§1.グ ラ フ と は ?
今、ここに6人の女の子がいます。名前を、今日子、成美、純子、保奈美、靖子、幸子といいます。この6人の友達関係は次のとおりです。
今日子は成美、純子、保奈美、靖子と友達であるが、幸子を知らない。 成美は純子、幸子と友達であるが、保奈美と靖子を知らない。 純子は保奈美、靖子と友達であるが、幸子を知らない。 保奈美は靖子、幸子を知らない。 靖子と幸子はお互いに知らない。 |
あなたは6人の友達関係を把握できましたか。2、3回読んだだけで把握することはとても難しいでしょう。では、上の文章をもっとわかりやすく表現する方法はないものでしょうか。その1つとして、図4のように表であらわす方法が考えられます。
今日子 | 成 美 | 純 子 | 保奈美 | 靖 子 | 幸 子 | |
今日子 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | |
成 美 | ○ | ○ | × | × | ○ | |
純 子 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | |
保奈美 | ○ | × | ○ | × | × | |
靖 子 | ○ | × | ○ | × | × | |
幸 子 | × | ○ | × | × | × |
図4
友達同士は○印を付け、そうでない場合は×印を付けているので、誰と誰が友達であるかがすぐにわかり、さらには、純子が何人と友達であるかなどもすぐにわかります。したがって、先の文章よりも6人の友達関係の表現としては、工夫されたわかりやすいものといえるのではないでしょうか。
次に、6人の友達関係を、グラフを使って表わしてみることにします。6人それぞれを点で表わし、お互いに友達同士であればその2点を線で結びます。すると図5の@のような点と線で構成された図が出来上がります。これをグラフと呼びます。
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図5
このグラフから
@ 誰と誰が友達同士であるか。(2点が線で結ばれているか否か)
A 純子が何人と友達であるか。(純子を表わす点に接続している線の数)
B 保奈美、純子、今日子が互いに友達同士であること。
(3人を表わす点をそれぞれ頂点とする3角形が存在する)
C 幸子の友達は成美だけであること。
(幸子を表わす点が、成美を表わす点とのみ、線で結ばれている)
D 今日子、純子の共通の友達は、成美と保奈美と靖子である。
等のことが、視覚的に把握しやすい。したがって、図4の表からはわかりにくいいくつかの情報も得られる。
図5の@では、点と点を結ぶ線はすべて直線で描かれています。しかし、グラフでは線はすべて直線である必要はなく、曲線でもかまいません。重要なことは、どの点とどの点を結んでいるか否かということなのです。 したがって、図5の@とAは同じ友達関係を表わしたグラフなのです。又、点の配置を変えたBのグラフも@、Aと同じ友達関係を表わしたグラフなのです。 このような3つのグラフは同型なグラフと呼ばれています。
ABのグラフは@のグラフと違って、線が6人それぞれに対応する点以外では交わっていません。このようなグラフは平面グラフと呼ばれています。又、点の配置を変えたり、線を曲げたりすることで平面グラフになるグラフは平面的グラフと呼ばれます。したがって、@は平面的グラフなのです。
しかし、グラフによっては、どのように点の配置を変えても、又、線を曲げても平面グラフにならないものもあります。そのようなグラフは非平面的グラフと呼ばれます。例えば、図6は非平面的グラフです。
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グラフとは、図5に示したように、6人の女の子に対応するような点集合Vと、2点間に友達関係が成り立つか否かを表わしたような線集合Eとのセットから成るものということができます。すなわち
V={ v1 , v2 , v3 , v4 , v5 , v6 } E={v1v2,v1v3,v1v4,v1v5,v2v3,v2v6,v3v4,v3v5} 図7のグラフ = G(V,E) |
と表わすことにします。
注意すべきことは、図6のような平面グラフでないグラフの線と線の交差している箇所は点ではないということです。
それではここでグラフ理論についての必須用語について説明をしておきます。
例えば、図7のグラフの点v1と点v3は線で結ばれています。このとき、点v1と点v3は隣接しているといいます。又、線同士についても、例えば、線v1v2と線v2v6は共に点v2に接続している。このとき、線v1v2と線v2v6は隣接しているといいます。
図6のように、グラフのすべての点がお互いに隣接しているグラフのことを、特に、完全グラフといい、点の個数がn個の完全グラフを記号Knで表わします。したがって、図6の完全グラフは、K5となります。
各点に接続している線の本数をその点の次数といいます。例えば、図7の点v1の次数は4であり、d(v1)=4という式で表わします。したがって、他の点については、d(v2)=3,d(v3)=4,d(v4)=2,d(v5)=2,d(v6)=1となります。
次数が奇数となる点を奇点、次数が偶数となる点を偶点と呼び、特に奇点の中でも次数が1の点を端点と呼びます。又、次数が0の点を孤立点と呼びます。 以上述べたグラフでは、隣接する2点を結ぶ線は1本であるが、同じ2点を結ぶ線が2本以上存在するグラフ(図8)も考えられます。このようなグラフを多重グラフと呼びます。又、ル−プといって、ある1点から出て、又その点に戻るような線を持つグラフ(図9)も考えられます。このようなグラフをル−プグラフと呼びます。そして、多重グラフ、ル−プグラフをまとめて擬グラフと呼びます。
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はじめに述べたように、グラフ理論は日常の様々な場面で利用され、又、応用範囲も広いものです。これより、そのいくつかを紹介しながら、グラフ理論の楽しさ、有用性を味わってもらうことにしましょう。