§1.CTスキャン(Computed Tomography)と連立方程式

 偉大な発明も、意外に中学校で学ぶことがらに、そのヒントが隠されている場合がある。皆さんの中には、病院で様々な検査を受けた人もあろうかと思う。病院には、実に様々な検査をする機器がある。その一つにCT(COMPUTED TOMOGRAPHY)撮影装置と呼ばれる機器があることを知っている人も多いと思う。このCTは手術をしなくても体の中を輪切りの状態で見ることを可能にした機器である。
 この手術せずに体の中を見るという課題に一つの答えを与えたのがドイツの物理学者レントゲンである。彼は1895年に陰極線を研究しているとき、不透明な物質も通り抜ける放射線を発見し、これを未知の光線という意味でX線と名付けた。そして1901年、第1回のノ−ベル物理学賞を受賞している。彼の功績により、X線を用いて人体の透視が可能になり、現在も単純X線撮影を用いて様々な病変の発見が試みられている。しかし、単純X線撮影の欠点は、骨や肺等多くの構造物を重ねて平面に写し出すために、細部まで詳しく診断することがかなり難しいということである。そこで、現在、多くの病院では、CTと呼ばれる機器が入り、人間のからだを頭から足の先まで、鮮明にその輪切り像で見せてくれる。

図1 CT撮像法原理 図2     図3


 CTは基本的には、図1のようなX線の照射装置とその検出器からできているが、その元になっている理論は、中学校で学ぶ連立方程式なのである。そして、これを発明したイギリスの科学者 Hounsfield はノ−ベル賞を授与されたのである。

 では、これより、CTの元になっている理論について説明しよう。仮に、人間の頭のある部分の断面が図2のように単純に4つのパ−トA,B,C,Dからできているものとしよう。その4つのパ−トを色の濃淡で区別することが、断面を見るということに相当する。実際に、人間の体にX線を照射した場合、骨、筋肉、水、空気の順にX線をよく吸収する。したがって、フィルム上ではX線の吸収率の大きい骨が最も白く写り、吸収率の小さい空気等は黒っぽく写る。このことから、4つのパ−トのX線吸収率がわかれば、それを色の濃淡で表すことにより、そこに存在するものが骨なのか筋肉なのか水なのかがわかる。

 今、図3のように4方向からX線を照射し、各X線が吸収された量を 120 , 50 , 90 , 80 としよう。このとき、A , B , C , D 各々のX線吸収量を a , b , c , d とすると、各 a , b , c , d の値は下の連立4元1次方程式を解けば求められる。

  図4


そして、 a , b , c , d の値にしたがって、最も吸収率の大きいAを最も白く、最も吸収率の小さいCを最も黒く表せば、求める断面図が得られる。

 ここでは単純に頭のある部分の断面が4つのパ−トでできていると考えたが、実際は、非常にたくさんの異なるパ−トからできている。したがって、その輪切り構造を詳細に見ようと思えば、この4分画をどれだけ細かい分画にできるかにかかっている。例えば、断面を100の分画に分け、その各々のパ−トのX線吸収率を求めることができれば、そのデ−タにしたがって、100のパ−トを色の濃淡で塗り分けることができる。さらに、図4のように細かく分画すればするほど、断面構造をより詳しく、実物に近く描き出すことができる。そのとき必要なことは、頭部に100の異なる方向からX線を照射し、100の値を検出することである。そして、その値を使って100元1次連立方程式をコンピュ−タ−で解けば、より詳しい断面図が描き出される。



 このように、その仕組みがわれわれにはとても理解できないと思われている現在の最先端機器が、意外にもその基本原理が中学校で学ぶことがらにあることも少なくないのである。

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