解説 千 寿
平の重衡(ツレ)は、一の谷の合戦にて源氏の軍に捕らわれて、鎌倉へ移送され、狩野介宗茂(ワキ)に預けられました。
頼朝は、朝敵とは云え、重衡を哀れに思い、手越の長の娘の千寿の前(シテ)を遣わして、重衡の世話をさせました。
春雨の降る日、千寿の前は琵琶や琴を持って、重衡の許へやってきました。重衡は帰そうとしますが、宗茂が招じいれます。
重衡は、頼朝に願い出てあつた出家の許可について、返事を求めます。
千寿は「朝敵である重衡のことは、頼朝個人の考えでは決め難し」と云う頼朝の返事を申し訳なく伝えます。
重衡は自分の身の上を悲しみますが、千寿は色々と言って慰めます。
宗茂が、酒宴の用意を調えますと、千寿は重衡に酌をし、また宗茂に勧められて朗詠を謡いつつ舞を舞って、
重衡の心を晴れさせようと努めます。
しかし、再び重衡は、都へ送り返されることになり、鎌倉を出立しました。千寿は、別れを惜しみ、その跡を見送りました。
喜多流は、シテの役名を千寿と書きます。他流は千手と書きますが、読みはいずれも「せんじゅ」です。