2010年
1月号(第263号)
雑詠
山茶花や仮名で刻める御真言
石蕗咲くや別荘跡の古瓦
団栗の礎石に撥ねて戻りけり
ツーリングの一団過ぎて鵙の声
平等に夕日を浴びる木守柿

2月号(第264号)
雑詠
綿虫や風力発電押し黙る
我が影を池に落として冬ざるる
枯れ果つる手水の水や神の留守
流感の窓に僅かな日向かな
オリオンの最期の角の沈みゆく

3月号(第265号)
雑詠
直角になびく幟や年用意
万両濃し競売前の家屋敷
寒鴉届かぬ声の断続す
此処からは単線区間黄梅咲く

4月号(第266号)
雑詠
寒鴉飛び立ちてまた独りかな
梅ひらき真先に受くる雨しづく
春立つや山鳩の声高くなり
大寒やベテルギウスの堕ちゆけり

5月号(第267号)
雑詠
日の射すや芽吹きのひとつひとつにも
春塵の真つ只中へ長汽笛
山ひとつ越えて摂州梅開く
沈香ややや微笑みて土雛
側溝は猫の近道菫咲く
春めくや日舞の首の傾げ方

6月号(第268号)
雑詠
川走る工場の煙寒戻る
土手長し点描なして白蒲公英
春ならひ一分ずれる昼サイレン
朝ひとひら夕べひとひら木蓮散る
春塵やガールスカウト闊歩せる

7月号(第269号)
雑詠
雲ひとつゆるりと越えて春の山
湖風の道を隔てて代田波
湖山の間に蓮華田拡がりぬ
雨蛙伊勢街道の雨上り
迷ひ道雉鳴く方へ戻りけり
花大根土蔵の壁のささ崩れ

8月号(第270号)
雑詠
椎の香やけふ斎場に煙なし
露座仏の両のみ腕に夏薊
幹の皺深きところが蟻の道
見る程に雨受く毎に七変化
けふ梅雨入りまだ新人の俯けり
守宮這ふ土蔵の壁の色のまま

9月号(第271号)
雑詠
虫落ちて生の記憶を蟻に継ぐ
絶景の先へ先へと夏揚羽
木槿咲く隣の家は三回忌
久々に窓開く空家夏鶯
炎天や責苛むが政論か

10月号(第272号)
雑詠
きちきちの草より出でて草の色
秋立つや手水の水のなみなみと
阿と吽の島を望める今朝の秋
海風の裏木戸を抜け稲架を抜け
とんばうの遥か真下に熊野道
今朝はまだ誰も威さぬ威筒

11月号(第273号)
雑詠
太刀魚に峰打ちを受けさざれ波
秋風の木々と語らひ我に近付く
秋高し漏刻の水さらさらと
大暑なり金剛力士凝視せり
秋蝉や生ける証を絞り出す

12月号(第262号)
今年の私の四季
日の射すや芽吹きのひとつひとつにも
幹の皺深きところが蟻の道
きちきちの草より出でて草の色
寒鴉飛び立ちてまた独りかな
雑詠
穂草騒ぐ不意の訃報を疑ひて
曼珠沙華四番ホーム閉鎖され
金木犀近づくごとに向ひ風
暫くは山を漂ふ草の絮
登高や風止みてまた波の音
鵙啼くや隣の山へ道別れ