害を防止して快適な環境を確保することにより,市民の健康を守り,あわせて,自然を良好な状態に保全する。そのため,公害の発生に対する監視や指導の強化などにより,環境保全基準の達成に努める。
 また,環境に著しい影響を及ぼす事業については,環境影響評価を行うとともに,環境保全に関する情報システムの充実を図り,総合的な管理体制の確立をめざす。

(3)水・エネルギーの安定した供給と排出物の自立的な処理をめざす

(水の供給)
 市民生活にとって不可欠な水を安定して供給するため,必要な水源と水量を確保し,その水質の保全に努めるとともに,供給施設を整備する。また,限られた水資源の有効利用を促進するため,その啓発と普及に努める。

(エネルギーの確保と節約)
 エネルギーの安定的確保のため,エネルギー需給の的確な把握に努めるとともに,供給施設の整備を促進する。また,省資源・省エネルギーの啓発と普及に努めるほか,ローカルエネルギー(地域にある小規模エネルギー)の開発と利用を促し,エネルギー源の多様化を図る。

(廃棄物の処理)
 市民生活や産業活動における廃棄物の発生量の抑制を促し,再資源化,エネルギー化を進めて,その排出量の減少を図る。また,収集と処理については,科学的研究を進めるとともに,行政と事業者の役割分担を明確にし,周辺の環境と調和した処理施設の配置,最終処分地の確保などに努め,総合的で自立的な体制の確立をめざす。

(下水道の整備)
 市街地及び市街化予定の区域において,下水道の完全普及を進め,生活環境の向上と公共用水域の水質保全を図る。また,高度処理を含めた多面的な技術開発を進めるとともに,周辺の環境と調和した処理施設を整備する。

7 都市空間の整備

(1)都市活動を支え,自然を生かす土地利用を進める

(土地の計画的利用)
 土地のもつ公益性を基本に置き,京都の歴史的自然的特性を生かしながら,将来にわたる都市活動を十分に支えることができるよう,地域の特性を配慮して,計画的な土地利用を進める。とくに,市街化に当たっては,自然的土地利用との調整を図る。

(秩序ある市街地形成)
 すでに市街化された地域では,再整備を図って,人口や産業の定着を促し,無秩序な市街地の拡大を防止する。
 また,新たな市街地では,近郊農林地との調和を図りつつ,土地条件を勘案して秩序ある市街地の形成を図る。とくに,南部地域においては,都市型産業の立地を促すとともに,都心機能を育成する。

(自然地の保全と活用)
 近郊農林地は,生鮮食料品などの生産地として,また,歴史的自然的環境の保全,防災,レクリエーションの場など多様な機能をもつ緑地として,保全に留意する。
 過疎化の傾向が著しい山間地域においては,農林産物の生産地や市民のレクリエーションの場としての機能を高めるとともに,交通条件の改善など生活利便の向上を図り,定住できる環境を整える。

(2)若々しい交通動脈をもち,安心して歩けるまちをつくる

(幹線交通施設等の整備)
 都市活動を活性化させるため,鉄道網,幹線道路網などを整備する。
 鉄道網については,市民の足を支える動脈として,新線の建設や既設鉄道の輸送力の増強を進める。
 道路網については,市民生活,業務活動などの多様な交通目的に対応するため,広域幹線道路,市内幹線道路,生活道路などを整備する。

(公共交通の拡充)

 鉄道,バスなど民営を含む公共交通機関が,すべての市民の足として安全かつ円滑に機能するよう,公共交通体系の整備と拡充を図る。
 そのため,路線網の拡充と乗り継ぎターミナルなどの施設の整備を進め,利用者の立場に立った運用を図るとともに,専用レーンの延長などによって,優先走行を確保する。

(自動車の合理的利用)
 将来の交通需要に対応するためには,道路の整備と共に自動車の秩序だった利用を図る必要がある。
 そのため,適切な土地利用と都市施設の配置により,自動車交通の発生の抑制を図る。
 また,マイカーから公共交通機関への転換や物資輸送の共同化などにより,自動車交通量の増大の抑制を図る。
 さらに,都心部,観光地などの交通混雑を解消するための駐車場を適切に配置し,道路交通規制なども含めて総合的に対応し,自動車交通の円滑化を図る。

(歩行者空間の拡充)
 すべての市民が安全で快適な戸外生活を営めるよう,また,憩いとふれあいの場として活用できるよう,歩行者道路網の整備を進め,多様な広場の拡充を図る。
 また,身近な生活交通手段としての自転車の秩序だった利用を図るため,必要な施設の整備を進める。

(3)快適な生活が営める居住環境を整える

(住宅と住環境の整備)
 市民が快適な住生活を営めるよう,居住水準の向上をめざして,良質な住宅の供給を進める。とくに,住宅困窮者などに対する公的な施策の拡充を図る。
 また,既成市街地では,良好な住宅の活用と環境の保全を図るとともに,老朽化した密集市街地の環境の改善を促進する。新市街地では,住宅地を計画的に整備して宅地と住宅を供給する。
 さらに,市民の創意と工夫のもとに,町家の伝統を生かし,現代の住生活に適合した新たな都市住宅の創造を図るとともに,住環境の保全と改善のためのルールづくりを進める。

(住区と生活圏の整備)
 快適な住環境と地域社会づくりをめざし,市民の日常徒歩生活圏を住区として,学校,公園などの施設を整備する。
 さらに,地理的,社会的につながりのある幾つかの住区をあわせて一つの生活圏とし,この圏域ごとに,日常生活が充足できるよう,福祉,文化などの生活圏施設を整えるとともに,商業機能やサービス機能の充実を図る。また,より広い利用圏をもつ公共・公益施設を配置して,地域の特性を育てる。

(魅力ある都心づくり)
 京都の歴史をつくり,文化を支えてきた都心部において,その地域社会の衰退を防止し,活力と魅力ある都心づくりを進める。
 そのため,若年層を含めた居住者が可能な限り定着できるよう環境づくりを進めるとともに,都心業務,商業,伝統産業などの基盤整備を図り,職住の共存する都心の形成を進める。
 また,歩行者空間の拡充に努め,多くの市民の憩いとふれあいの湯として整備を図る。

(公園と緑地の整備)
 戸外生活や自然に親しむ場として,また,防災や避難の空地として,緑地の確保に努める。
 さらに,スポーツや子供たちの遊びの場として体系的に公園整備を進めるとともに,周辺部に野外活動の場を整備し,歴史の道や緑道の整備を図る。

(4)美しい都市景観を創造する

(景観の保全と創造)
 京都の景観の重要な要素であり,市民の意識とも深いかかわりあいをもつ山並み,自然の息吹を市街に伝える河川など,豊かな自然景観の保全を進める。
 また,山ろく部などの自然と文化財が一体となった環境を保全するとともに,市街地のすぐれた歴史的な町並みや景観などの保全修景を進める。
 一方,市民の積極的な参加を得て,景観整備のルールづくりを進め,それぞれの地域にふさわしい個性豊かな景観を創造する。

(緑と文化のネットワーク)
 市街地に点在する文化財,山ろく部の樹林に囲まれた文化財群,市街を流れる河川,さらに,公園や文化施設を緑道などで連係し,緑と文化のネットワークを組み上げる。これによって,京都のまちの個性をいっそう高め,市民と来訪者のために魅力ある文化と憩いの場を提供する。

 

第4 構想推進のために

 この構想の推進を図り,新しいまちづくりを進めていくためには,市はその責務を自覚し,市民はその役割を認識し,両者が一体となって,総力を結集することが必要である。

1 市民本位の市政

 都市の主体は,市民である。市は,この基本的認識のうえに立ち,さまざまな困難を克服して,市民本位の市政を推進しなければならない。

(1) 市は,市民のニーズと時代の変化に柔軟に対応できるように,職員の意欲を高め,能力を生かすと ともに,総合的,計画的かつ効率的な市政の執行体制を整備する。

(2) 市は,市民参加の積極的な推進が図られるように,市民に身近な区政の充実に努めるとともに,広報広聴活動をいっそう拡充し,情報の公開を進め,市民参加の基盤となる地域社会づくりを促進する。

(3) 市は,自主的かつ積極的な都市の運営が行えるように,自らの創意と工夫に基づいて効率的な行財政の推進に努めるとともに,事務の適正な配分,権限の強化,財源の拡充など,大都市の特性にみあった行財政制度の改革を国に要請する。

(4) 市は,増大する広域的な課題に対応できるように,関係府県及び近隣市町村と協力して,相互の自主性を尊重しつつ,問題の解決に努める。

 また,大都市に共通する課題にいついては,大都市間の連携を強化して解決を図る。

2 市民参加の推進

 市民主体のまちづくりは,市民参加を基盤としている。市民は,このまちを愛し,このまちづくりを担う意欲をもって,その英知とエネルギーの幅広い結集に努める。
 そのために,市民は,自立の精神を養い,自治の伝統を生かしたさまざまな市民参加のあり方を探究して,市民参加を積極的に推進するとともに,市と協力して問題の解決に取り組んでいく。

 

 わたくしたちは,ここに基本構想を策定した。この基本構想が,市民の一人一人によく理解されるとともに,国,府などの関係機関によって尊重されることを期待する。
 この構想に基づいて,市政の各分野における施策を具体化するための計画が速やかに策定され,その計画が実現に移されなければならない。
 すぐれたまちづくりは,高い理想と,その理想を現実化する知性ある行動力によってのみ可能である。
 わたくしたちは,この構想に基づく新しいまちづくりを着実に実現していくことを決意する。

 

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