ロボット製作と制御学習における 「レゴロゴ・テクノ倶楽部」の活用 |
羽曳野市内各中学校では4年前のWindowsパソコン導入に伴い、「レゴロゴ・テクノ倶楽部」を各校2セット購入しました。しかし、DOSマシン導入期に購入した「ロゴライター2」での活用となったため、DOS環境とWindows環境の両方を整える必要が出てきました。実際に授業で活用したのは10人程度での選択授業でしたが、そのときは5〜6人で1セットを使いマニュアルを見ながらモデルを作り、プログラムを打って動作させるだけでした。
そこで、「レゴロゴ・テクノ倶楽部」を制御学習用だけではなく、必修授業におけるリンク機構とロボット製作時の学習支援用教具としてとらえました。レゴブロックのビームとペグを4つ組み合わせるだけで、簡単に精度の高い「リンク機構」ができあがります。「レゴロゴ・テクノ倶楽部」には赤いビームしか入っていないので、今回は各リンクの働きをわかりやすくするためにオプションの黄色と青色のビームを使いました。
リンクを自作する時はプラスチック板を切断して等間隔に穴をあけることになるのですが、加工そのものに時間がかかります。実際にはロボット製作に使う市販プラスチック製穴あきリンクと、取り外しが自由にできるプラピンの組み合わせが便利だと思います。
また、制御学習としてもモータの出力が9段階で調整ができるので、生徒が興味を持って学習できるのではないかと考えました。BASIC言語でも同様のモータ制御はできるのですが、インタフェースやプログラムも少々工夫する必要が出てきます。その点、ロゴ言語では日本語のコマンドにより制御の対象物がそのままの動きをしますので見た目にもわかりやすく、興味を持ちながら学習できそうです。
中学校技術・家庭科での実習教材としてロボットを取り上げ、ロボット製作と制御学習において「レゴロゴ・テクノ倶楽部」の活用例を考えました。
1 リンク機構を使ったロボット製作と制御学習
リンク機構を使ってロボットの動きをつくる時、リンクの組み合わせを何度も変えてみるのですが、なかなかうまくいかず、途中で挫折しそうになることもあります。レゴブロックを使えば、リンクの長さを簡単に変えてロボットの動きをシミュレーションできるので、イメージした動きをそのまま形にすることができます。
1)リンク機構1(てこクランク機構の学習)
ロボット製作におけるリンク機構の学習用として「てこクランクシミュレーション」をレゴブロックで作りました。てこ、クランク、連接棒、固定リンクからなる「てこクランク機構」を基本としながら、各リンクの長さを自由に変えて実験ができます。
てこクランク機構は、てこ(青)、クランク(黒)、連接棒(赤)、固定リンク(黄)の4つのリンクで構成されます。クランク(黒)の回転により、連接棒(赤)に連結されたてこ(青)は、揺動(往復)運動を行います。てこの動く範囲は(1)が最も左、(3)が最も右の時です。ロボットの動きをどのようなものにするのかによって、各リンクの使い方が変わってきます。例えば、てこ(青)の動きをもっと大きくする方法などを考えてみてください。また、連接棒(赤)の動きもよく観察してみると以外とおもしろい動きをしていますので、アイディア次第ではおもしろいロボットの動きができそうです。
2)リンク機構2(ロボットの動きを作る)実際に缶運びロボットの製作を想定し、てこクランク機構を基本にリンクを組み合わせて空き缶を持ち上げてからゴールに入れる動きを作りました。ロボットを作る前に、レゴでリンクの長さをいろいろと変えながら最適な動きになるまでシミュレーションを行います。
クランク(黒)の回転により、連接棒(赤)に連結されたてこ(青)が、揺動運動をします。てこ(青)と平行に組み合わされたリンク(黄)のはたらきで、「缶をすくい上げる→缶を持ち上げる→缶をゴールの高さまで持ち上げる→缶をゴールに落とす」という動きを作ることができました。
3)リンク機構を使った制御学習簡単なモータ制御学習の例です。以下の命令をコマンドセンターから入力します。
インタフェースBとの接続 INPUT 5 アングルセンサー (クランク) OUTPUT A モータ (回転)
レゴはじめ :レゴ制御プログラムを実行する。 おくるポートは ”a :出力ポートaを指定する。 オン :電圧をポートaに送る。(モータが回転する。) オフ :電圧が止まる。(モータが停止する。) オンのじかんは 60 :1秒間モータが回転した後、停止する。 オンオフは 60 60 :1秒おきにモータがオンオフを繰り返す。 パワーは 5 :ポートに送る電圧を5に設定する。(パワーは0〜8の9段階) きょくせいは 1 :モーターの回転方向が右に変わる。(初期値は0で左回転) オフ :電圧が止まる。 次は指定した数だけ回転して停止させるプログラムです。
クランク軸にアングルセンサを取り付けます。アングルセンサは、回転値±1で左右いずれかに 22.4°回転したことを意味し、回転値±16で1回転となります。取り付ける向きによって+−が逆になりますので注意してください。
プログラムは、「かいてんをもとへ」でリセットされ、回転値(かいてん)が0となり、指定した回転値以上に達すると止まります。このプログラムを改良すれば回転方向、回転速度のコントロールが可能となります。
てじゅんは てこくらんく:回転
パワーは 4
おくるポートは ”a
かいてんをもとへ
うけるポートは 5
きょくせいは 0
オン
ほんとうまでまて [かいてん <= −1 * :回転 * 16]
オフ
おわり
4)リンク機構を使ったロボットの製作
缶運びロボット 市販のツインギヤボックスを使い、前輪にキャスターを使った三輪タイプの基本車両に、クランクギヤボックスを載せ、市販プラスチック製リンクを組み合わせて缶運びロボットを製作しました。
リンク機構の固定部分はビスとナット、スペーサ、ワッシャ、ゴムの構成とし、それ以外はプラスチックピンを使っています。プラスチックピンは2つのパーツを組み合わせる構造になっており、中心のピンを押し込んだ状態でロック、引き抜くとフリーとなり、ワンタッチでリンクの取り外しができるので、リンクの組み合わせを変える時には便利です。
リンク機構2(ロボットの動きを作る)でシミュレーションした形と同じになるように片側のリンクを組み合わせます。このときに、モータをクランクギヤボックスに取り付けていると、手動でクランクを回転させることができませんので、モータは取り外しておきます。缶を運ぶ動きが作れたら、残りの側のリンクを同じ形で組み合わせ、穴あきアルミ板(缶を運ぶところ)をリンクに取り付けます。実際に缶を持ち上げて、ゴールに入れることができるかを確かめてから、モータを取り付けロボットを動かしてみます。うまく缶を持ち上げられない場合は、もう一度モータをはずして調整をやり直します。
2 4サイクルエンジンシミュレーション
最近は中学校でもエンジンを教えるだけの時間数のゆとりが少なくなってきましたが、私は機械の学習の最後に内燃機関のしくみを取り上げています。このモデルは4サイクルエンジンの4つの行程を体験的に理解できるようにしたものです。
吸気弁、排気弁を人が操作し、タイミングが合っていなければ、次の行程に進めないようにプログラムしました。モニタ上で「吸気・圧縮・膨張・排気」の4行程をリアルタイムで表示させ、エンジンが止まったときの原因も表示させました。
インタフェースBとの接続 INPUT 1 タッチセンサー (吸気側) INPUT 2 タッチセンサー (排気側) INPUT 5 アングルセンサー (クランク) OUTPUT A モータ (回転) OUTPUT B ランプ (点火)
プログラム例 4さいくる
てじゅんは 4さいくる
すたーと
おくるポートは ”a
パワーは 3
まわれ
かけ ”*1000rpm
パワーは 3
まわれ
かけ ”*1200rpm
パワーは 4
まわれ
かけ ”*2000rpm
パワーは 4
まわれ
かけ ”*2200rpm
パワーは 5
まわれ
かけ ”*3000rpm
パワーは 5
まわれ
かけ ”*3200rpm
パワーは 6
まわれ
かけ ”*4000rpm
パワーは 7
まわれ
かけ ”*5000rpm
オフ
おわりてじゅんは まわれ
かいてんをもとへ
おくるポートは ”a
きょくせいは 0
オン
うけるポートは 5
きゅうき
あっしゅく
てんか
ぼうちょう
はいき
うけるポートは 5
ほんとうまでまて [かいてん >= 37 * 2]
じをけせ
おわりてじゅんは てんか
ほんとうまでまて [かいてん >= 36]
いろは 2
たのむおくるポートは ”b [オンのじかんは 10]
いろは 5
おわりてじゅんは きゅうき
ほんとうまでまて [かいてん >= 1]
じのいろは 5
かけ ”吸気行程
ていし1
かけ ”−OK−
おわりてじゅんは あっしゅく
ほんとうまでまて [かいてん >= 19]
じのいろは 6
かけ ”圧縮行程
ていし2
ていし3
かけ ”−OK−
おわりてじゅんは ぼうちょう
ほんとうまでまて [かいてん >= 38]
じのいろは 2
かけ ”膨張行程
ていし2
ていし3
かけ ”−OK−
おわりてじゅんは はいき
ほんとうまでまて [かいてん >= 58]
じのいろは 3
かけ ”排気行程
ていし4
かけ ”−OK−
おわりてじゅんは すたーと
じをけせ
じのいろは 7
かけ ”3秒
まて 60
じをけせ
かけ ”2秒
まて 60
じをけせ
かけ ”1秒
まて 60
じをけせ
かけ ”*エンジン始動
おわりてじゅんは ていし1
たのむうけるポートは 1 [もし はんたい おしたか [とまれ1]]
おわりてじゅんは ていし2
たのむうけるポートは 1 [もし おしたか [とまれ2]]
おわりてじゅんは ていし3
たのむうけるポートは 2 [もし おしたか [とまれ3]]
おわりてじゅんは ていし4
たのむうけるポートは 2 [もし はんたい おしたか [とまれ4]]
おわりてじゅんは とまれ1
かけ ”STOP
かけ ”*吸気弁が開いていません。
オフ
みんなとまれ
おわりてじゅんは とまれ2
かけ ”STOP
かけ ”*吸気弁が開いています。
オフ
みんなとまれ
おわりてじゅんは とまれ3
かけ ”STOP
かけ ”*排気弁が開いています。
オフ
みんなとまれ
おわりてじゅんは とまれ4
かけ ”STOP
かけ ”*排気弁が開いていません。
オフ
みんなとまれ
おわり
メインプログラム「4さいくる」を実行すると、モニタで秒読みが始まりエンジンが回り始めます。「吸気」で吸気弁のタッチセンサを押すとエンジンが回りますが、押していなかったり「圧縮」の直前で戻さなかったり、「圧縮」でも押し続けていたりすれば、エンジンは止まってしまいます。うまくタイミングが合えば「圧縮」→「点火」(ランプ点灯)→「膨張」と進み、「排気」となりますが、ここで排気弁のタッチセンサーを押すタイミングが、早かったり遅すぎたりすれば、エンジンが止まってしまいます。タイミングを間違わないように吸気弁と排気弁のタッチセンサーを押せばどんどん回転速度が上がって行きます。なお、「吸気」と「排気」のタイミングは多少ルーズにしてあります。プログラムの回転値の変更で吸排気のタイミングは自由に変えることができます。
最後に
「レゴロゴ・テクノ倶楽部」に付属のモータは回転速度が比較的速いので、「リンク機構」や「4サイクルエンジンシミュレーション」を作るときはギヤを組み合わせて減速比を大きくとりました。ROBOLABに付属する9Vモータは内部にギヤダウンユニットが内蔵されているので低回転でトルクがあり、より使いやすくなっていると思います。レゴブロックはおもちゃとしてはよく知られていますが、機構学習やロボット製作、制御学習ができる教材としてはほとんど知られていないと思います。私は、小学校高学年から中学校の10〜15歳の年齢で機械のしくみやコンピュータによる制御を体験的に学習できることが望ましいと考えています。新学習指導要領では「技術とものづくり」の授業時間数が減ることもあり、ロボット製作に使える時間も限られてきますが、「情報とコンピュータ」で製作したロボットや「レゴロゴ・テクノ倶楽部」でプログラムによる制御を行ってみようと考えています。ただ、「レゴロゴ・テクノ倶楽部」を授業で使う場合は、ブロック組み立てとプログラム作成の時間配分を調整しながら行う必要があると思います。
今回の事例ではまだ授業での実践を行っていないのですが、何かの参考にしていただけたら幸いです。