みーばい亭の
ヤドカリ話
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25.月夜のアーマンは泣いてるだろか






「子供がヤドカリを欲しがっているのだけど金魚と一緒に飼えますか?」
以前、こんな質問を受けたことがある。

オカヤドカリにしてもホンヤドカリにしても、ヤドカリを金魚の水槽で飼えるかどうかなど猿でも分かりそうなものだが、質問の主は猿でも犬でも雉でもない、立派な知識階級の女性だった。
この一件はヤドカリという生き物がいかにマイナーな存在かを如実に物語っていると思う。
インターネット上でも(オカ)ヤドカリ飼育についての質問をよく目にするが、質問の内容はともかく、中にはその名前を「ヤドガニ」(方言という説もあるが)とか「ヤドガリ」などと書いている人もいる。
悲しいかな世間の人々のヤドカリに対する認識はその程度なのだ。

そんな世間の無知に付け込んだのが、株式会社タカラトミー(当時株式会社トミー)の「ハーミーズクラブ商法」だった。
自然環境にダメージを与えて採集された野生動物であるオカヤドカリを、工場で大量生産されたプラスチックの玩具同様の感覚で商品化し、オカヤドカリを飼育できるはずもない「インチキ飼育セット」と抱き合わせにして高額で販売するという「悪徳商法」である。
リカちゃん人形にリカちゃんハウスをくっつけて客単価UPを狙うのなら別に構わない。
しかし「ハーミーズクラブ」の中心商品は「生き物」である。
この「生き物」すなわち生きている動物を、プラスチックの玩具の1パーツとしてブリスターケースに詰め、そのまま店頭に陳列するという行為を平然と行った株式会社タカラトミーやその関連会社の社員、それに販売店の仕入れ担当者や店頭販売員には、血の通った人間としての感情があったのだろうか?
何度も書いていることだが、玩具業界に携わる人間は未来を担う子供たちの心身が健全に育まれるように尽力するのが負うべき社会的責任であるはずだ。
そんな彼らが、命を軽視しゲーム脳に冒されつつある現代の子供たちの心の荒みを更に助長するような生体玩具を販売するとはいったいどういう了見なのだろう?
これは社会に対する裏切り行為以外の何物でもない。
玩具にされて無残な姿で死んでいったオカヤドカリの恨みと悲しみ、そして平穏で静かだったオカヤドカリ飼育の楽しみを踏みにじられた私たちの怒りと憎しみは100年経っても消えないのだ。

ハーミーズクラブ発売から3年、オカヤドカリブームとそれに伴う反対運動ブーム(笑)も一段落したようで、近頃では販売業者への糾弾記事や「救出しました(苦笑)」なる報告もあまり目にしなくなったが、オカヤドカリをとりまく状況は何も変っていない。
株式会社タカラトミー(当時株式会社トミー)は、すでにハーミーズクラブの販売を終了しているが、そのブランドやキャラクターはそのまま日本動物薬品株式会社に委譲されて、現在もハーミーズクラブなる生体玩具は販売されているし、大企業の販売戦略に便乗した株式会社マルカンはホームセンターなどに販路を広げて、二番煎じの「ヤドカリランド」と共に、ふざけているとしか思えない関連飼育玩具を現在も販売し続けている。
更に昨年出版された、「オカヤドカリを飼育した経験がない著者が販売業者の言いなりで執筆した役に立たない飼育本」が、ハーミーズクラブやヤドカリランド愛用者のスタンダードになっているふしさえある。

そして今年も秋になると各所の掲示板に例の書き込みが繰り返し投稿された。

「動きません」
「貝殻から出てしまいました」

やれやれ・・。

株式会社タカラトミーをはじめ、ヤドカリ玩具販売に関わったメーカーや販売業者の最大の罪は「オカヤドカリの飼育は簡単」という誤解を世間に広めたことにある。
たしかにしばらくの間生かしておくことは難しくない。
洗面器にでも放り込んで時々水をかけてやれば2〜3ヶ月は生きているだろう。
釣り餌に使われたり露店で売られたりしているのもこの丈夫さ故にストックがきくからだ。
しかしこれは飼育ではなく、畜養である。
飼育とは読んで字のごとく生き物を飼い(養い)育てることだ。
オカヤドカリを育てるためには脱皮をさせてやる必要があるし、脱皮をさせるためにはそれなりの環境を与えてやる必要がある。
つまりオカヤドカリの飼育方法とは無事に脱皮をさせる方法であるわけだ。
ところが、例の飼育本には上手く脱皮をさせるための具体的な方法についての説明はまったく記載されていない。
これではレシピの載っていない料理本と同じである。
こんなものがオカヤドカリ飼育のスタンダードになっているのだから、飼われるオカヤドカリはたまったものではない。
適切な飼育(脱皮)環境を与えられずに、単なる畜養扱いで一夏ストックされたオカヤドカリが、秋の訪れとともに力尽きて死んで行く・・、つまり、そういうことだろう。

今は殺された多くの魂が苦しみを忘れて故郷の光る海へと帰れることを祈るばかりだ。




無事に脱皮を終えて地上に姿を見せたナキオカヤドカリ。
ケージ内を適切な温度と湿度に管理し、安全な脱皮穴が掘れるように、適度に湿らせた細かい砂を充分な厚みに敷き詰める。
これがオカヤドカリを「飼育」するための基本中の基本。
適切な脱皮環境を与えてやれば、そう簡単に死ぬ生き物ではない。






今年の2月、2005年組の水槽を新たに立ち上げた際に、試験的に導入したヤシガラ土の脱皮床。
今までに4例の脱皮利用を確認したが、いずれも無事に成功している。
心配したpHの低さも特に影響はなさそうだ。
考えてみればナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリの生活圏は海水の掛かるサンゴの浜や石灰岩の岩場だけではなくて(そういうイメージが強いが)草むらや腐葉土で覆われた林床にも及ぶのだから、弱アルカリ性の環境にこだわる必要はないわけだ。
画像のように普段でもここに集まっていることが多いところをみると、砂の上よりも居心地がいいのかもしれない。
ただ全体をヤシガラ土にしてしまうと、オカヤドカリが出入りするたびに水入れの中がドロドロになったり逆に水入れからこぼれた水で全体がびしょびしょになったりしそうなので、やはりタッパーなどに入れて部分的に管理する方がメンテナンスは楽だと思う。




幸いなことに、この1年は大御所組、2005年組ともに1匹の脱落もなく終えることができそうです。(魚や海ヤドはたくさん見送りましたが(^^;)
みーばい亭の掲示板にも、この秋には件の書き込みはありませんでしたので、この記事を読んでいただいている皆さんのお宅のヤドカリたちは、ちゃんとした脱皮環境を与えられて健やかに過ごしていることと思います。(管理人がこんなことばかり書いているせいで掲示板の敷居が高いのかもしれませんが(^^;)
元々みーばい亭は、日常の話題を綴った写真日記サイトとしてスタートしましたので、飼育マニュアル的なコンテンツを公開することは本意ではないのですが、管理人の拙い飼育経験が少しでも飼育のお役に立ったのなら、とてもうれしいことです。

少々早いご挨拶ですが、今年も懲りずにお越しいただいた皆さま、どうもありがとうございました。
来年もみーばい亭をよろしくお願いいたします。
2007.12.13

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