解  説   通 小 町


 京都洛北八瀬の里に、一夏を送る僧が居ました。その草庵に毎日、木の実や薪を運んで来る若い女性がありました。ある日、僧がその女性に名を尋ねますと、その女性は「小野とは云わじ、薄生いたる、市原野辺に住む」と云って消え失せました。
 僧はその言葉に、思い当たることがあって、市原の小野の小町の墓所に行き、法事を営みます。すると、先刻の女性が再び現われ、回向を喜び、戒を授けるよう僧に望みます。しかしその時、その背後よリ、痩せ衰えた男の亡霊が現われ、それを妨げます。僧はこの二人が、深草の少将と、小野の小町の亡霊であると知って、二人共に戒を受けて、成仏するように勧めます。二人は、僧が乞うままに、少将が小町の元へ百夜通いをした有様を再現して見せ、遂に一念の悟りを開き、二人共に成仏します。


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