2005年
1月号(第203号)
雑詠
雨粒に追はれて紅葉且つ散りぬ
やはらかき都言葉や竹の春
野仏の絶えざる笑みや黄落期
ふるさとの小径に触れて鰯雲
彼の地より無事の便りや今朝の冬

2月号(第204号)
雑詠
ひとしきり木の葉降らせて森眠る
寒林の枝を虚空に突き上げて
花八ツ手誰も訪はざる山の宿
己が枝に己が生終ふ木の葉かな

3月号(第205号)
雑詠
狛犬の阿の口雪を食みにけり
冬草や災ひの地の生き残り
初風や息災の護摩焚く香り
七草粥掻き込み企業戦士かな

4月号(第206号)
雑詠
浮寝鳥発電風車止まりをり
冬耕の農夫一人の山河かな
梅七分大日像は印結ぶ
白梅に呼び止められて下山道
菜の花や年端も行かぬ子の御霊

5月号(第207号)
雑詠
落ちてなほ海を望みぬ紅椿
幾つもの入江の波や花馬酔木
蛍(ほうたる)の初見参や風の声
春霰浅き眠りのうすあかり
紀の川も蛇行鷺の巣見下ろせる

6月号(第208号)
雑詠
春塵や羅漢の笑顔歪みをり
入定の瞳の跡や雪解光
残雪より雲の湧き出て伊吹山
華やぐや鎮守の裏の落椿

7月号(第209号)
雑詠
白躑躅踏まれぬ場所に落ちにけり
差別語の落書き消され夏立てり
農道の途切れて久し花薺
行く春や舟屋に舟の戻る頃

8月号(第210号)
雑詠
南朝廟今日より蜘蛛の新居かな
快晴の青負ひ滝音限りなし
鳰の巣や母の背に似た波を恋ふ
額の花見られて色を増しにけり

9月号(第211号)
雑詠
やうやくの梅雨の恵みや千枚田
もぢずりの奥まで雨の滴かな
蛇の子に先を譲りて熊野道
薄羽蜉蝣我が晩年の静かとも

10月号(第212号)
雑詠
風通る長屋の先の百日紅
でで虫の殻の色まで果てにけり
死ぬ間際まで熊蜂でありにけり
流落を終へ滝壺の深みどり

11月号(第213号)
雑詠
かなかなの右鳴き止めば左から
暫くはとんぼと山の風を聴く
秋蝉や湖に繋がる雲の色
青楓やがて流れとなる水に
滝壺や木々の息吹をひそませて

12月号(第214号)
雑詠
俗界に降り水引のそこかしこ
毬栗を留めゐて猛き鬼瓦
虫鳴くや修業大師立ち止まる
狭間より見て越前路曼珠沙華
波音と波風の音と昼の虫