2003年
1月号(第179号)
雑詠
国想ふアボジの庭の実千両
右にあらば右の波聴く石蕗の花
瀬戸内の脇の小島も四温かな
海岸の街裸木に微動あり

2月号(第180号)
雑詠
渡し場に野火の煙を渡しをり
時雨雲過ぎ葬列の長きかな
灯りなき忌中の門や冬木の芽
北岸よりきて凍雲となりにけり

3月号(第181号)
雑詠
去りゆきて冬銀漢のひとかけら
郷出でて郷の方より初音かな
一時の賑はひ避けて初御籤
冬日向先づ大神(おおみわ)の大屋根に

4月号(第182号)
雑詠
家を明け渡す咲き初む梅の木も
雪形に永訣の日の当たりをり
春浅し山の息吹の雲を寄す
境目のなき湖霞山霞
波もまた南を望む余寒かな

5月号(第183号)
雑詠
二月尽余光といへど日の光
散る如く流るる如く春の雪
犇きて漸く梅の香となれり
春落暉土手の昃りを見届けて
雲一塊駆け抜け耕人一人かな

6月号(第184号)
雑詠
耕人のただ一点を眺めをり
さらさらと夜色被はじむ花の雲
桜蕊降らせる風に逆らひて
風光る戦場の子の無表情
ふらここの揺れ治まりて闇ひとつ

7月号(第185号)
雑詠
さざ波の空と出逢ひて夏隣
蘖えて波の青さを覚えをり
代田波昨日の空を懐かしむ
春峯の袖の先なる露坐仏
げんげ田に風追ふ色の過ぎにけり
白躑躅心は波に染まりけり

8月号(第186号)
雑詠
鴨足草(ゆきのした)見送る水の幾重かな
目纏ひの只中にゐて棒の如
夏嵐駆け抜け未練なかりけり
雲といふ雲断ち切りて青嵐
生きてゐる事こそ誇り田水湧く

9月号(第187号)
雑詠
がうがうと市電の唸り走り梅雨
青田面の無言の青に風の訪ふ
迷ひなく暮色に染まる四葩かな
夏蝶の乗るべき風の未だあらず

10月号(第188号)
雑詠
とんぼうの右往左往や森拓く
露草の露奪はれてなほ青し
広島忌原色の焔の鉢並べ
波打てる青嶺水面は平らかに
どくだみの四角四面を貫きて

11月号(第189号)
雑詠
案山子にも誇りのありてこの姿
今日明日の狭間に虫のひとつごゑ
守る者あり蟷螂の両腕
青空を眼に嵌めて終戦日
白木槿日ごとに空の縮まりて

12月号(第190号)
今年の私の四季
げんげ田に風追ふ色の過ぎにけり
生きてゐる事こそ誇り田水湧く
とんぼうに漏れなく湖の光かな
海岸の街裸木に微動あり
雑詠
曼珠沙華もて曼珠沙華覆はるる
楓の実己が形を風に乗せ
倒さるる程の風受け秋桜
諍ひの絶へざり銀杏鼻をつく
鶏頭の襞の数混み憎み合ふ