2017年
1月号(第347号)
同人作品鑑賞(11月号より)
求道者の如き思案や定家の忌
円象集 「山寺より」
秋うらら馬頭観音開眼す
紅葉且つ散るや神馬の足元に
参拝の列の過ぎをり草雲雀
冬立つや不動眼光衰へず
秋澄むや露風も聴ける踏切音
半眼の見つめる山野秋暮るる

2月号(第348号)

円象集 「花八ッ手」

根上がりの間に重なり散紅葉
灯りなき忌中の庭の花八ッ手
鳥発ちて暫く揺れる枯木かな
八重咲きの山茶花八重に散りにけり
寒鴉一人語りを繰り返し
安穏といふ平凡や日記買ふ

3月号(第349号)
円象集 「水仙花」

水仙花皆陽当たりを知り尽くす
一陽来復希望は常に我が内に
松飾り旧家の主代はれども
頂に雪引き寄せて初比叡
早梅の白ぽつぽつと夜明け前
笹鳴や役行者に睨まれて

4月号(第350号)
円象集 「日の射せり」
昨日とは違ふ言ひ草冴返る
立春や窓に差す陽の鋭角に
雀発つ落葉を二枚蹴り上げて
冬日射す我が影殊に長かりし
二ン月の朝日を望む裏比叡
冬芒日の出を拝む慣ひなる

5月号(第351号)
円象集 「芽柳」
暫くは空を楽しむ春の雲
白梅に佇ち白梅の香を纏ふ
惜別の声幾たびも鴨帰る
明日生きる望み再び蛇出づる
いつまでも秘める本心梅ふふむ
芽柳や逆らはざるを信条に

6月号(第352号)
円象集 「初音聴く」

湖国には湖国の言葉初音聴く
丁子香を前に風向き変はりけり
野遊びに微笑みかける露坐仏
入彼岸田舎のバスに客ひとり
湖に地に語り続ける揚雲雀
しやぼん玉一つひとつに子の息吹

7月号(第353号)
円象集 「母の日」
居間に花満つ母の日となりにけり
若楓はや今朝の雨乾きをり
一斉に一声申す昼蛙
止めどなく浪受く岩や四月尽
彩りて天守望める躑躅かな
どことなく微笑み増やす躑躅かな

8月号(第354号)
円象集 「水澄まし」
無電柱工事の村や五月晴
発つといふ決心未だ天道虫
蟻の道旧街道と並びゐて
どの山に向かふともなく雉一声
一歩行きひとつ思案の水澄まし
竹皮を脱ぐ開発のすぐそこに

9月号(第355号)
円象集 「飛鳥より」
茄子の花入鹿の首の落つところ
家壊しおのおの散れる黴煙
早苗はや風に抗ふ術を知る
(※4句目は重複につき削除)
梔子の初花若き香を放つ
秘め事は秘めらるるまま蛍袋

10月号(第356号)
円象集 「終戦日」
堪へ難き雨にやあらむ終戦日
きちきちのいずくより来ていずくに飛ぶ
秋立つや鎮守の森の深みどり
真先に処暑の風受く浮御堂
一言の重みを増せる生身魂
秋団扇端より破れゐたりけり

11月号(第357号)
方円秀韻抄
言ひ足りぬ事の多くて秋の蝉
円象集 「秋の蝉」

水引草人の感じぬ風を受く
山葡萄枯井戸にまだ水のあり
言ひ足りぬ事の多くて秋の蝉
幾たびも曲がる大河や秋日和
鬼やんま大河に映ゆる背ナの縞
早稲実る湖辺に黄金敷く如く

12月号(第358号)
今年の私の四季
芽柳や逆らはざるを信条に
早苗はや風に抗ふ術を知る
堪へ難き雨にやあらむ終戦日
安穏といふ平凡や日記買ふ
同人作品鑑賞(10月号より)
一言の重みを増せる生身魂
円象集 「名月」
豆稲架を揺らし特急通過駅
多国語の飛び交ふ街や今日の月
寺町に根付く祈りや秋夕焼
神鹿の一礼をして参りけり
釣瓶落し疎らに灯る長屋町
名月の古刹に灯しなかりけり