解  説   融


 諸国行脚の僧が、初めて都に来て、六条河原の院の庭を眺めて、暫く休んでいました。
 一人の老翁が、田子を担いで来ましたので、何をするのか尋ねますと、此所の汐汲だと答えます。驚いてその謂れを問いますと、この河原の院は、陸奥の千賀の塩釜を、真似しで造られた所だから、我等はその汐汲み淀と答えます。折から昇って来た仲秋の名月に、月光に照らされた籬が島の趣きなどを語り、また見え渡る名所を詳しく教えましたが、興に乗じて夜も更けて来たと、急いで汐を汲む様子でしたが、そのまま姿は消え失せました。
 旅僧は、.この庭を造った融の大臣の霊が、仮に現われたのであろうと思って、尚も奇特を待っていますと、大臣の霊が現れて、月下に船を浮かべた夜遊の有様、或いは曲水の宴を催して、遊び興じた昔を語り、明け方になるまで舞遊びましたが、月が傾くままに、その姿は、再び消え失せました。


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