時間という概念を自分のものにするのは難しい。今我々が住んでいる世界は
4次元時空であるというが,縦・横・高さ(X・Y・Zの軸)の概念は判りや
すいが,はてさてそこに時間の軸を持ってくると途端に判りにくくなる。縦で
も横でも,そういった長さの軸にはプラス・マイナスを考え易いのであるが,
そこに4次元のうちの一つである「時間」をもってきて,それにプラスとマイ
ナスを考えるのは,ちょっと頭を悩ましてしまう。この本は,そんな時間軸に
対して何も気にせずに,時間というものに対してアイデアをぶつけてくる。
* この本を読んだ感想としては,「一気に読んだ。面白かった。」 それに尽 きる。理論的な裏付けは明確ではないがアイデアが面白い。それほど長編でな いところもいい。ちょっと間延びしているところもあるが,そこはアイデアの 非凡さと物語自体が比較的短くまとめられたところに助けられている。 時間衝突,原題は「Collision with chronos」,題名だけを見て,さて時間 が衝突するというのは一体何だろか,と中味を想像するのはちょっと難しい。 時間が関係している,もしかしてタイムトラベルものなのかいなとも思うが, はてさてよくは判らない。 * 舞台は遠未来,大規模核戦争の後,地球は「真人」と呼ばれる白人の軍事社 会が成立しており,その他の有色人種は亜種として滅ばされるか,またはそれ ぞれの居留区に押し込められている。(インディアンやアイヌのように)この 地球では,過去に異星人の破壊的な攻撃により一時期侵略されたという伝説が あり,考古学者達がその異星人の残した遺跡を調べている。さてこの遺跡が曲 者で,普通は時を経るほどに荒廃していくはずであるのが,意に反して,どん どん新しくなっている。 これは何を意味しているのか? 結論は,異星人の世界と我等の世界とは時間が互いに逆行しているというの である。我等の世界は我等の時間波とともに進んでおり,異星人の世界は彼等 の時間波とともに進んでいる。そしてその互いの時間波は正面衝突コースを進 んでおり,あと4世紀ほどで大衝突を起こすらしい。地球人と異星人(という か時間の向こうからやってくる地球人)は,互いにその可能性を知ったため, それぞれ相手の世界を壊滅させることにより自分達を生かそうと試みる。地球 人は全面的核攻撃により,そして異星人は生物壊滅ウィルスにより,お互いを 滅ぼそうとしている。 異星人は地球人より早くタイムトラベルを方法を発見していた。その方法は 自分達の時間波の一部を切り取り,非時間平面を通って未来 or 過去の時間線 に乗るという方法である。非時間という概念は面白いが,理論的な裏付けっぽ いものがあるわけではない。この辺はいわゆるハードSFとはちょっと違うと ころでもある。ただアイデアがとにかく面白い。 * いわゆる戦いの物語ではあるが,一つの時間軸のプラスとマイナスの両側か ら互いの種族が進んでくるという設定が面白く,また時間というものが唯一不 変ではないというのが,概念的にも理解はできずとも頭の中にインプットされ てくるところが,非常に興味深い小説である。 |
アンドロメダ病原体・・・といっても別にアンドロメダ星雲からやってきた未知の病原体の話ではない。 1960年代(アポロの月着陸の前だったか・・・),アメリカ軍部はより破壊力の強い生物兵器を探して, 未知の地球外細菌(病原体)の収集計画も進めていた。大気圏外に衛星を打ち上げ,地球周回軌道を飛行させつつ大気圏外生物を収集し, 地表に回収するという計画である。 地球外細菌収集計画の第7番目の衛星は打ち上げ2日後に軌道を外れ,小さな田舎町に不時着した。 物語はこの田舎町に対して衛星の捜索・回収に向かうところから始まる。 第7番目の衛星は恐怖の細菌を採取して地表に落下していた。落下地点である田舎町の住人はほぼ全員が 一瞬のうちに自らの血液を凝固させ死に絶えていた。衛星の回収に向かった軍の兵士達も一瞬のうちに死んだ。 特別に選ばれた科学者グループは,この細菌を田舎町より採取し,国家予算で築造された特別研究施設で恐怖の細菌の解明と対策を練り始めていく。 あわや人類全滅かと思われるところまで事態は緊迫するが,最後の場面で細菌は無害なものへと突然変異し,人類は全滅を免れる。 |
おもしろい! 読んでいて楽しい! もう50年も前に書かれたもので,科学的考証などもあまりないけれども読んでいて本当に退屈しない。 スケールも壮大で突拍子もないアイデアも散りばめられている。 ビーグル号・・・最初に聞いたような名前だなと思うが,ダーウィンの航海記に出てくる測量船にあやかっているらしい。 スペース・ビーグル号は千人乗りの男ばかりの巨大な宇宙船。乗組員はほとんどが科学者で一握りの軍人たちも乗り込んでいる。 最近のSFだと必ずといっていいほど女性の乗組員が乗船しており (というか女性が結構多い), 男ばかりというのが何とも昔ふうである。 スペース・ビーグル号は反加速という超光速ドライブを使って星雲間を調査飛行しているのだが, この宇宙船に次から次へと想像もつかないような異星人が襲いかかってくる。 「クァール」,「リイム」,「イクストル」,「アナビス」と4種の異星人 (怪物) が舞台に登場ししてくるが, この中で具体的な実体を持っているのは「クァール」と「イクストル」の2異星人。 物語の最初は,クァールの心理描写から始まる。 異星の怪物の視点から描かれているためか,いかにして宇宙船を乗っ取ってやろうかという異星人の心がよく表されており, 読んでいて,「頑張れ!もうちょっとで宇宙船を乗っ取れるぞ」と感情移入してしまう。
さてこの物語の主人公は「エリオット・グローヴナー」という科学者で,情報総合学(ネクシャリズム)の専門家である。
情報総合学というのは,これまでの科学の全てを包含したような学問で,主人公グローヴナーは一種の
頭脳的スーパーマンである。 親しみのもてる「クァール」,化け物のような「イクストル」。この2者が圧巻である。 それぞれが滅び行く異星人の末裔で,なんとか生き延びようと悪戦苦闘しているところが, 哀しさを感じさせる。 こ難しいSFを読んでいる合間に,こういうのを読むとなんとなく「ホッ」とする。 |