2007年
1月号(第227号)
新春精鋭八人集 「眺望」
道をしへ仏足石の湖に向く
吾に見えぬ風を掴みて秋の蝶
野葡萄の絡みて熟るる捨て杖に
サイレンの止みて鳴き初むきりぎりす
風音に遅れて揺れる蒲の絮
そこここに倒るる卒塔婆ひつじ伸ぶ ※「ひつじ」はのぎへんに魯
いつまでも月を左に家路かな
鶏頭の芯まで紅く倒れけり
身を染める事なく枯れる楓かな
惜しむものなし真直ぐに葉の落ちる
雑詠
道標の消えゆく文字や赤のまま
国境まで暫くは尾花道
歴将の眺めし景や早稲実る
鳶の輪の彼方に機影秋気澄む
下山道はたはたときに追ひもして

2月号(第228号)
雑詠
五合目に雲を休ます時雨かな
時雨るるや甍の歪む無人駅
木枯しや疏水の脇の稲荷様
拍子木の音の鈍りて寒夜かな
白鳥のともに発つ羽根落ちる羽根

3月号(第229号)
雑詠
庭暮れて白山茶花の窓明り
薄雲を越えきし初日受けにけり
初霜の根元に樫の息吹かな
親元を離れぬ枯葉去年今年
祭はんてん着てゐし動きして干され

4月号(第230号)
雑詠
菜の花や護岸工事の昼休み
サイレンを一分鳴らし春立てり
鳶鳴くや耕人たちの長話
釈の字を並べる墓碑や梅三分
春立つや黄色の映えるヘリポート

5月号(第231号)
雑詠
菜の花や此処から先は北近江
残雪は霞まざるなり伊吹山
落椿行き交ふ人を凝視せり
座禅草人の視線の居丈高
風音は山から湖へ鳥雲に

6月号(第232号)
雑詠
菜の花の群なし登る隅櫓
鳶の影大きくなりぬ春彼岸
白蒲公英旧街道のなまこ壁
春光を躙り口より採り入れる
紅梅や瞳の抜ける鬼瓦

7月号(第233号)
雑詠
桐咲くや落慶前の村社
鶯の歌に後半ありにけり
何事か不満の子あり蘖ゆる
著莪咲くや湖に繋がる沢の音
夏立つや暫く停まる救急車

8月号(第234号)
雑詠
植田面に雲を浮かばせ昼餉かな
国境左右を望む蜂二匹
発ちかけてまた引き返す天道虫
風止めば時々細き滝の音
鳴き止みて鼓膜の奥に蚯蚓鳴く

9月号(第235号)
雑詠
梔子や十七弦の音のずれ
老鶯や岬に当たる風の音
鳶二羽の同心円や青峯濃し
航跡のやがては波に露晴間
バイエルの間違ふ所花石榴

10月号(第236号)
雑詠
城山や遠くに光る鳥縅
松蔭に我が身を冷やす蝉骸
一息に天守に向かふ金亀子
新しき地滑りの跡秋暑し
言ふ事を聞かぬ機械や終戦日

11月号(第237号)
雑詠
とんぼうの瀬戸を背にして家路かな
萩咲くや瀬戸の狭間に岩二つ
秋暑し一刀彫の荒木屑
虫食ひの薬師の御手や花擬宝珠
萩咲くや阿形の口の薄暗し

12月号(第238号)
今年の私の四季
菜の花や此処から先は北近江
植田面に雲を浮かばせ昼餉かな
国境まで暫くは尾花道
時雨るるや甍の歪む無人駅
雑詠
萩咲くや蜜柑畑のモノレール
日に向かひ日よりも濃ゆき鶏頭花
須磨の海騒がず釣瓶落しかな
つづれさせ山城前の杖置場
風に乗る飼料のにほひひつじ伸ぶ ※「ひつじ」はのぎへんに魯