2012年
1月号(第287号)
新春精鋭八人集「生放つ」
実石榴の風に誘はれ生放つ
延命を祈る小絵馬や残る蝉
紅葉且つ散るや淡路を目の前に
また一人鬼籍に入るや神の留守
けふ葬儀一葉遺せる冬木桜
凍星のなほ瞬きを止めぬなり
朴落葉三角点を護る如
綿虫の格子の中に着きにけり
冬日差し斎場を指す案内板
掠れゆく飛行機雲や小春空
雑詠
いわし雲飛行機雲を溶け込ませ
石垣は目線の高さ石蕗咲けり
冬立つや悲鳴にも似て犬のこゑ
白菊やヘッドライトの右折あと
風通ふ短き稲架と長き稲架
師の訃報駆け巡る夜や月冴ゆる

2月号(第288号)
第24回方円賞 自薦二十句
げんげ田に風追ふ色の過ぎにけり
菜の花や此処から先は北近江
落石に交ざりて桜蘂降らす
耕人の土を眺めて休みをり
目纏ひの只中にゐて棒の如
頂を欠く石塔や杜鵑
梅雨晴れ間川の底まで日向かな
白木槿日の出の向きに開きけり
湖風の道を隔てて代田波
とんばうに漏れなく湖の光かな
蝉落ちて末期の声を絞りきる
機織りの殊に機の音長かりし
秋蝉にまだ空を蹴る力あり
ひつじはや波立つ程に伸びにけり ※「ひつじ」はのぎへんに魯
右にあらば右の波聴く石蕗の花
冬蝶の畳の上に逝きにけり
鴨泳ぐ足裏懸命に見えてをり
落葉道山頂にまた日の射せり
陵の円より方へ鴨泳ぐ
雑詠
山茶花の蕊散る向きが風の向き
旧街道今は木の葉の渡るのみ
青空に押し流さるる冬の雲
水仙花道行く人に背を向けて
霊園を隅まで照らす寒落暉
オリオンの真下の夜間飛行かな

3月号(第289号)
方円賞第一作特別作品 ”La Mer”
冬怒濤島の前にも後ろにも
寒凪やドックに眠る貨物船
風向きに戸惑ふ煙冬岬
島々を結ぶ航跡年惜しむ
年待たず逝く人のあり下萌ゆる
ゆく年や大師の背ナに山ひとつ
寒鴉国境より戻りけり
ひたすらに一本道や冬芒
裸木の枝を残らず天に向け
差してすぐ雲に覆はる初日かな
山眠る名もなき島に至るまで
霜柱昼まで残す木陰かな
初霜の斑となりぬ捨て畑
太鼓橋高きところに冬日かな
寒落暉最後に鳴門照らしけり
中戸川朝人先生追悼特集 追悼の一句
師の訃報駆け巡る夜や月冴ゆる
方円秀韻抄
山下まで我が影伸びて初日かな
清象集 「瀬戸を望む」
初日射す波は讃岐に流れ着き
山二つ先の海原冬ぬくし
枯蓮の残らず下を向きにけり
冬耕や手押しポンプの錆び付きぬ
山茶花の間より覗く野面積み
山下まで我が影伸びて初日かな

4月号(第290号)
清象集 「寒波続く」
浅春や句友の郷の訛聞く(横田喜三さん一周忌)
吽形の硝子の眼春隣
時雨るるや池の波紋の小さきこと
墓にまた銘の増えたる余寒かな
春の雪風に従ひまた空へ
音程のずれる口笛春来る

5月号(第291号)
清象集 「あの日…」
三・一一今朝は霞める太平洋(東日本大震災から一年)
啓蟄や更地のままの地震(なゑ)の町
曇天の奥の波音冴返る
残雪の浄化のあとの土礫
暫くは人来ぬ郷や雉鳴けり
日の暮るるまで白梅でありにけり

6月号(第292号)
方円秀韻抄
それぞれの揺れ方ありぬ花薺
清象集 「さくらのうた」
街灯の消ゆる公園飛花落花
それぞれの揺れ方ありぬ花薺
待つ便り今日も来ぬなり土筆煮る
孕み猫のそりのそりと坂の町
鷺の巣の高みに構へ風任せ
春嵐池面の景色崩しけり

7月号(第293号)
方円秀韻抄
青嵐眼見開く磨崖仏
清象集 「生と死と」
青嵐眼見開く磨崖仏
蟇鳴くや人里避ける尼子廟
夏薊無縁仏みな苔むして
山躑躅もののふの血を染み込ませ
新緑の間の岩場の真白かな
雉鳴くや轍の残る捨て畑

8月号(第294号)
清象集 「耳病めり」
新緑の眩しき日々に耳病めり
翡翠や日のある限り背ナの艶
(※3句目は重複につき削除)
青鷺の一歩踏み出し一思案
滝三筋四筋と別れ静まれり
新しき社の甍麦の秋

9月号(第295号)
清象集 「古刹の夏」
額咲くや御堂の裏の野面積
郭公や壁の崩るる奥の院
回廊の段緩やかに青葉風
吽形より阿形へ逃げる蜥蜴かな
蟻の道護摩焼く灰に遮られ
経唱ふ背に夏山の青みたり

10月号(第296号)
方円秀韻抄
盆祈祷大和三山真向ひに
清象集 「盆迎ふ」
終戦日口塞がるる弾薬庫
とんぼうの右複眼に壇ノ浦
思ひ出も痛みも流し秋出水
盆祈祷大和三山真向ひに
海峡を望みて龍虎今朝の秋
龍笛の稽古の宮司涼新た

11月号(第297号)
清象集 「Bugs Jobs」
討論のあとの静けさ轡虫
独り身の塒にひとり鉦叩
腕のなきトルソの肩に蜻蛉かな
秋蝉の波音に勝つ力なし
枕木の残る廃線葛咲けり
影の濃きキリスト像や厄日来る

12月号(第298号)
特別作品 「秋水秋景」
鰯雲瀬戸より流れ港まで
秋高し湾を横切る鳶の影
秋光を受けて甍の鏡色
鶏頭の己が重みを思ひ知る
花芒岸を指す者立てる者
野葡萄熟れ野葡萄色の参詣道
荒れ庭を終の棲家に式部の実
秋晴れや出口の見える小隧道
昼サイレン止み暫くは草雲雀
秋風や銘の消え去る武将墓碑
本堂は線路の向かう秋桜
黄落やしるべしるべに石仏
萩咲くや山の社の古瓦
人気なき駅前広場木守柿
釣瓶落としなほも水辺の輝けり
今年の私の四季
それぞれの揺れ方ありぬ花薺
青嵐眼見開く磨崖仏
盆祈祷大和三山真向ひに
青空に押し流さるる冬の雲
清象集 「秋濤」
鳶一羽海風を得て秋高し
秋濤の岩々を食み島を食み
倒れてもなほ一塊の彼岸花
水引草穂先は吉備の海向けり
家灯り山まで灯る雨月かな
葛咲くや空家の潮に曝さるる