2008年
1月号(第239号)
雑詠
石蕗咲くや旧字の残る案内板
苔色の士卒の墓や鵙日和
漆紅葉躊躇ひがちに染まりをり
野葡萄の茎鮮やかに隅櫓
己が身を広げ蟷螂枯れにけり

2月号(第240号)
雑詠
万両に遅れて届く朝日かな
啄木鳥や風化の進む石地蔵
椈落葉朴落葉積む曲輪かな
鳶の輪の描き終わりて冬耕人
銀杏黄葉今日の羅漢は晴れの顔

3月号(第241号)
雑詠
新しき御幣の折目歯朶枯るる
飼ひ犬の墓標にも土初氷
短かめの初音を残し鳶の舞
寒潮に曇の色と晴れし色
大寒やリトルリーグの檄の声

4月号(第242号)
雑詠
ゆつくりと藻を食む鯉や日影雪
虫食ひの稲荷鳥居や一の午
ゆうらりと宙を楽しむ春の雪
奉納の名前の褪せて春浅し
一塊の落ちる音して春の雪

5月号(第243号)
雑詠
黄梅の真直ぐ湖を望みをり
白梅や享年記す地蔵袈裟
枯苔の貼り付く岩や冴返る
陽炎の中に連なる黒蕾
春寒し北を眺める鬼瓦

6月号(第244号)
雑詠
鶯の日毎に歌を練り上げる
二組の葬儀案内花薺
晴天をそのまま海に犬ふぐり
逃げ水や湖岸道路の湖に沿ふ
大屋根に桜蕊降る観音院

7月号(第245号)
雑詠
穴太積間の土より菫かな
咲きてより山吹色でありにけり
げんげ田に駅の名残を閉ぢ込める
天守より里に向かひて藤垂るる
ひとしきり囀り終へて正午かな

8月号(第246号)
雑詠
岩陰に最後に潜る蜥蜴の尾
七変化変化の前の白一株
枇杷生るや岬を望む鬼瓦
斎場の煙途切れず夾竹桃
鵜の発つや素潜り漁のシュノーケル

9月号(第247号)
雑詠
梔子の最期に遺す香りかな
頂の紫陽花麓より濃ゆし
穏やかな顔の仏や杜鵑
ふはと逃げふはと留まる糸蜻蛉
夏鶯歌の結びのそれぞれに

10月号(第248号)
雑詠
新しき銘の墓石や夏揚羽
炎昼や秀吉廟の枯献花
蝶ひとり駆け抜けるなり奥の院
向日葵の礼深々と無縁塚
涼しさや欄間に踊る龍と獅子

11月号(第249号)
雑詠
露草やテトラポッドの脚の先
響かざる添水の音や商家跡
青柿や壁崩れゐる長屋門
水引や海岸線のまた曲がる
鈴虫や淡路を望む隅櫓

12月号(第250号記念号)
今年の私の四季
ゆうらりと宙を楽しむ春の雪
ふはと逃げふはと留まる糸蜻蛉
須磨の海騒がず釣瓶落しかな
万両に遅れて届く朝日かな
雑詠
木犀落ち昨日の風の在処知る
校訓を刻む石碑や秋桜
コスモスや螺旋階段錆び付きぬ
一斉に稲穂へ逃げる飛蝗かな