ブライアン・メイ来日コンサート

(15th NOV. 1998)

私はそれを「優しさ」とみた

3時ごろねこ娘さんと共にIMPに着き、うろうろ歩き回った後、マクドで落ち着く。
食事は「ジョンっぽく」アイスティー&チーズバーガーセット。「赤のチェックのシャツ」を
当日の服装に選んだところも「いかにも」って感じである。
クイーンのシャツを着た外人さんを見つけたりして盛り上がる。ちなみに会話の内容は、
いつも通りフレ&ジョン。誰のコンサートやねん、今日は(笑)

5時30分くらいに、駅にMASAさんを迎えに行こうと外に出る。もう暗くなっていたので、
迷いながらホールの裏口付近から出たのだが、人だかりができていて驚いた。
「何の行列でしょうねえ」
「ブライアンが楽屋入りするのを待ってんのかなあ」
実際は皆入場するために並んでいたのだが、のんびりした2人は
「それじゃ、ちょっと偵察に」などと人込みに近づいていった。遠くから見ていると
本当に何を待っているのか分からない集団に見えたのだが、近くに行っても、
とても礼儀正しいというか、おとなしいというか、年齢も性別もいろいろで、
ひたすら不思議がる2人であった。

syo-koさんやBraveさんを探すには余りに人が多いし、そろそろ駅へ行かなあかんしなと
考えながらふと視線を上げると、一台のタクシーから数人が降りてきたのが見えた。
中の一人は真っ赤なジャケットを羽織っていて、髪型は…
「ぶ、ブライアン!ブライアンやん、あれ!」
しかもこっちをちらっとみて、お辞儀をしてくれた(ように私には見えた)ものだから、
ミーハー丸出しで喜んでしまった。が、騒いでいたのは我々だけのようで、所詮は
えせブライアンファンのキワモノかもしれん、と思ってしまった一瞬でもあった。
思わぬところでブライアンを覗き見たことで、「これもフレディの遺影(彼女は胸に
フレの写真を抱いている)のおかげですわ〜」と喜ぶねこ娘さん、「きっとジョンの
おかげやわ〜」と理由もなくジョンを引き合いに出す私は妙にハイテンションで駅へ向かい、
MASAさんに報告したのは言うまでもない。

6時ごろ会場に戻り、中からホールへ行こうとすると、外で並んでくれとのこと。
番号順に入っていくのだが、500番台は結構うしろだった。中はロープか何かで区切られて
いるのかと思いきや、だだっ広い空間がスモークで煙っている状態。真ん中にいたのでは
人に埋もれて始まる前に息切れしてしまいそうな気がして、右端の、柵に寄りかかれる
位置に移動した。BGMには昔の曲が流れている。以前買ったオムニバスの2枚組CD
「WE WILL ROCK YOU」に入っていた曲が多かった、ということは60年後半〜70年のか。

開始は20分くらい遅れたのだが、周りの人とおしゃべりできたので楽しかった。
側にいたお兄さんに誰が好きなのか聞くと、フレディの次にジョンが好きなんだという。
そこでがっちり握手して盛り上がり、持参していたフラッシュ・ゴードン当時のMLを
広げていると、「このLP、持ってるわ〜」と隣の女の人が会話に加わってくれた。
クイーンのコンサートも行ったというこの方もまたジョンファンで、「彼が実は
結婚してたと知ったときは一晩中泣いたわよ〜。しかも今は4人の子持ちでしょう?」と
おっしゃるもので、「いや、今は6人なんですよ〜」といらんことを付け足しもした。
コンサートを生で見た人にずっと聞いてみたかった質問、「ジョン、どんなでした?」
に対して彼女はジェスチャー付きで答えてくれた。
「たまにね、てってって〜と前に出てきて、こう、手をぺろぺろなめながら弾くの」
…そうやったんか、やはり(笑)
本当はブライアンファンの人にいろいろ質問したいと思っていたのに、周りがこういう
状態なのでそれは叶わなかった。きっと、いかにもジョンファンが集まりそうな
「端っこ」という場所が悪かった(幸いした?)のだろう。

待ちかねた我々はスタッフのおっちゃんが出てきてギターの調整するのにも歓声を
あげてしまっていたのだが、ようやく、「テネシーからきたブライアンの生き別れの
従兄弟登場!」とかいう日本語アナウンス(だったか?)のあと、真っ赤なジャケットで
60年代の髪型&グラサンの人物がチューインガム食べながら出てきた。
掲示板で「あれはブライアンなんだよ」とあったので、「そういや鼻がブライアンやん」
と思ったが、なんだか別人のようにも見えた。「COM'ON BABY」のあとで左に消えると
同時に右側の幕の内側から見慣れたカーリーヘアがギターをもって現れたので、
いつ早変わりしたのか分からなかった。もしさっきのが単なる前座の兄ちゃんだったら
エエ加減にせえよと言いたいが、いろんな事がしたかったブライアンのお茶目な姿だと
信じたい。歌うまかったし。彼は、彼等は、いつだって「エンターテイナー」なんである。

「SPACE」で登場したブライアンはCDで見たタンクトップ姿で、意外に筋肉質な肩や腕が
頼もしかった。声の調子が悪いのかと心配していたが、これも想像よりずっといい声だった。
右からではベースのニール・マーレイはほとんど見えんかったが、はっぴに
カウボーイハットの金髪のジェイミー・モーゼスはかっこよかった。ドラムのエリックは
始めから上半身脱いで頑張っていた。
「CHINA BELLE」の後、(たしか「GIMME THE PRIZE」のバグパイプ風フレーズが聞けた)
ギターを換えたりちょっと間があって、左にいた「ジャッカル」のB・ウィリスみたいな
金髪・グラサンのキーボードのおっちゃんが「次何するんだよ?」って聞く場面があった。
後で紹介されて、それがあのスパイク・エドニーと知ったときには驚いた。
「そりゃあ、私たちが見ているビデオはかれこれ10年も前のだから」MASAさんの言葉で
時の流れを実感したものの、そう考えるとブライアンのほとんど変わらぬ姿に感動を覚える。
「FAT BOTTOMED GIRLS」から「SHOW MUST GO ON」までのノンストップ・クイーンソングの
嵐に、大声で歌った。「I WANT IT ALL」「TEAR IT UP」「HEADLONG」があったと思うが、
個人的に好きな「I WANT IT ALL」と「SHOW MUST GO ON」は、ファンになりたての1990年、
「今度来日してくれたら一緒に歌うんや!」とかなわぬ夢を見ていた思い入れがあったので、
生でブライアンと一緒に歌えて嬉しかった。「SHOW MUST GO ON」は悲しくなるから
マズイんとちゃうかと思ったが、ブライアンの演奏と声はびっくりするほど力強かった。
彼もふっきれたのかもしれないと思った。

このあとニールのベース・ソロがあった。きれいなメロディーを弾いてくれて、
ベースって、こんなにいろんな音がでるねんなあと感心したのは確かだが、胸中は
複雑だった。さっきのクイーンメドレーでは「フレディが歌ってたらなあ」とかは
思わなかったけれど、こういうソロはいけない。これが、ここにいるのがジョンだったら
…「み、見えへんよ〜!」って別の意味で泣いていたかもしれないので、おあいこか。
どんなベースなのかもこの場所からは見えなかった。背が低いのは辛い。

ブライアンがアコースティック・ギターで登場した。「Do you wanna sing?」
もちろんやでブライアン!「デハ、アイマショウ」…はあ?戸惑う我々。
それに気づいたブライアンが「OH!」と叫んで訂正する。
「Sorry, ウタイマショウ。Is that right?」オッケー!
敬語でしゃべるあたりがブライアンである。このほかにも、「オツカレサマデシタ」
「アリガトウゴザイマシタ」とやたら礼儀正しい。
で、「LOVE OF MY LIFE」。「コレハ、フレディノキョクデス」おおーっと盛り上がって、
イントロに入る。思わず初めから一緒に歌ってしまったが、これはサビしか歌ったら
あかんのかと後で気づいて赤面した。音をとるのが意外に難しかった。途中、
いろんな感情が一気にあふれてきて、涙声になってしまった。目の前にかわらぬ
ブライアンの姿がある。その横で、おおきく腕を広げて我々の音頭を取ってくれたで
あろう人の姿を想うと、彼と一緒に歌えなかった悔しさ、悲しさと共に、でも今は
こうやってブライアンと歌っているんだという嬉しさがごっちゃになって、
たまらない気持ちになった。

そのあとの記憶があいまいなのだが、「大阪のハイストリートでギターを買ったんだ」
「とても安くて、たしか1000円くらいだった」「知ってのとおり、僕はunplugedだと
不安なんだ」「このギターはちゃんと鳴るんだが(と言ってボロロンと鳴らす)、
たまにこんなふうになってしまう(エレキの音がでてびっくり)」というおしゃべりが
あって、…あれ、なんの曲だったっけ?「DRIVEN BY YOU」「LAST HORIZON」
「ON MY WAY UP」「'39」のさわり、「RESURRECTION」などが、間にジェイミーのソロを
挟んで演奏された気がする。で、「HAMMER TO FALL」のスローバージョン。
これを来日記念の「レッドスペシャル」で聴いた時は、オリジナルとライヴ版が
とても好きだった私はよい印象を持たなかったのだけれど、生で聴くと、最後の
盛り上がりが際立っていて、腕をぶんぶん振り回してのってしまった。

それからエリックの激しいドラム・ソロがあって、(この次に「RESURRECTION」
だったっけ)いつものブライアンのソロ。レッドスペシャルがうなるはじける。
スピーカーに近い位置にいると、普通は耳障りなはずなのに、音が柔らかいように思える。
ビデオだといつも早送りするけど(笑)、口をあけて見とれていた。

ズンズンチャ、ズンズンチャ、と懐かしいリズムが聞こえてきた。「ラジオ・ガガ」の
手拍子はかなわないけど、これをやれるのは嬉しいな〜と腕を上げていたら、
イントロだけでかなりしんどい。しかも難しい。みんなすごいタフやなと思った
(オマエがどんくさいだけやろといわれそうだが)
ほんまやったら次はあの曲やねんけどなあと少ししんみりしていると、
「TIE YOUR MOTHER DOWN」。肩を組んで飛び跳ねてる我々3人だった。

アンコールの催促、「ブライアン、ブライアン、…」は手拍子ととても良く合う
フレーズだと変なところで感心していた。ブートでも、彼へのコールを一番よく
耳にするのはそのせいか。(だって、「ジョーン、ジョーン、…」って言いにくい
もんなー。損してるよなーって、またここで引き合いにだしてどうする)

アンコール1回目は、CD表紙の木をモチーフにしたイラストが描かれた幕(ブライアンが
「セクシーだろ?」と言ったので「セクシーってかあ?ただの木とちゃうんかいな」
と突っ込みをいれてよく見ると、女の人になっていた。あとで写真をみたら、たしかに
セクシーな木だ)の前で、「ANOTHER WORLD」。「日本語では、「ベツセカイ」と
いうんだって?」と言われて初めて、「おお、別世界。よい響きだ」と感心した私は
所詮ボキャ貧だ。(だって、CDは輸入盤やねんもん、と言い訳)
それから、「ALL THE WAY FROM MEMPHIS」。とてもノリのよい曲なのだが、
これが最後というのはなんとなく寂しい、そもそもなんで「BUSINESS」がないねん!
とちょっと思った。となりでねこ娘さんは「TOO MUCH LOVE WILL KILL YOU」はないのか〜
と叫んでいた。

2回目のアンコール、なかったらどうしようと不安だったけど、ブライアンは着替えて
(さっきは白のシャツ、今度は黒かワインレッドかのガウンっぽい服)登場してくれた。
「今夜が日本最後の夜なんだ。寂しいよ」ううう、私も。「でも、近いうちにまた来るよ」
「おしまいに特別な歌をうたおう」イントロでみんなが歓声をあげた。実をいうと私は
「華麗なるレース」を今年の夏に買った(いちばん最後まで敬遠していたのが、これ。
理由は別になかったのだが)ので、「手をとりあって」の出だしでぴんとくるには
至らなかったモグリである。それでも、「LOVE OF MY LIFE」に劣らぬ感動を持って、
声をはりあげていた。愛する人と愛する歌に囲まれて、手を取り合ってどこまでも
行ってやる〜ここにいてよかった〜来てよかった〜と脈絡なく思いながら。
家に帰って改めて歌詞を見て、この曲をアンコールに選んでくれたブライアンの
優しさに泣いた。こんなに胸を打つ曲だとは思っていなかった。

今回の私は、ブライアンにクイーンを重ね、叶わなかった夢の続きを見た気分になった。
残されたメンバーの中で、おそらく最も前向きに自分自身の音楽的キャリアを
築き上げていこうとしている彼が、最も過去に縛られている(縛っているのだ、
私みたいなファンが)という現実。しかしブライアンは、それでも優しく、礼儀正しく、
そんな要求に応じてくれたような気がする。ああそうなんだ、これこそが彼の魅力なんだ、
と思った。

これまで、ブライアンだけは、好きな理由に苦労していた。彼のハードな曲は好きだし、
人物も嫌いではないのだが、ギターにうるさくて少々頑固で優等生で、他のメンバーに
比べてあまりにもキャラクターがはっきりしている部分が逆に敬遠を招いたのだ。

両親、親友、愛する人たちを失ってなお、ブライアンは音楽の道をゆく。
それが運命であるかのように、ただひたすら、断ち切れない鎖を一身にひきずり、
過去と未来の境界を、歩み続ける。私は、そうせざるを得なかった彼の不器用にも
みえる純粋さを想う。彼の孤独を想う。そして、クイーンの曲を演奏するのは
「媚び」ではなく、彼の「優しさ」だと、私は実感した。

ところで、フレディの死と共に自分自身の音楽の扉を閉ざしたジョンに、私は彼の
深い喪失感をみている。ブライアンやロジャーのように世間に言葉を残さなくなった
彼の「思い」こそ、最も癒されないものだと考えていた。
だが、公に語ることを義務づけられ、愛器からクイーンの音を消し去ることは不可能な
ブライアンの「思い」、ロジャーの「思い」、3人に優劣はあるだろうか。
彼らはそれぞれ、その音楽がそうであったように、余りにも違いすぎる。

「近いうちに来るからね」最後にまた、ブライアンはそう約束してくれた。
彼の「近いうち」がたとえ何年先であっても、足を運ぶだろう。そのとき、
何を想って彼に会うのか、分からない。しかし今度は、「クイーンの」という形容なしで、
ブライアン・メイを受け入れられる気がする。その一方で、おそらく流れるであろう
クイーンナンバーを、穏やかな気持ちで歌える気もする。ブライアン自身のように。

最後に、この感動を分かち合えたMASAさん、ねこ娘さんに感謝したい。
3人で共有した特別な時間は、いつまでも心の奥で輝きを失わないでしょう。
あんなに盛り上がれたのは、2人のおかげです。ほんとにありがとう。
できればまた、一緒に思い出を作りましょうね。(次はブート屋巡り?)

(曲目リスト)
INTRO
ONLY MAKE BELIEVE
C'MON BABE
SPACE--SINCE YOU BEEN GONE
CHINA BELLE
Medley:
--FAT BOTTOMED GIRL
--I WANT IT ALL
--HEADLONG
--TEAR IT UP
THE SHOW MUST GO ON
NEIL MURRAY Bass Solo
LAST HORIZON
Acoustic Set
--LOVE OF MY LIFE
--DRIVEN BY YOU
--39--ON MY WAY UP
--HAMMER TO FALL
GTR
BRIGHTON ROCK BRIAN MAY Solo
ERIC SINGER Drum Solo
RESURRECTION
ROCK YOU
TIE TOUR MOTHER UP
encore
ANOTHER WORLD
MEMPHIS
encore
TEO TORRIATE

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