解説 雨月
西行法師が住吉の里に来て、日が暮れたので、一軒の賤屋に一夜の宿を乞いました。主の老夫婦は、秋の風情を愛し、爺は時雨の音や、木の葉の散る響きを聞こうといい、姥は月の光を浴びたいと言って、軒を葺く葺かないと、言い争いました。
西行は興味深く、聞いて居ましたが、そのうちに「賤が軒端を葺きぞ煩う」という詞を得た爺は、この上の句をうまく付けたら、宿を貸すと言いました。西行は和歌なら得意と「月は漏れ、雨は溜まれととにかくに」と詠みますと、夫婦は大変感心して、西行を内に招き入れました。
月の風情や木の葉の音が取り巻く秋を、和歌の詞に楽しみましたが、もう眠りましょうと言って、老夫婦の姿は消え失せました。
住吉の明神は、祢宜に乗り移って、爽やかに西行の前に現れ、西行が参詣したことを感謝し、和歌によって深慮を深く感動させた由を述べ、祝詞を奏して、歌道の不朽を頌えました。