伯 母 捨
都の者(ワキ)が、仲秋の名月を眺めるために、友人を誘って、その名も高い信濃の国伯母捨山へ旅をしました。
丁度名月の日に到着し、四周を見渡すと名月の名所として名高いだけあって、素晴らしい眺望でした。
今宵の月の美しさを想像し、一休みしていると老婆(前シテ)が一人やってきました。早速に声をかけて、所の名所を尋ねました。
伝説に名高い伯母捨の旧跡を尋ねますと、一本の桂の木を教えました。老婆は、旅人に旅の目的を尋ねます。
都の男は、名高い伯母捨山の名月を見に来たと答えますと、自分も月見の夜遊を共に楽しもうと云って姿を消しました。
夜になって、期待に外れない素晴らしい月が、昇ってきました。昼間に見掛けた老婆(後シテ)も陽炎の如くに現れて、月を愛でます。
仏説に従って、月の賛歌を謳歌し、法悦の舞を舞って夜遊を楽しみます。
しかし、夜明けになって旅人が帰って行くと、忘れられたように独り取り残された老婆は、その山の景色の中に溶けて、消え失せました。