2013年
1月号(第299号)
清象集 「亜浪忌」
亜浪忌やいつしか去りぬ時雨雲
鶏頭の陰にあつても燃える色
川二つ渡りて続く紅葉道
痩犬の伏し目がちなり赤のまま
実南天添へて越後の鮭づくし
花芒もて岬の端指し示す

2月号(第300号記念号)
方円秀韻抄
山讃ふ太字の句碑や冬ざるる
清象集 「開戦日」
開戦日レノンの歌詞を噛み締めて
大いなる影写す山冬の鳥
大滝の凍つる暇もなかりけり
山讃ふ太字の句碑や冬ざるる
頂に来て冬雲の間近かな
手折られてなほ仄白き冬芒

3月号(第301号)
昨年度方円賞受賞者特別作品 「早春の紀伊・大和」
春の雪落ち着く先は風まかせ
幾重にも風吹きぬける二月かな
土を食み泥を食みなほ雪残る
獣避け巡らす山や春浅し
料峭の旧隧道を風駆ける
春立つや柱時計の鐘の音
春寒し杉の高木軋む音
盆梅を門に佇たせて店じまひ
潮の香に梅の香混じる港かな
建国日行書で記す参詣道
並びゐる神木二本春の雪
山々の間の村や春浅し
落椿踏む先客の足跡追ふ
下萌ゆる堀切の底深きほど
神域を出でて芽吹きの数多かな
清象集 「寒の入り」
新しき歩みを始む寒の入り
寒濤の日暮れてもなほ唸りけり
数へ日の真青な空に遠汽笛
千両をひとつ零して中之坊(當麻寺)
実南天固まり合うて照らさるる
手水より溢るる前の氷かな

4月号(第302号)
清象集 「水仙群」
風花や海を隔てて紀伊淡路
水仙群日向の届くところまで
やや低きフェリーの汽笛春寒し
虫出しの雷喪に伏せる開業医
梅一輪雨粒ひとつ闇夜より
寒明けの要塞森に還りけり

5月号(第303号)
清象集 「春の雪」
此処からは人通りなし斑雪
春の雪払ひ木立の直立す
春の雪降りつつ澄める川一筋
紅梅も白梅も皆暮るる色
民宿の屋根の傾き春浅し
雛の灯を点す事なく更けにけり

6月号(第304号)
清象集 「大山桜」
花潜り花を辿りて古木かな
老木の枝のうねりや春嵐
軒に散り軒を彩る桜かな
座禅草夫婦の如く寄り添へり
梅散るや嵐を避ける術なくて
飛花落花疏水の波に従へり

7月号(第305号)
方円秀韻抄
花冷えや隙間の多き野面
清象集 「松本城にて」
花冷えや隙間の多き野面積
落日の古城にひそと菫かな
片言で語る伝統昭和の日
黒壁の褪せぬ天守や青葉風
青楓陽に近き程輝けり
内堀に残花を散らす風一つ

8月号(第306号)
方円秀韻抄
麦秋や峠の上の無名墓地
清象集 「梅雨晴れ」
天も祝ぐ神前挙式梅雨晴間
梅雨晴れやせせらぎに石洗はれて
老犬の守れる旧家松落葉
夏燕飛び交ふ上り下り線
尺取虫枝の先より人里へ
麦秋や峠の上の無名墓地

9月号(第307号)
方円秀韻抄
駅を出て暫く無人麦の秋
清象集 「夏揚羽」
行く先は風に聞けよと夏揚羽
風穴の風に誘はれ河鹿鳴く
蕎麦咲くや寺を真中の小集落
駅を出て暫く無人麦の秋
神域に近き程濃き四葩かな
原発の炉の無機質や夏怒濤

10月号(第308号)
清象集 「歌う」
夏燕忌中の軒を巣立ちけり
蟻の道二筋続く陣屋跡
西で鳴き東で応ふ法師蝉
神鹿の影に居座る残暑かな
送り火や古都の外れの廃公園
鉦叩道を隔てて歌ひ合ふ

11月号(第309号)
方円秀韻抄
秋蝉の小枝と共に落ちにけり
清象集 「秋の蝉」
とんばうの揃ひ水平線眺む
この町の入口の駅鰯雲
台風過ぐ波は西向き東向き
秋蝉の小枝と共に落ちにけり
秋暑し三角点に陽の刺さる
固く閉づ廃墟の門扉吾亦紅

12月号(第310号)
今年の私の四季
花冷えや隙間の多き野面積
駅を出て暫く無人麦の秋
倒れてもなほ一塊の彼岸花
山讃ふ太字の句碑やふゆざるる
清象集 「秋出水」
呆然と立てる廃墟や秋出水
赤とんぼ堂を拝みて振り返る
波音を聴きて染まりぬ石榴かな
秋晴れや枯山水の波打てり
松陰に落ちて弾みぬ松ぼくり
木漏れ日や鹿の遠音の澄み通る