【舞台・道具に関する言葉】


あいびき
合引
主人公なんかが座ろうとすると、すかさず黒衣がササッとお尻の下に黒い箱みたいなものを差し出した。足のシビレ防止用かな、にしちゃ、女形や脇の役者さんには出てこないなぁ。やっぱ、こういうの使うのにも優先順位があるのかなぁ・・・。なぁんて思ってたら、違ってました。黒い箱みたいなものは合引と呼ばれる代物で、座った状態でも、主役級の役者を脇役などよりも引き立てて大きく見せるためのものだと。なるほど、ね。発音は同じでも、艶っぽい逢引とは違いやす、念のため。



     がえ
あおり返し
居所変わりのひとつ。なのだが、謎に包まれている。とある資料によれば、折り畳んだ装置を左右に折り返すと、巨大な絵本をめくるがごとく背景が飛びだすそうだ。わっちゃぁ、そんなの見たことない気がする・・・。一方、他の資料によれば、壁面の書割がパッタリと前に倒れて別の背景になる、とある。これは「葛の葉」の最後がそうだけど・・・。さらには、歌舞伎座で買った筋書きにやぁ、白浪五人男の大詰めの場面の仕掛けが、ある時は「あおり返し」と書かれ、ある時は「がんどう返し」と書かれている。真実はいずこにありや?! ご存知の方、教えてくだされ。



あげまく
揚幕
花道の出入り口に吊る幕。揚幕と言うからには上下に上げ下げして開閉するのかと思ってしまうが、さにあらず。横に引きあけて開閉する。役者さんの出があるときはチャリンという音がするので注目すべし!(ただし演目によっては舞台から客の目をそらせるトリックにも使われるので注意が必要でありんすが・・・)



あさぎまく
浅葱幕
舞台の幕があいたと思ったら、あんれぇ水色の布がかかってらぁ。その布を、ちょんと振り落としたと思ったら、おぉっとビックリ! なんちゅー豪華な場面が出現。ってな具合に、一瞬にして景色を変化させる妙を演出したりするのに使われる水色(浅葱色)の布が浅葱幕です。



いどころが
居所変わり
幕を引いたり、廻り舞台を使わずに場面を変えて見せる手法のこと。大掛かりなセットが動くものが多く、ワクワクさせられる。むかしの人の知恵と、それを実際にやってしまったパワーってスゴイ。




       がえ
がんどう返し
居所変わりのひとつ。建物などの大きなセットを後ろへ倒していくと、それまで下になって見えなかった部分が徐々にあらわれ、そこには違った背景が描かれているというもの。同時に、下から大ゼリで新たに建物がグググッとせり上がってきたりする様は圧巻なり。





開演の間際、耳をすますと聞こえる「チョーン、チョーン」という音。あれが柝の音。拍子木を打つ音ですが、歌舞伎では「柝(き)」と呼んでいる。詳しいことは知らないけど、役者さんや裏方さんたちにさまざまな合図を送る役目を果たしているとか。観客にとってもお芝居の幕開けを知らせる合図であることは同じ。聞こえてくるとワクワクしちゃう。「チョン、チョン、チョン、チョン・・・」という細かな刻みとともに幕があいて、最後に大きく「チョン」とひとつ。「止め柝」と言うんだそうな。さぁ、お芝居のはじまり、はじまりぃって合図ですね。



き  もの
消え物
舞台で食べる本物の食べ物なんかは、その日で消えるから消え物と言う。「雪暮夜入谷畦道」で直次郎が食べるソバ、「仮名手本忠臣蔵」で大星由良之助が食べるタコ(実は薄切り羊かん)の他、「野崎村」でお光が刻むダイコンもそう。



くろご
黒衣
その名の通り全身黒づくめで出てきて、役者に小道具を渡したりする役目の人。実際には目に見えていても、見えないことになっている。そういう歌舞伎の約束事。



くろまく
黒幕
舞台の奥に吊る黒い布。夜だよ、真っ暗だよ、という記号。だから、そう思って見ること。ところで、背後で何やら画策する人という意味で使われる「黒幕」という言葉は、歌舞伎の黒幕から来ているらしいのだが・・・。歌舞伎の場合、最後に、この黒幕を振り落として、月明かりに浮かぶ風景や朝焼けの景色を見せたりすることが多いから、もしかしたら黒幕の裏には何かが隠されている、ということから転じた言葉なのかも。



くろみす
黒御簾
舞台の下手(向かって左手)にある、黒いすだれのかかった、黒い板に囲まれた部屋。中にはBGMや効果音を担当する人たちがいて、舞台の進行状況にあわせて演奏をする。いわゆる歌舞伎のオーケストラボックスですね。「下座(げざ)」とも呼ばれ、ここで演奏する音楽は「下座音楽」と呼ばれる、らしい。(らしい、などと自信がないのは、わっちが歌舞伎の音楽についちゃぁ、これがてんでからきしだからでやんす・・・苦笑)



け  まく
消し幕
舞台の上にある小道具や、ことによっちゃぁ死体などを片づける時に使われる幕。たいていは無を意味する黒い布だが、真っ赤な幕を使うこともある。いずれにせよ、突然、黒衣が幕を持ってあらわれて何かにそれをかぶせたら、消えた、と思ってくだされ。たとえ、その目にはしっかと見えていようが、そういう約束事でございますれば・・・。



こうけん
後見
舞踏劇などで、裃を着て時にはかつらをつけた人がじっと舞台の奥の方で座っていることがあります。役割は黒衣とほぼ同じですが、この場合は後見と呼ばれます。役者さんと呼吸をあわせて引き抜き、ぶっ返りを手伝う手際の良さは、なるほど「後見」の名に値します。



さしがね
差金
影で人をそそのかし操ることを「○○の差金」とか言いますが、あれも歌舞伎から出た言葉です。歌舞伎の差金は小道具のひとつ。黒衣が釣りざおみたいな細長い物を使って蝶々なんかを動かしたりすることがあるんですが、あの細ざおが差金です。大工道具のかね尺(直角に曲がった物差し)も差金と言うようですが、ぜんぜん別物ですね。



しちさん
七三
花道の、揚幕から七分、舞台から三分くらいの位置にあるあたりを指す言葉。花道を歩いてきた役者が立ち止まってせりふを言ったり、また踊ったりするのが、このあたり。また、スッポンがあり、役者がせり上がって登場することもあります。



じょうしきまく
定式幕
歌舞伎ファンにはおなじみの3色ストライプの幕。歌舞伎座は、左から黒、柿色、萌葱色の順。国立劇場は、黒、萌葱、柿と順番が違っています。歌舞伎座と国立劇場とで違いがあるのは、かつてあった歌舞伎小屋のどこの方式をとっているかによる、とか。歌舞伎座の方が森田座の方式で、国立劇場の方は市村座の方式らしいです。いずれにしても、この縦じまの幕が歌舞伎のシンボルになってるような気がします。



スッポン
花道の七三(揚幕から七分、舞台から三分)の位置にある四角く切った小さなセリ。ここからセリ上がって登場するのは人間にあらず。妖怪変化や妖術使いと決まっている。人間のように見えても、ゆめゆめ油断なされるな。



セリ
舞台の床を切り抜いて、役者や大道具を昇降させる装置。幕を閉めずに場面転換ができるスグレモノです。役者を乗せて上げ下げする小さなセリの他に、大ゼリを使って舞台上の大道具(建物など)全体を上げたり下げたりすることもあり、かなりダイナミック。見ものなり。



     ゆか
チョボ床
舞台上手(向かって右側)の壁がくるっと回転して何やら高床が出現したと思ったら、あれあれ演奏しはじめた。というとき、あらわれた高床をチョボ床と言うらしいです。んでもって、そこで演奏されているのが義太夫節とゆー音楽なんだそうな。



ツケ
バタバタッという歌舞伎独特の効果音。見得や立ち回りなどの場面で、拍子木で床を叩いて音を出します。なお、ツケ打ちする場所は舞台上手の幕だまり(幕をためておくとこ)のところと決まっている。



つらあか
面明り
役者の顔を照らし出す、いわゆるスポットライト。別名「差し出し」とも言われ、黒衣が持って差し出すようにします。長い柄の先に四角の台、そこにろうそくが立っていて、ゆらめく炎が何とも古風でいい感じ。




どうぐまく
道具幕
背景を描いた幕のこと。いろいろなものがあって、細かくは、山を描いた「山幕」、波を描いた「浪幕」、雲を描いた「雲幕」、たなびく霞を表現した「かすみ幕」など、それぞれに名前がついているみたい。また、波を描いた「浪布」や水色一色の「水布」などを舞台に敷いて川や海を表現したりもします。歌舞伎はさまざまな布をうまく使い分け、使いこなしている演劇だと思います。



はなみち
花道
劇場に入ると目につくのが舞台に向かって左側にある一本の道。これが歌舞伎ならではの花道。はなやかで美しい、まさに歌舞伎の華の通り道。役者さんが登場したり、または退場していく時の通路です。が、変幻自在に変化する舞台の一部でもあります。ただの通路じゃないことは一度ご覧になれば分かるはず。



ふ  おと
振り落し
上から吊った幕を切って(と言ってもハサミでジャキジャキするんじゃぁござんせんよぉ)落とすこと。浅葱幕などを上から下へ落として、一瞬にして舞台装置を出現させる演出。歌舞伎マジック。見事な手法です。




振りかぶし
振り落しがこつ然と出現させる演出方法だとすると、こっちはこつ然と消し去る演出方法。上から吊ってあった布を落として舞台上の道具などにかぶせることで隠し、一瞬にして消えたという状態をつくりだすわけ。



ほんび
本火
本物の火を使うこと。たとえば、幽霊狂言に出てくる人魂は焼酎火。差金の先に細かな金網で包んだボロ布を下げ、それにアルコールをしみ込ませておいて火をつけるのだ。また四谷怪談の大詰、お岩の幽霊が炎に包まれた提灯の中から出てくる様も見もの。



ほんみず
本水
本物の水を使うこと。当然ながら涼を呼ぶ夏狂言に多い。夏狂言ではないが、助六と俗に呼ばれる芝居でも主人公の助六が水入りする場面があるのだが、江戸中の女がぞっこんという美男だけに、「水もしたたるいい男」という表現はこれから出たのかなぁ、と思った次第。どうなんだろ?



まくそと
幕外
お芝居の最後、幕が引かれた後に役者さんが花道に残って演技をしながら引っ込むことがある。これを幕外の引込みと言う。必然、残された役者さんに観客の目が集中することになる。それを狙った演出なのかも。スグレモノだと思う。



まわ ぶたい
廻り舞台
文字通り、ぐるりとまわる舞台ざんす。いまじゃぁどこの劇場でもお目にかかるものですが、この大掛かりな装置を発明したのは歌舞伎なんだそうな。大きな建物のセットがぐるりと、はじめてまわった時にゃぁ感動したんだろうなぁ、江戸の衆も。



やたいくづし
屋体崩し
建物が目の前で崩れちまったらビックリでやんしょ? そのビックリをつくりだす大仕掛けがこれ。あらかじめ上から吊っておいた屋根を落としたりして、柱や壁を壊して見せます。すごい、すごい!




りょうはなみち
両花道
ふつう花道は下手側(舞台に向かって左側)に一本ですが、芝居によってはもう一本、上手側に花道がつくられることがあります。両方に花道があるから「両花道」というわけ。このとき、下手の花道を「本花道」、上手の花道を「仮花道」と呼びます。