2006年
1月号(第215号)
雑詠
秋蝉や不意に途切れる風の音
城下守る八幡宮の曼珠沙華
はたはたの飛べる背中は日本海
鳴き止みて地に身を任す秋の蝉

2月号(第216号)
雑詠
雲去りてまづは輝く尾花かな
散紅葉着飾る甍照りにけり
木枯しや親の見守る通学路
オリオンに向かひ家路の人の列
寒夕焼けふ新人の辞めゆけり

3月号(第217号)
雑詠
真先に枯れし木照らす初日かな
薺摘み愛犬の墓崩れをり
過ぎし日の絵馬の願いや初松籟
万両に光地を経て届きをり
厄年の表新しく花八ツ手

4月号(第218号)
雑詠
楠公の首塚紅き実万両(観心寺)
芽柳や責めらるる事多かりし
春浅し学生寮の門朽ちて
出来立ての新居の基礎や日脚伸ぶ

5月号(第219号)
雑詠
梅七分迷子案内こだまする
三脚の数立つ梅の濃ゆきかな
塗りたてのペンキのにほひ春浅し
春寒し横断歩道塗り替へる

6月号(第220号)
雑詠
門前の店静まりて白木蓮
いつもより早き目覚めや雪柳
山道の明るい方に花馬酔木
彼方まで途切れぬ雲や百花舞ふ
知らぬ間に日の傾きぬ黄砂風

7月号(第221号)
雑詠
白藤や甍の浮ける羅漢堂
石南花や誕生佛の指の先
亀鳴くや書院の窓の薄明かり
人前で鳴かぬ蛙や井伊の墓所

8月号(第222号)
雑詠
花桐の凛と立ちゐて四足門
何事か隠し通して蛍袋
湖風を呼び寄せ濃ゆき夏薊
四葩咲き誇る根元に鳥埋めて

9月号(第223号)
雑詠
山里の景色うつろひ夾竹桃
天王山夏うぐひすのその後絶え
青鷺の振り返るまま四半時
ただ一花香る梔子戦士の碑
山頂のさらなる真上黒揚羽

10月号(第224号)
雑詠
堕ち切つて白を失ふ滝の水
山の雲白紫陽花に下り来し
古都に向かふ貨物列車や茄子の花
炎天や猛犬注意といふ脅し
鳴き終へた後の胸板蝉落ちる

11月号(第225号)
雑詠
きちきちの不意の羽音や無縁墓
特急の遠く去る音葛の花
大いなる影を誇るや鬼やんま
秋蝉の声の途切れて涅槃像
紅芙蓉染物工場閉鎖さる

12月号(第226号)
雑詠
葛咲くやえりを見下ろす鬼瓦 ※「えり」は魚へんに入
名の読めぬ士卒の墓や秋彼岸
山鳩の声の掠れや秋気澄む
剥がれ落つ土蔵の壁や稲雀
秋桜終着駅の急カーブ