はじめに
ロボットと言う言葉はチェコスロバキアの作家カレル・チャペックが1920年に書いた戯曲において初めて登場した。この作品では、ロボットを人間の代わりに働き、人類に奉仕するものとして描かれていたが、工場で次々生産されたロボットが最終的には人類を駆逐し、さらに新しい世界のアダムとイブになってしまうという内容で、世界中に衝撃を与えた。 1963年に日本初のTVアニメ・シリーズとして放映がスタートした「鉄腕アトム」は、独特の世界観、科学や人間への深い洞察が描きこまれた手塚治虫の代表作であり、未来の世界は技術革新によって繁栄し、幸福を生むというビジョンを掲げているかように思われている。「鉄腕アトム」は現在の日本のロボット研究に多大な影響を与えたことは事実であるが、自然や人間性を置き忘れて、ひたすら進歩のみをめざして突っ走る科学技術が、どんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし、差別を生み、人間や生命あるものを無残に傷つけていくかを描いた作品としてとらえる必要があろう。 現実社会で人間に奉仕する機械、たとえばクレーン、パワーショベル、ブルドーザーなど人間の力を何百倍にも増幅するような機械が次々出現したのは19世紀末である。さらに20世紀後半に登場した産業用ロボットは、繰り返しの単純作業や、危険を伴う作業などから人間を解放するとともに、生産現場の自動化や省力化に貢献し、生産性を飛躍的に向上させた。また、現在では医療、福祉、原子力、海洋、防災などより広い分野において、人間が操作したり、あるいは自律的に作業できるように認識機能を持たせたロボットが次々と開発されている。1)さらに、最近ではペットロボットのような趣味的なロボットや家事手伝いなども行える家庭用ロボットまで出現し、ロボットが工場だけでなく、より身近な存在となってきている。 今後、ロボットがますます社会や家庭において果たす役割が大きくなると考えられ、そのためにはロボットにより高度な動作や判断をさせるための機械や電気、電子、コンピュータなど様々な分野の技術を総合した技術開発が必要となってくる。私たちの生活の中に入り込んできているロボットについて、その基礎・基本を学んでいくことが、ものづくりを大切にする技術立国としての我が国を発展させることになり、ひいては世界に貢献することにもなるであろう。