2004年
1月号(第191号)
雑詠
一息に稲雀とはなりにけり
爽籟や淡路に続く波の列
黄落や風なき山の痩せはじむ
曇天の白より抜けし都鳥

2月号(第192号)
雑詠

照らされて末期の色の紅葉散る
深淵の恨みや落葉降り止まず
波風を招きて白し冬芒
幽天の隙間に刺さる鳶のこゑ
幾度も攻め入る浪や浮寝鳥

3月号(第193号)
雑詠

神木の影薄まりて年用意
一時の労はり合ひや懐手
門松の竹あをあをと郷の朝
川ひとつ隔てて眩し冬青空

4月号(第194号)
雑詠

寒鴉瞳の奥に神の山
梅三分秘めたるものの七分かな
梅三分朝日は皆に平等に
探梅の歩みに応ふ土の音
春寒し富士より続く雲の列

5月号(第195号)
雑詠

霾やなほ罪咎の深うして
絶え間なき港の風や梅日和
磯の香の風ときどきの丁子の香
在りし日の椿のまゝに落ちにけり

6月号(第196号)
雑詠

落ちてなほ命の色や紅椿
風一過白木蓮の乱れ髪
沢の雨に沢の色増すすみれ花
桜蕊降り渓流に落ちにけり
木瓜一輪影を恐れて咲きにけり

7月号(第197号)
雑詠

逝く前に無垢の空あり草蜉蝣
山躑躅従へ参る外宮道
ごきぶりも人恋しくて夜の駅
夏蝶発ちひときは影の大きくて

8月号(第198号)
雑詠

青鷺の二度発ちかけて押し黙る
桑の実の落ちて小路の染み親し
空にゐて空の色為す七変化
散る者の血を受け継ぎて夾竹桃

9月号(第199号)
雑詠

昼の熱夕べに燃やし夾竹桃
さはさはと微風に応ふ青田かな
向日葵や素知らぬ顔の露座仏
老鶯や町に喰はれる里の山
炎天を光に変へて瀬戸の波

10月号(第200号記念号)
雑詠

蝉落ちて末期の声を絞りきる
我が方へ身を寄せてくる青田風
片陰やかつて賑はふ廃駅舎
蜩を独り鳴かせて街明くる
蚯蚓鳴き止まず憂ひの残りをり

11月号(第201号)
雑詠

秋蝉や向かひの山の畑仕事
実石榴の残らず風に従ひて
鶏頭の赤の深さや南朝廟
鶏頭や五重塔の屋根の反り
忠魂碑に御名を見出だし紅芙蓉

12月号(第202号)
雑詠

赤のまま水子地蔵の袈裟その色
独りてふ生き方もあり曼珠沙華
青空を四角く区切る稲架の影
新しき家のにほひや秋高し
木犀の三歩後ろで匂ひけり
閑村にふはりと秋の揚羽かな