第3章 ロボットの製作
1 部品選定について
必修授業だけでなく選択授業への発展性を考慮し、部品選定をおこなった。必修授業では製作費用や時間数が限られるので、必然的に使える部品にも制約がでてくる。基本車体を製作する上での目標は、全員同じ部品を使って、協力し合いながら作業を進めていけることと、生徒が創意・工夫をしてロボットの動きを作り出せることである。そこで部品の選定基準として、次の4点を考慮した。
@ 入手しやすい。 A 価格が手ごろである。 B 耐久性がある。 C 試行錯誤ができる。
特に基本車体のベースとなる部分をどのような材料にするのかによって、製作途中や製作後の不具合の点検や改良などに大きく影響をおよぼすことになってくる。@「入手しやすい」、A「価格が手ごろである」の基本的条件に加え、B「耐久性がある」、C「試行錯誤ができる」の条件に適応しながら製作途中や製作後も部材の位置の変更ができるものとして、T社製のユニバーサルプレートセットを車体ベースとして使用した(図4)。 セット内容は長さ160mm、幅60mmのABS樹脂製3mm厚プレート1枚、軸受けとアングル材各2個、ビス・ナット10セットが入っている。プレートやギヤボックスには3mm径の穴が5mmピッチであけられてあるので、プレートにギヤボックスやリンクなどの部材をビス止めができる。
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図4 ユニバーサルプレート (T社製 ITEM70098) |
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図5 FA-130RA |
2 モータとギヤボックス
(1) 使用するモータはギヤボックス付属のもので、M社製FA-130RAモータである。玩具・模型用として幅広く使われている代表的なモータである(図5)。 カタログ値では3Vで駆動させた場合、モータの回転数は13,200回転となっている。5)
(2) ツインギヤボックス
ツインギヤボックスは、2つのモータのパワーを別々に伝えることのできる組み立て式ギヤボックスで、ギヤ及びギヤケースはプラスチック製、シャフトは金属製で、はめ込みやビス止めにより組み立てることができる(図6)。 ギヤ比は標準と低速が選べ、標準ギヤでは2ヶ所のシャフト位置が選べる。シャフトの位置関係がギヤの選択により異なってくるため、基本車体のベースに取り付ける際はタイヤの前後関係に注意しておく必要がある。標準ギヤのギヤ比は58:1となっており、3V駆動時のシャフト回転数は約228回転/分となる。低速ギヤのギヤ比は203:1なので、シャフトの回転数は約65回転/分となる。計算上の走行スピードはタイヤの直径が5pの場合、標準ギヤで約60p/秒、低速ギヤで約17p/秒となる(表5)。 今回はスピードよりコントロール性を優先させたので低速ギヤを選択した。ただし、実際にはモータを回転させてロボットの動きを確かめて判断しても良い。
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図6 ツインギヤボックス |
表5 ツインギヤボックス性能表
ギヤ比 | 58:1 | 203:1 |
回転数(rpm) | 約228 | 約 65 |
速度(p/秒) | ★約 60 | ★約 17 |
★タイヤを直径5p、π=3.14として計算した。
速度=モータ回転数×1/ギヤ比×タイヤ円周長 (p/秒)
(13200/60)×(1/ 58) ×(5・π)
(1/203)
(3) 4速クランクギヤボックス
4速クランクギヤボックスセットは、ゆっくりした動きやパワーが必要な工作に幅広く使え、クランクアームも付属する。ギヤ比は126:1の高速型から5402:1の超低速強力型まで、4種類のギヤ比から選択でき、特に低速ギヤの1543:1と、5402:1の2タイプにはクラッチが内蔵されている(図7)。 缶運びロボットでは、缶を確実に運ばせることが目的であるので、トルク重視・低速型の2種類のギヤを選択した。4速クランクギヤボックスでは、表6★印のトルクにおいてクラッチがはたらき、モータや部材を保護するはたらきがあり、クラッチの役割を生徒に体験させることができる。なお、低速ギヤの2種類の内どちらを選択するのかは実際に組み立て動作させた上で行うことが望ましいと考える。
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図7 4速クランクギヤボックス |
表6 4速クランクギヤボックス性能表※
ギヤ比 | 126:1 | 441:1 | 1543:1 | 5402:1 |
回転数(rpm) | 約105 | 約30 | 約8.5 | 約2.5 |
トルク(g・cm) | 585 | 1483 | ★499 | ★2020 |
★印はクラッチ動作時の測定値 ※T社4速クランクギヤボックスセットより抜粋
3 基本車体の構成
基本車体の構成は、ユニバーサルプレートに前輪にキャスター、後輪にオフロードタイヤを組み合わせた3輪車とした(図8−@)。4輪車に比べ、3輪車はロボットの左右の回転が素早く行えることが特徴である。ただし、前方に加重をかけ過ぎると不安定になり、転倒することもある。 リンク装置の固定部として、ユニバーサルプレートを2等分したものをベース車体の両側面にアングル材により垂直に取り付けた(図8−A)。 4速クランクギヤボックスを基本車体前方、キャスター上部に取り付け、クランクアームの位置を調整するため、100oのシャフトをプレートの幅より10o長い70oで切断した(図8−B)。 また、ロボットとリモコン部分を取り外し可能とするため、それぞれのモータをコネクタピンに接続した(図9)。
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図8−@ | 図8−A |
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図8−B | 図9 |
4 3モータ缶運びロボット
缶を運ぶしくみはてこクランク機構を応用したもので、リンクの長さや支点の位置を変えることでロボットの動きを様々に変化させることができる。リンクの組み合わせは固定部分ではビスとナット、ワッシャ、ゴムの構成とし、それ以外はプラスチックピンを使用した。プラスチックピンは2つのパーツを組み合わせる構造になっている。中心のピンを押し込んだ状態でロックされ、引き抜くとフリーとなり、ワンタッチでリンクの取り外しができるので、リンクの組み合わせを変える時には便利である(図10、11)。
リンク機構を組み立てるときに、次の3点に留意して行った。
1) 4速クランクギヤボックスにモータを取り付けていない状態で片側のリンクを組み合わせ、手動でクランクを回転させて缶を運ぶ動きを作る。
2) 缶を運ぶ動きが作れたら、残りの側のリンクを同じ形で組み合わせ、穴あきアルミ板Gをリンクに取り付ける。
3) 実際に缶を持ち上げて、ゴールに入れることができるかを確かめてからモータをとり付け、リモコン操作を行ってみる。うまくいかない場合は、1)に戻り調整をやり直す。
表7 3モータ缶運びロボット主要部品
番号 | 品 名 | 規 格 | 数量 | 参考単価 |
@ | ユニバーサルプレート | T社製・楽しい工作シリーズNo.98 ITEM70098 | 2 | 240 |
A | ツインギヤボックス | T社製・楽しい工作シリーズNo.97 ITEM70097 | 1 | 560 |
B | 4スピードギヤボックス | T社製・楽しい工作シリーズNo.110 ITEM70110 | 1 | 480 |
C | DCモータ | M社製・FA-130(ギヤボックス付属品) | 3 | − |
D | オフロードタイヤセット | T社製・楽しい工作シリーズNo.96 ITEM70096 | 1 | 200 |
E | 前輪用キャスター | 全高38o | 1 | 80 |
F | プラスチックピン | オス・メスで1セット | 8 | 10 |
G | 穴あきアルミ板 | 1o厚・ 80×130、20×90o | 2 | 40/100p2 |
H | 穴あきプラスチックリンク | Y教材・万能フレーム 3o厚 12×200o | 4 | 50 |
I | コネクタ | N社製・2.5mmピッチNHコネクタ・6ピンL型プラグ | 1 | 35 |
J | コネクタ取り付け基盤 | S社製・ICB-88 | 1 | 90 |
K | 接続ケーブル | 6芯・200o | 1 | 200/m |
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図11 3モータ缶運びロボット |
5 4モータ缶運びロボット
3モータ型で実現できなかった動きを目標として、3モータ型で製作した基本車体を発展させた4モータ型缶運びロボットを製作した。4モータ型ではモータを1つ追加することにより、缶をつかみ持ち上げて運ぶ動作をさせることが可能となる。そのことにより、競技レベルそのものをアップできるのではないかと考えた。 また、4モータ缶運びロボットでは制御学習のフィードバック制御への対応も考慮に入れBUSY端子での制御に対応させたので、ロボットにはタッチセンサとして、マイクロスイッチを追加した(図12、13)。
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図12 モータ、マイクロスイッチの配線と4モータ缶運びロボット |
表8 4モータ缶運びロボット・主要部品
番号 | 品 名 | 規 格 | 数量 | 参考単価 |
@ | ユニバーサルプレート | T社製・楽しい工作シリーズNo.98 ITEM70098 | 3 | 240 |
A | ツインギヤボックス | T社製・楽しい工作シリーズNo.97 ITEM70097 | 1 | 560 |
B | 4スピードギヤボックス | T社製・楽しい工作シリーズNo.110 ITEM70110 | 2 | 480 |
C | DCモータ | M社製・FA-130(ギヤボックス付属品) | 4 | − |
D | オフロードタイヤセット | T社製・楽しい工作シリーズNo.96 ITEM70096 | 1 | 200 |
E | 前輪用キャスタ- | 全高38mm | 1 | 80 |
F | マイクロスイッチ | M社製・AH324661 | 1 | 60 |
G | ターンバックル | T社製・ターンバックルタイロッドセット OP-300 | 1 | 320 |
H | 穴あき金属リンク | Y教材・特殊万能金具 10×200×1o | 1 | 100 |
I | 穴あきアルミ板 | 1mm厚・60×60o | 2 | 40/100p2 |
J | スポンジゴム | 5mm厚・50×50o | 2 | 20/100p2 |
K | コネクタ | N社製・2.5mmピッチNHコネクタ・10ピンL型プラグ | 1 | 60 |
L | コネクタ取り付け基盤 | S社製・ICB-88 | 1 | 90 |
M | 接続ケーブル | 10芯:200mm | 1 | 200/m |
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図13 4モータ缶運びロボット |