2009年
1月号(第251号)
雑詠
水引や無名戦士の小さき墓
下山道零余子をひとつポケットへ
見晴らしを波に任せて冬鴎
うそ寒や湖面を走る雲の影
日の射すや余呉のほとりの赤のまま

2月号(第252号)
雑詠
冬蝶落ちなほ鱗粉の輝けり
冬晴れや立木に当たる風の音
実南天たわわ廃車の屋根朽ちて
寒鴉羽ばたきながら呟けり
一列に歩める雲や去年今年

3月号(第253号)
雑詠
冬晴れや家紋を刻む鬼瓦
短日や切妻屋根の田舎駅
俯くや社の脇の水仙花
寒潮や男島女島に深き溝
訃報聞き聖夜飾りを外しけり

4月号(第254号)
雑詠
さりげなく盆梅咲かす町屋かな
苔むせる尊徳像や建国日
山道の曲り霞の中に消ゆ
登頂の証に踏める霜柱
山寺の耐震土台寒明ける

5月号(第255号)
雑詠
霾や視界にひとつ竹生島
角に入り曲がり切るまで丁子の香
耕人の二人棚田の上下より
たらの芽や神宮道の阻まるる ※「たら」は木へんに怱
湖風や三軒先の梅香る

6月号(第256号)
雑詠
鶯や谺の如く鳴き合へり
点々と雌岳を望む山桜
春星のひとつ跳ね落ち山頂碑
囀るや郷へと下る高圧線
菜の花や地蔵三尊傾きぬ

7月号(第257号)
雑詠
ふらここの台座に風の余韻かな
げんげ田に風途切れなく走り去る
藤垂るや風力発電押し黙る
日を浴びる毎に躑躅の濃ゆきかな
蟇鳴くや根元の腐る丸木橋

8月号(第258号)
雑詠
河鹿笛清流俄かに荒々し
夾竹桃紀伊より続く浜辺道
花石榴去年の種を隠し持つ
廃駅を風通過せり夏鶯
崩れ落つ兵舎の甍紫蘇染まる

9月号(第259号)
雑詠
つばくろのみじかき歌や士卒墓所
磯の香の不意に訪ふなりほととぎす
枇杷生るや駅前街の静まれり
潮風の留まるところ紫蘇濃ゆし

10月号(第260号)
雑詠
青鷺や東の畔と西の畔
駅前の破産公告秋立ちぬ
百日紅切妻屋根の商家群
死にざまの形整ふ油蝉
竜胆を根元に咲かせ穴太積

11月号(第261号)
雑詠
野葡萄に山頂の風染まりけり
露草や門前茶屋の朝支度
水引や参詣道の崩れゆく
秋蝉の合掌しつつ落ちにけり
灰皿に昔の地名秋茜

12月号(第262号)
今年の私の四季
ふらここの台座に風の余韻かな
青鷺や東の畔と西の畔
木犀落ち昨日の風の在処知る
冬蝶落ちなほ鱗粉の輝けり
雑詠
近江路のはやひつじ田になりにけり ※「ひつじ」はのぎへんに魯
芒野や我行く先は向かひ風
鈴虫や顔を失ふ磨崖仏
烏瓜朱の剥がれゆく奥の院
法名に童女の文字や秋桜