造形表現教育実践講座 第20回
造形表現活動Q&A

―環境構成・準備編―

写真1 テーブル上での活動(4歳児)

 

1 はじめに

 幼稚園や保育園を訪れて描画活動保育の様子を参観していると、保育室や園内に貼られている絵や実際の活動場面で、どの絵も小さな画用紙(八つ切り)に描かれている事があります。また、この連載の読者からも「描画活動の場面の写真の多くが床で活動していますがなぜですか?私共の園ではテーブルを使用していますが、何か違いがあるのでしょうか?」といった質問も来ます。

 これら二つの事柄は全く関係の無いことのように思えますが、実は重要な繋がりがあるのです。このような、良く受ける質問を中心に、今回は特に描画活動の環境構成や準備に関する問題について考えてみましょう。

2 環境設定と描画活動

Q1 テーブルで描くのと床の上描くのとでは何が違うのですか?

A1 テーブルでは狭すぎます。

 多くの場合、全員が大きな画用紙(四つ切り)を机上に置いて描けるだけのスペースはありません。絵の具や筆洗などを置くと八つ切りサイズの画用紙でしか活動できないのです。(写真1)

 いつの間にか、テーブルでの活動が当たり前になる中で、そのスペースにあわせて八つ切りサイズの紙での描画活動が標準のようになってしまったのでしょう。ですから、前述のように、園内で見られる作品が八つ切りばかりというような状況が生まれているのです。

 四つ切り画用紙を使った描画活動はどうしても広いスペースが必要です。したがって、机と椅子を教室の片隅に整理し、床面を広く取り、そこに画板を置いて活動します。(写真2)

 また、体の小さな年少児にとっては机上では活動しにくいことがあります。特に目と画面が近いと絵の全体像が捉えにくく、どうしても斜めからの目線になりやすく、机の上よりも床での活動のほうが、画面に対して垂直に目線が取りやすいのです。

 そういう意味では、イーゼルを用いた活動が最も理想的な活動姿勢になります。イーゼルは、画板を立てて使うための用具でヨーロッパでは幼児教育でも良く用いられますが日本ではほとんど見ることはありません。しかし、一部の幼児用の椅子を工夫してイーゼルの変わりに使うことができます。(写真3)

 床での活動を嫌う理由には様々ありますが、その中で最も多いのが姿勢の問題です。床に座って長時間集中していると、狭い室内で十分なスペースが取れないため疲れやすいのではないか、また寝転がってしまう子が出てくるのではないかといった心配があるようです。しかし、そのことが小さな画用紙しか使えない活動に限定してしまう理由になるのは本末転倒でしょう。

 また、床での活動を取り入れようとすると、さらに次のような新たな疑問が浮かんでくるようです。

Q2 床での活動は、どのような配置ですればよいのでしょう。

A2 できるだけ自然体で活動できるように工夫します。

【絵の具を共有して使う場合】

 6人くらいのグループで絵の具を共有するような活動では、子どもたちが向き合って座り、その中心に絵の具を置いて活動することが多いようです。

しかし、絵の具セットが1つしかない場合などは、目の前に絵の具がある子と、遠くになってしまう子の活動に大きな差が出てしまいます。

 絵の具のセットを増やして楽に手が届くようにしてやるなどの配慮が最低限必要になります。(写真4)

 また、体の小さな年少児などでは、体を乗り出さないと絵の具に届かないため、スモックの前で画面をこすってしまい、絵を汚してしまったり、遠くから筆を自分の所まで運ぶ間に友だちの絵の上に絵の具をポタポタ落としてしまったりするなどのトラブルが起こります。

少しスペースの余裕があるなら、利き腕が内側になるように風車のような配置をとることで、全員が同じ条件で描くことができるようになります。(写真5)

利き腕の左右が混在する場合は注意が必要なのは言うまでもないことです。

【個人持ちの描画材料での活動】

 個人持ちのパスや絵の具などを使う活動では、各自が使いやすく身近に材料・用具を置くのが基本です。共有するものがない場合は、必ずしも向かい合って座る必要はありません。全員が同じ方向に向くスクール形式の設定でも問題はないでしょう。

また、パスなどの材料・用具が画用紙の上に置かれているよう状況を目にすることがありますが、決して良いことではありません。使いやすい位置に描画材料や用具が置けるスペースを取りましょう。

特に個人持ちの絵の具を使用する場合、各自が筆や筆洗、さらには雑巾、パレットなどを置く必要があり、それを利き腕側に設定する必要があります。基本的には、手前から絵の具、パレット、筆洗の順に置き、筆洗の下から手前に雑巾を引いて使うと良いでしょう。もちろん、それも絶対ではありませんが、子どもが自然体で使えるように、作業の動線を考えた配置を工夫してやることが大切です。(写真6)

3 環境設定としての準備

Q3 画板は必需品ですか?

A3 筆などとともに、最低限必要なもののひとつです。

 これまでテーブルで活動してきた園では、画板を使わなくなって久しく、いつの間にか処分してしまって無くなっている事があります。先生自体が画板を使用するという意識がまったく無いため、床に直接画用紙を置いて活動している事さえあります。

 絵の具を使う場合などでは、シートや新聞紙を敷いてその上に直接画用紙を置き活動していることもあります。しかし、これらはいずれも良くない方法です。

 まず、床に直接置く場合、パスやコンテを使用すると筆圧で床の継ぎ目や木目などを擦りとってしまい、描きにくい上に必要のない模様が写ってしまいます。

 絵の具の活動の場合、描き終わった後に乾いていない状態で画用紙を直接持って運ぼうとすると絵の具が垂れてしまい、絵が台無しになってしまいます。こうしたトラブルは、はじめから画板を使っていれば防げるものです。

【筆洗(ひっせん)・絵の具カップ】

 他にも、「筆洗の変わりにコップではだめですか?」とか、「絵の具カップの変わりに普通のプラスチックカップや絵の具の入っていた容器などを代用してはいけませんか?」などの質問もよくあります。

 筆洗は、小さな容器では水を頻繁に換えなければならず、大きな容器では子どもが自分で持ち運ぶには適しません。このバランスを考えてサイズや形態を選べば、何でもよいのですが、十分に工夫されたものが市販されています。黄色や白色のバケツ型で中が二室〜三室に分かれているものが最もポピュラーです。

 絵の具カップでは、長い筆を差しておいても安定が保てるもの、共同で使うときの使い勝手(口の径や高さ)、中の絵の具の色が見えるようにする、などの機能面で市販の絵の具カップは良く考えて適切につくられています。

また複数のカップをまとめて置ける専用のスタンド(写真5)や洗面器(写真4)などを応用してひとまとめにして扱うと、グループごとに配ったり、後かたづけしたりするのにも都合がよいでしょう。

筆洗にせよ、絵の具カップにせよ、これらの条件を満たすものであれば代用できるでしょうが、安易に代用すると描画活動に支障をきたすこともあります。筆洗は年長の個人絵の具で使う場合ひとりひとつは使いますので人数分の準備が必要です。

絵の具カップは、多色使いの場合は3〜4人ごとに1セット6個程度を基準に考えれば良いでしょう。価格もそれほど高価なものではありませんので必要数を用意しましょう。準備の不備で個人の活動が制限されることだけは避けなければなりません。

Q4 絵の具の準備が難しいのですが…。

A4 水のコントロール(濃度)と配色は、事前の準備の最重要事項です。

【絵の具の濃度】

絵の具の濃度を適切に調節することはとても大切なことです。水を多く混ぜると透明感が高くなり、滲ませたりぼかしたりして遊ぶにはおもしろいのですが、色むらが出やすく、下地の色が透けるため発色が悪くなり、絵の具だけでの活動では思い通りに描くことができない原因になります。一方、水をあまり混ぜない濃度の高い絵の具では、油絵のように重ね描きをしても滲みにくく、多色を使って描く場合には適していますが、あまり硬すぎると筆がかすれて、 やはり抵抗になり、うまく描けません。

画用紙上での発色や描くときのなめらかな筆さばきを考えて水の分量を調節します。

基準としては、乳液状(液体のコーヒーフレッシュくらいの状態)が目安になります。また、新聞紙の上に描いて、文字が透けて見えない程度の濃度があると美しく発色し、重ねても滲みにくくなるでしょう。あとは、どのような使い方をするかで、濃いめ、薄いめの調整をすれば良いでしょう。

【色画用紙との配色】

また、色画用紙を使う場合、使用する絵の具との配色は重要です。単に色相(赤や青といった色の種類)の違いだけでなく、明度や彩度も関係します。たとえば、白茶の色画用紙に黄色や明るいオレンジなどの絵の具を用いると明度や彩度が近いため視認性が悪くなります。

まず、使用する予定の色画用紙と絵の具を使って事前に発色や配色の効果をチェックしましょう。テーマのイメージをふまえつつ配色の工夫をすることも先生の大切な仕事なのです。(写真7)

Q5 画用紙のサイズは何を基準に決めるのでしょうか?

A5 主題の内容、使用する材料などによって判断します。

幼稚園や小学校で使用する画用紙のサイズには、一般的には四つ切りと八つ切りの二種類があります。技法遊びや、パスやフェルトペンなどを使った描画などで、それほど大きな紙を必要としないと判断する場合は八つ切り、もしくはさらにその半分のサイズに切ったもの(十六切り)を用いることもあります。

同じパス画でも、三歳児と五歳児とでは描く内容やその広がりも違ってきます。まだ体も小さく、視界や腕の運動の限界からまだまだ広がらない年少児の場合は初めのうちは八つ切りで十分でしょう。

しかし、年長の場合は大きな画用紙でないとその思いや想いの広がりを表現しきれません。また、年少でも太い筆で、体全体を動かして伸び伸びと描くことを楽しむためには、やはり大きな画用紙を使った方が良いでしょう。さらに四つ切りをつないで倍の紙や長い紙をつくるなど、大きな画面を楽しむ題材や活動もあるようです。

Q6 四つ切りってB4とは違うのですか?紙のサイズや種類が今ひとつ理解できていません。

A6 紙のサイズにはいくつかの基準や規格があります。(表1・表2)

【画用紙の種類】

 四つ切りというのは、元々ある一枚の紙を四等分に切ったサイズの紙です。画用紙に使われている紙は、元のサイズがおおよそ1084o×764oなので、このサイズから四つ切り(542mm×382mm)、八つ切り(八等分に切ったサイズ=382mm×271o)の紙のサイズが決定します。

したがって、元の紙のサイズが変わると同じ四つ切りと呼んでもサイズが異なってくることになります。今のところ画用紙と呼ばれる紙では同じサイズの紙を使っているので、この呼び方で同じサイズの画用紙になります。

また、元サイズを全紙と呼び、二等分に切ったサイズを半切と呼んでいます。全紙のサイズは、模造紙(広用紙)のサイズ(1091o×788mm前後)に近いものです。(表1)

【印刷用紙の規格】

 また、コピー用紙などの印刷用紙では、B4とかB5と呼ばれるものやA3とかA4と呼ばれるものなどあり大変ややこしく、なかなか覚えられない先生も多いようです。

 これらも、元の紙のサイズに違いがあります。また、示されている数値は、元の用紙をカットした回数で、元は0回なので、A0,B0となり、たとえばA4というのはA0の長辺側を二等分するように4回切って生まれてくるサイズなのです。(表2)ちなみに画用紙で言う四つ切りは4等分の意味で、カット回数は2回です。

 また、元の紙のサイズは違っても、こうした用紙の短辺と長辺の割合は、ほぼ1:√2の比率になっています。また元サイズの違いは、欧米での標準がA列で、B列は日本で考案された規格だと言われています。長い間にわたって、日本の公文書にはB列用紙が使われてきましたが、最近国際的な規格にあわせてA列用紙が公文書基準になってきたのです。

このように、教育や保育で使う用紙は、サイズ面では、模造紙や画用紙に使われている規格と、コピー用紙に見られるA列規格、B列規格の三種類があることがわかります。

また、紙質の種類では、画用紙や色画用紙のように、パス画や水彩画に適した比較的厚手の絵画用紙、模造紙やコピー用紙のような上質紙や中質紙、あるいは色紙や折り紙など多様なものが使われます。

活動や題材のテーマ、描画材料、活動の目的などによって臨機応変に判断する必要がありますが、個人の描画活動では、多くの場合、四つ切り画用紙を使うのが適切でしょう。

4 まとめ

 ほかにも、筆などの筆記具も多様にあります。それについては、描画材料や技法との関係もありますので、そこで詳しく扱うことにします。

ただ、筆ひとつとっても、どのようなサイズのどのような質のものが適しているかなどの質問は大変多く寄せられます。筆については上を見ればきりがありませんし、見た目は大きな違いはなくても、すぐに毛が抜けてきたり、まとまりが無くなっていったりと、粗悪品も少なくありません。

私は、ネオセーブルとか、ネオセブロンなどと呼ばれる、比較的有名なメーカーの幼児・児童用の水彩画筆(合成毛使用)が最も無難で、扱いやすいものだと考えています。

 穂先がまとまっており、コシがあるので、筆圧の調節で細くも太くも描けるので、太めのもの(15号前後)をひとり一本用意すると良いでしょう。

ただし、共同絵の具の多色使いで、六色を三人で使うような場合、各色に少なくとも2本ずつの筆を差しておいてやる必要があるので、一セット十二本の筆を三人で使う事になります。もちろん、全園児が一斉にそれだけの筆を使うことはありませんので、適切に判断して準備してください。

また、穂先が摩耗してしまい先がまとまらなくなっている筆は、たとえ細筆でも思い通りの線を描くことはできません。注意深く点検して古くなってしまったものなどは整理しましょう。

 先日メールで「筆洗に、先生がやかんで順番に水を入れていくようにしていますが、これでは時間がかかり過ぎて、子どもを待たせてしまいます。どうすればよいでしょうか?」と質問を受けました。なるほど、こんな事でも迷いがあるのですね。

 子どもを待たせるような準備に疑問を持った視点自体が大切なことですが、そこから先を先生として適切に判断できるようになりたいものです。

各自で筆洗を使うような活動は四〜五歳児以降でしょうから、基本的には自分で汲んでくるようにすればよいでしょう。はじめは水を入れすぎて、運ぶときにこぼしてしまうなどもあるかも知れません。しかし、それだからこそ、どうすればこぼれないか考えさせる良い機会になるはずです。

環境設定や準備の視点は保育の視点そのものなのです。そこを見るだけでその先生の保育全体が見えてくると言っても過言ではありません。

 今回は、よくある質問に答える形で、描画活動の環境設定や材料・用具の準備について述べましたが、他にもまだまだ疑問や質問があるでしょう。今後も、必要に応じてQ&A形式の特集をしたいと考えています。

 

 


 


写真2  床に画板を置いての活動 (5歳児)

 

 

写真3 椅子を応用したイーゼル式の活動(4歳児)

写真4 向き合っての配置(4歳児)

 

写真5 風車型の配置 (4歳児)

 

写真6 個人持ち絵の具の配置(5歳児)

 

 

写真7 色画用紙と絵の具の配色、濃度を事前にチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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写真協力

千里敬愛幼稚園

花咲幼稚園

誠心第二幼稚園

 

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