2016年
1月号(第335号)
同人作品鑑賞(11月号より)
海風も富士を目指せる秋日和
清象集 「時雨」
しぐるるや暫く停まる救急車
霜降や雀の住まふ廃駅舎
病む耳で聴くレクイエムうそ寒し
崩れゆく旧家の蔵や木守柿
とんばうの一時怯む向ひ風
木の葉時雨地に着く前の風一陣

2月号(第336号)

清象集 「冬日和」

一言で終る別れや龍の玉
枯園や家紋を刻む鬼瓦
時雨るるや不動火焔の海を向く
海峡を横切る風や冬日和
冬晴れや眼のやはらかき観世音
ぱたぱたと波切る船やしまき風

3月号(第337号)
円象集 「新しき年」

誰に声掛けるでもなく冬の虫
寒林のなほも直立不動かな
墓守の焚火の竹の爆ぜる音
恵方へと流るる雲や初社
初日射す甍の色を際立たせ
里山に年迎ふ者果つる者

4月号(第338号)
円象集 「春来る」
春来る弱き者にも平等に
子を諭す声の優しさ今朝の春
耕人の背ナに古墳を頂きて
物売りの菜の花沿ひに売り歩く
針仕事せぬ子も針を納めけり
訪ふ人もなく参道の下萌ゆる

5月号(第339号)
同人作品鑑賞(3月号より)
寒林のなほも直立不動かな
円象集 「春の雷」

春雷や思はぬ人の訃の報せ
いにしへの大路の跡や花薺
蝶休む河内を望む山の辺に
地虫出づ我が地一面塵芥
一族の此処で絶えたり梅真白
春ならひ三輪明神を揺り起こす

6月号(第340号)
円象集 「花筏」

花筏五重塔の影避けて
両雄のまみへし辺り田を起こす
花馬酔木風過ぎてまた俯けり
敗軍を囲ひし山々笑ふなり
西の陣東の陣を蝶通ふ
山といふ山駆け抜けて春疾風

7月号(第341号)
円象集 「春行く」
花散るや少年院の煉瓦塀
春塵や崩るるままの野面積
過去帳にわらべの名あり粽結ふ
岬より岬へ青葉風渡る
雉鳴くや大和へ続く限界集落
行く春や読経になゐの悼み込め

8月号(第342号)
円象集 「夏に入る」
白波の蒼に戻りて夏に入る
待ち人の居る岬まで夏の蝶
駅間の長き路線や麦の秋
大人へと背伸びする子や袋角
突然の退職願けふ梅雨入り
植田道時折風とすれ違ふ

9月号(第343号)
同人作品鑑賞(7月号より)
過去帳にわらべの名あり粽結ふ
円象集 「夏の月」

どの空も同じ角度の夏の月
ゆるゆると麦茶を冷やす古薬缶
夕蝉や数珠屋の並ぶ都路
校庭の死角に泰山木の花
目覚めるを許さぬ雨や眠草
目纏ひを連れて秘仏を巡りけり

10月号(第344号)
円象集 「桐一葉」
生きるだけ生きよと言はれ桐一葉
風死すや人の命の軽きこと
日焼子の駆けども海の遠きかな
秋の蝉よたよたと鳴き歩みけり
道をしへ追ひ越し遍路道を行く
椿の実閑谷校の赤瓦

11月号(第345号)
円象集 「街の秋」

古井戸の滑車の錆びて秋高し
新しき仕事着を着て案山子佇つ
街道の果てで留まる蜻蛉かな
神鈴の緑青僅か秋に入る
今貯めし清水を落とす添水かな
求道者の如き思案や定家の忌

12月号(第346号)
今年の私の四季
花筏五重塔の影避けて
過去帳にわらべの名あり粽結ふ
陵を囲ふ稲田の波打てり
寒林のなほも直立不動かな
円象集 「秋の雨」
散る萩を洗ひ流して雨上がる
静寂てふ音ある山野薬掘る
雨音の隙間を埋める虫の声
彼岸花群るるを嫌ふ人のあり
草雲雀ひときは長き独り言
背より見る太陽の塔秋茜