2014年
1月号(第311号)
方円秀韻抄
何もなき古城の庭の草雲雀
清象集 「薄紅葉」
山城の下座に鹿の座る跡
薄紅葉全ての山に名のありぬ
何もなき古城の庭の草雲雀
紅葉且つ散るや手水を紅く染め
オリオンの頭を雲の覆ひけり
土ひつじ分け隔てなく陽の当たる ※「ひつじ」はのぎへんに魯

2月号(第312号)
清象集 「今朝の冬」

鳶の輪の交はる空や今朝の冬
山茶花散る白砂の波に沿ひながら
枯葦の残らず海を指しにけり
凍滝や飛石にあり穿つ跡
冬霧や天橋立溶け落とす
冬立つや舟屋に小波訪れて

3月号(第313号)
清象集 「雪盛ん」

足跡を消してなほ雪降り続く
木枯しや墳墓の笹の波打てり
春待つや苔を頂く常夜灯
霜色を失ひ川に地に草に
薄雲の間より初日拝みけり
門松に去年の雪の残りけり

4月号(第314号)
方円秀韻抄
春寒し阿形の口の奥は闇
清象集 「春立てり」

下萌ゆる古墳の上の露座仏
飛行機雲西より途切れ春立てり
春立つや川ひとつ経て城下町
けふ雨水未だこの地に緑なく
春寒し阿形の口の奥は闇
向かひより遅れて梅の七分かな

5月号(第315号)
清象集 「彩る」

捨て畑に青き点描犬ふぐり
霊園に十字架ひとつ冴返る
雁帰る前に二言三言かな
揚雲雀休耕田の幾畝も
薔薇の芽や派遣満期の太き文字
探梅や世間話の主婦の声

6月号(第316号)
清象集 「春の雪」

白梅の蕾純白ならざりき
裸婦像の視線柔らか斑雪
牡丹雪湖の波紋を大きうし
春分の山を越し行く雲一団
涅槃西風郁夫の描く仏聖地
正義てふ軽き言葉や受難節

7月号(第317号)
清象集 「桐の花」

腕失くす金剛像や青葉闇
山吹や沢市眼開くかに(壺阪寺)
天王山遥かにしたり桐の花
言ひ合ひは嫌ひ憲法記念の日
楠公の碑文字に力桐の花
野面積隙間に逃げる蜥蜴かな

8月号(第318号)
方円秀韻抄
原発に続く鉄塔夏薊
清象集 「梅雨入り」

草泉城主住まひし辺りより
入梅や太陽の塔背中反る
梅雨に入る供花の絶えぬ事故現場
雨といふ雨を集めて四葩かな
はつ夏や湾を横切る飛行雲
原発に続く鉄塔夏薊

9月号(第319号)
方円秀韻抄
神木を囲ふもぢずり渦多し
清象集 「花々の歌」

三伏の川辺に並ぶ捨て畑
小雨来て蓮葉の露に食まれけり
神木を囲ふもぢずり渦多し
凌霄の陽の色をして陽を受けぬ
客待ちの車夫の金髪蝉時雨
百日紅門前町の裏小路

10月号(第320号)
清象集 「青田風」

湖に来て湖風となる青田風
炎天に身を輝かす阿弥陀佛
空蝉の根本中堂睨み付け
不知火と街の間の闇夜かな
目纏ひの木陰を選び集ひけり
天満宮浴衣の列を飲み込めり

11月号(第321号)
清象集 「秋高し」

穏やかな高石垣や雁渡し
秋高し山より望む隣山
いつまでも月に照らされ家路かな
敗蓮に蝶の鱗粉こぼしけり
首塚に鳴き集ひける法師蝉
流木の白き木肌や秋出水

12月号(第322号)
今年の私の四季
春寒し阿形の口の奥は闇
原発に続く鉄塔夏薊
何もなき古城の庭の草雲雀
足跡を消してなほ雪降り続く
清象集 「十三夜」

廃屋の梁の太さや十三夜
木守柿空家の瓦落つままに
赤のまま城下の民は昼餉時
月欠くや友また一人職を辞す
とんばうの城へ行く者降りる者
神の留守墓は瓦礫に変り果て