みーばい亭の
ヤドカリ話
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5.イソギン百態
ヨロイイソギンチャク
ヨロイイソギンチャク
越前海岸 水深1メートル







あ、ふ



その口 やめろ



か・・かかってこんかい!



ア〜ロ〜ハ オエ〜〜



ムギュ・・
イソギンチャクを飼っている。
といっても、リビングに作り付けの大型水槽に、アクア雑誌で言うところの「珊瑚礁を再現したレイアウト」を組んで、シライトイソギンチャクやタマイタダキイソギンチャクを「キープ」しているわけではない。
そんな金があれば沖縄へ行って本物のサンゴ礁に潜っている方がよっぽど楽しい。
我が家のエアリフト式底面ろ過特売60cm水槽に居るのは、そのあたりの磯で普通に見かける「ヨロイイソギンチャク」。
潮の引いた岩場で砂団子みたいに固まっているあれである。
指でぷにぷにと押すとぴゅっとおしっこのように海水を飛ばすのがおもしろくて、夢中で遊んだ経験をお持ちの方も多いだろう(と思う)。
もちろんはじめはそんなものを飼うつもりはなかった。
いわゆる出来心、遊んでいるうちにひょいと魔がさしたというヤツだ。
で、一個体丁寧に爪で岩から剥がして持ち帰った。
水槽に入れたばかりの頃は、魚たちに突付かれヤドカリにつままれ、いじけたように萎んでいたのだが、環境に慣れるにしたがって、少しずつ触手を開くようになった。
内気な女の子が少しずつ心を開いてくれるようでちょっと嬉しい。
そして半月が経った今では、魚やヤドカリの存在など意に介す事もなくそっくり返っている。
ここまでくつろがれると、可愛げも失せる。
はじめのうちはエサを食べる様子を面白がって見ていた妻も、最近では「ウミケムシとどこが違うの?」と、言い出す始末。
ぽっと出のアイドル歌手のように、あっという間に旬が過ぎてしまったヨロイイソギンチャク。
本格派への脱皮をはかるか、ヘアヌード写真集で起死回生を狙うか・・。
ここからが、日本海水槽の住人としての正念場である。


と、昨年の秋ブログに書いた。
あれから3ヶ月、アイドルとしての旬を過ぎたヨロイイソギンチャクだが、どうやらお笑い系として生きる決意を固めたようだ。

上の画像は自然下でのヨロイイソギンチャク。
岸近くの浅場に群れている、ごくありふれたイソギンチャクだ。
円錐形の触手は太く短く、ハナギンチャクやシライトイソギンチャクのように波に揺らめく優雅さはまったくない。
どちらかといえば、無表情で面白みのないイソギンチャクだと思っていた。
ところが、飼ってみてがらりと印象が変わった。
磯では無骨な印象しかなかった短い触手は見るたびに違ったポーズをとっているし、体を伸ばしたり縮めたり膨らんだり捻ったり・・ハッキリ言って面白い!
ヨロイイソギンチャクがこれほどひょうきんな生き物だったとは・・、深く(?)付き合ってみないと生き物の本性は分からないものである。

画像のようにピンでも充分芸達者なのだが、他の生き物との絡みもこれまた捨てがたいおかしさがある。
まず魚たちだが、カミナリベラとスズメダイは本能的にか経験的にかは分からないが、触手に触れると痛いことを知っているようで、極力関わりを避けているように見受けられる。
ところがイソギンは彼らが近付くとかまって欲しそうに触手を伸ばす。
魚たちは無視。
行き場を失った触手の先が淋しげで笑いを・・いや哀愁を誘う。
一方クモハゼはというと、食い物を目の前にすると見境を無くすあの性格だ。
餌に飛びついてイソギンの上にどすんと着地することもしばしば。
なんせあの巨腹。
当然イソギンは触手を縮めてぺったんこ。
ほとんどコント・・というか、往年のギャグアニメのノリである。
まさに無敵の食事魂。
痛くないのだろうか?
泳げないヤドカリたちにとっては通り道の真中に鎮座しているイソギンはかなり邪魔な存在だと思う。
いつもロージに寝ている迷惑な大型犬と言ったところだろうか?
ご存知のようにヤドカリは俗に「ヒゲ」と呼ばれる第二触角であたりを探りながら歩くので、イソギンの脇を通る時は当然ヒゲがイソギンの体に触れる。
イソギンがこれを見逃すはずがない。
これでも一応肉食動物なのだ。
見掛けに似合わぬ反応速度でさっと触手を伸ばしてヤドカリのヒゲを捕まえる。
しばし綱引き。
元気なヤドカリなら自力で振りほどくことができるので呑まれてしまうことはないが、けっこうハラハラさせてくれる。
まさに体を張った芸である。
まあ、体を張っているのはヤドカリのほうだが(笑)

お笑い芸人として日々パワーアップしているヨロイイソギンチャク。
ただ、自慢のヨロイが少しずつ剥げ落ちてきているのが気になるところ。
飼育書によると、ヨロイイソギンチャクは同じ磯に住むタテジマイソギンチャクやヒメイソギンチャクに比べると飼育が難しく、体の粘性がなくなってヨロイが落ちてしまうと長生きしないとか。
今のところは食欲も旺盛だし、弱っている様子はないので、とりあえず安心しているのだが、どうなのだろう?
せっかくお笑い芸人としての地位を確立したのだから、これからも末永く笑わせて欲しいものだ。

邪魔やなー、これ

今のうち・・

百態 = いろいろな様子 
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2007.2.2

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