2015年
1月号(第323号)
清象集 「冬に入る」
都鳥日当たる向きへ泳ぎけり
ひたすらに流れを嫌ふ浮寝鳥
冬虹のシャッター街を覆ふかに
払ひても払ひても雲月冴ゆる
冬立つや浜辺に人の住む気配
大欅祠を避けて葉を落とす

2月号(第324号)
特別作品「山河枯る」
山河枯る郷の歴史を纏ひつつ
冬怒涛リアスの襞を深うして
冬枯るる岬の先の小岩まで
寒鴉波に消さるる唸り声
新しき御堂の甍散紅葉
冬岬供花の途絶えぬ戦没碑
稜線に光を溜めて小春かな
黄落の音の聞こゆる深山かな
廃城に木の葉時雨のとめどなし
休耕田にソーラーパネル冬晴るる
神域へ誘ふ道の石蕗の花
富士の名を頂く島や冬怒涛
小雪の庭に陰りのなかりけり
落葉溜む事無く疎水流れけり
方円秀韻抄
街灯のポールに錆や冬ざるる
清象集 「厳冬」

綿虫の海への風に抗はず
塗り替へる千本鳥居年用意
山寺を訪はむ寒林の道長し
街灯のポールに錆や冬ざるる
鐘楼を一段高く実南天
検診の結果開けざり薬喰

3月号(第325号)
清象集 「寒に入る」

無縁仏草木とともに寒に入る
霜降りて路傍の草の青かりし
うすらひや朱の剥落の太鼓橋
初日射す鎮守の森のあはひより
木枯しの吹き抜く先の古都なりし
冬霧の古都一息に呑みにけり

4月号(第326号)
清象集 「春立つ」
春立つや飛行機雲の北へ伸び
神木を白に根付かせ春立てり
春来る川の向かうの小山にも
道場に響く足音建国日
きのふよりけふ咲く梅の真白なる
春寒し殺めるを説く神のゐて

5月号(第327号)
同人作品鑑賞(3月号より)
無縁仏草木とともに寒に入る
清象集 「梅開く」

草餅を供ふ地震より四年(よとせ)の日
春寒し山鳩不意に黙り込み
花馬酔木全て濡らして雨あがる
蝋梅の道の奥なる官幣社
達筆の添書きのあり雛の間
盆梅の小枝に白を犇めかせ

6月号(第328号)
清象集 「春半ば」

山道の徐々に開けて犬ふぐり
彼岸入りまた新しき墓建てり
その視線阻む雲なく揚雲雀
捌かれて黒目見開く桜鯛
己が土踏み締め耕人立ち尽くす
下を見て過ごす勿れと花馬酔木

7月号(第329号)
方円秀韻抄
げんげ田の後ろは古都へ続く道
清象集 「里山より」

藤咲くや重力は皆平等に
著莪咲けり渓流に耳すます如
夏立つや山よりの風山目指し
どの田にも蟇の声あり暮らしあり
げんげ田の後ろは古都へ続く道
廃線の面影もなく青葉蔭

8月号(第330号)
方円秀韻抄
麦秋や再び湖を望む道
清象集 「名水」

水源を辿れる鴨足草沿ひに
かたつむり岩間湿るを待ち侘びて
麦秋や再び湖を望む道
名瀑や飛沫を沢のあちこちに
清流や河鹿呼び合ふ程の幅
絶景に背を向け蜥蜴逃げにけり

9月号(第331号)
清象集 「鳶鳴く」

鳶鳴くや青嶺を映す水の色
いづれ行く地上を見つめ蝌蚪泳ぐ
日を透かし水面を透かし海月かな
蝉時雨止み残響の山野かな
梅雨晴れ間鳶一声の暇のみ
槌音の岸まで届き夏霞

10月号(第332号)
方円秀韻抄
快晴を見上げて蝉の果てにけり
清象集 「蝉果つ」

快晴を見上げて蝉の果てにけり
黙祷の後の豪雨や原爆忌
蝉時雨止み山鳩の鳴き残る
絶景を知り尽くしたる道をしへ
牛蛙鳴くも黙るもひとりなり
鉦叩取り壊さるる家屋敷

11月号(第333号)
特集・朝人忌に寄せて
師の句碑の強き書体や今朝の冬(高野山)
清象集 「秋の海」

点描に日を散りばめて秋の海
海望む葵の御紋秋高し
いつまでも沖を眺める秋茜
鬼灯や秘めたる想ひ秘めしまま
海風も富士を目指せる秋日和
流木の白き木肌や秋の浜

12月号(第334号)
今年の私の四季
げんげ田の後ろは古都へ続く道
麦秋や再び湖を望む道
秋高し山より望む隣山
街灯のポールに錆や冬ざるる
方円秀韻抄
陵を囲ふ稲田の波打てり
清象集 「秋の色」
終電を見送る後のちちろ虫
白壁の根元にひそと赤のまま
紀伊和泉分かつ街道曼殊沙華
陵を囲ふ稲田の波打てり
一族の墓も守れる鳥威
山頂のさらに上へと花芒