2002年
3月号(第169号)
雑詠

葱を引く狭庭に風のたまる場所
数へ日の欅大樹に星を置き
捨て畑の冬ざるるまま暮れにけり
幾曲がりして果つるなり冬田道

4月号(第170号)
雑詠

冬川に波の逃げ込むところあり
冬萌や去年(こぞ)の命を振り落とす
待つ程に日の隠るるや迷ひ鴨
雪しまく青なき空を震はせて

5月号(第171号)
雑詠

一息に揃はぬ柳若葉かな
休耕田に雲雀のあがり過疎の村
老梅の伝へたき色寄せて咲く
遠野火の煙よこなが空真青
落慶を迎へし鴟尾や風光る

6月号(第172号)
雑詠

初音聴く町の賑はひ遠くして
鷺の発つ如くに風の辛夷かな
花冷えの庭の手入れの捗らず
閑村や川面に映る花の雲
蒲公英の絮躊躇ひて発ちにけり

7月号(第173号)
雑詠

照りつける程の日のなし啄木忌
波立つやえりの彼方に近江富士 ※「えり」は魚へんに入
波風の絶えざり松の花立てる
デージーの十の視線や無縁仏
白のまま深紅のままに躑躅落つ

8月号(第174号)
雑詠

廃屋となり一輪の夏薊
滝音負ひ欅大樹となるを急く
青楓葉先五つに雨滴溜め
老鶯や消えかゝりゐる千社札

9月号(第175号)
雑詠

賑はひの先に根おろす雲の峰
蜘蛛の巣を掴みて蜘蛛を逃がしけり
濁りたる古墳の堀や蒲立てる
日の差してますます黒き茄子の花
夾竹桃如何に街並変はれども

10月号(第176号)
雑詠

木槿垣隣の庭を訪ひにけり
白木槿無理矢理食をすすませて
廊登り尽き盂蘭盆の雨荒し

11月号(第177号)
湖北吟行
露草の密かな青やつづら折
とんぼうに漏れなく湖の光かな
爽籟や鳶の輪の舞目の下に
雑詠

九・一一命紅曼珠沙華
馬追ひのすいの音溜めてちよんと鳴く
朝顔も雨戸の内を恋ふが如

12月号(第178号)
雑詠

名月に逢ふ暫くは上り坂
木漏れ日を受ければ立つる犬子草
湖望む高さとなりぬ花芒
とんぼうに漏れなく湖の光かな
露草の密かな青やつづら折