もう、転居は避けられない事態になりました。転居準備は、ベッドから出られない娘には頼られず、かといって、夫は体調が悪く、私は、長期の睡眠不足の影響か、転倒して肩の亜脱臼をおこし、八方塞がりの状態で転居は延期になりました。そうこうするうちに、私は胸やけに悩まされるようになり、受診しても薬は効果なく(逆流性食道炎、出血性胃炎と診断)、口を開けば炎が出そうな灼熱感に苦しむ日々が続きました。転居準備どころではなく、少しでも早く家を出ようと避難先に寝具を運びこみ、娘を連れ出しました。避難先が低周波音に関して安全かどうか確かめる必要もありましたが、計測の余裕はなく、感覚だけで決めた、一か八かの避難でした。避難先では暖房も照明もなく、暗闇のなかで娘と二人で夜を過ごしました。そして、娘はすぐに元気を取り戻し、学業に戻ることができました。私も自宅と避難先を往復しつつ、睡眠時間が増え、徐々に薬の効果も出始めて胃の状態も回復してきました。それで、ここで安心して住むことができるとやっと確信し、生活用品を揃えつつ、この仮住まいでこれからのことを考えることにしました。
避難先に夫が合流したのは暫くしてからですが、夫が以前の健康状態に落ち着くには、かなりの日数がかかりました。極度に体調を崩し、気力の失せた夫の姿をみるのは辛いものでした。娘と私につきあって、夫の愛する街を離れ、夫が心身ともに苦しんでいるのは、いたたまれない思いがしました。夫の想像していた退職後の生活にはほど遠く、絶望しているようでした。それでも、少しずつ薄紙をはがすように夫の状態も落ちつき、気力を取り戻し、家族に久しぶりの冗談が出たりして、笑顔が戻ってきました。
5 これから
|