第15話  −鹿児島のカアサン−



鹿児島から来ている47歳の女性遍路、小事にこだわらず、おおらかで懐の深い感じのする人でした。わたしが彼女に会ったのは二回、話したのは、二回合わせてわずか15分くらいのもの。「鹿児島のカアサン」というのは、青森の遍路・佐々木さんがそう呼んでいたのを拝借しました。

彼女のことで一番驚いたのは、地図を持たずに歩いていることでした。わたしが「信じられない」と言うと、「無鉄砲なだけです、それでも宿を出るときや道中で人に会ったら常に道を尋ねていますよ」という。《うーん、こんな歩き方もあるのか》

わたしの場合、道を間違えて引き返したりするのはいやだから、遍路道保存協力会の地図と標識を確認して、更に途中で人に会えば再確認しながら歩いています。だから正直驚きました。そして考えました。
・彼女は、天性の優れた方向感覚を備えているのだろう。
・道を間違うことを恐れていないに違いない。
(たしかにそうだ、元に戻ってやり直すか、回り道をしたと思えば済むことだモノ)
・あとは彼女の性格。《おおらかで人を疑わない・くよくよしない》

恐れない人は強い。わたしもかくありたいと思うが・・・。彼女の性格については、彼女と半日一緒に歩いた北海道の岡田さんの言葉が実証しています。
「彼女はぼくのいうことに、すべて『あ、そうですか』、『あ、そうね』という調子で、全く疑う気配を示さないんですよ。不思議な人ですね」

彼女は、一日に15kmから20キロくらいのペースで歩いているようでした。だから宿までたどり着けない日もあるので寝袋も用意しています。彼女とはもう少し話してみたいと思いましたが、この後もう会うことはありませんでした。あの調子だったら70日くらいで、ゆっくりと楽しみながら結願するのだろうな、と思ったことです。
いずれにしても、いまどき貴重な存在であることは確かだとおもいました。

《ちょっと一服》
 彼女と出会った日に、45番岩屋寺で望月さん(静岡・47歳)というお遍路さんに会いました。野宿の遍路をしながら、札所の絵を描いている人で、今回が12回目になるという。人なつっこい顔をして、穏やかな話し振りの好感がもてる人でした。
 彼が言うには、「ここがちょうど2/3に当たります。ここまでかかった日にちを1.5倍すると、結願までの日数の見当がつきますよ」
 わたしの場合、35日目だったから1.5倍して52日になる。実際は51日だったからぴったりです。望月さんとはこの後、松山そして高松でも出会いました。


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