割り箸事故での無罪判決について

2006年3月31日(4月9日改正)



先日、杏林大病院の根本医師に対する地裁の判決がありました。

ご存知の方も多いと思いますが、その判決の要旨は

  1. 根本医師の診療には過失があり、適切な診察・検査をする事により、割り箸を発見する事は可能だった。
  2. 更には、カルテの改竄を行ったと認められる。(←改竄ではなく、取り繕う為に後から追記したとの認定の間違いだと指摘を受けました)
  3. しかし、割り箸を発見したとしても、延命や救命の可能性は極めて絶望的であった。
  4. 過失によって割り箸を発見出来なかった事と園児が死亡した事には因果関係が認められない。
  5. よって、業務上過失致死には当たらないので「無罪」とする。


と、いう内容のものでありました。

当委員会はこの判決に激しく遺憾の意を表明します。

まず、カルテの改竄を認め、それを判決理由の中で述べた点に注目します。

根本医師は勝訴したので、上告する事は出来ません。

つまり、カルテの改竄を行ったと裁判官に言われたまま、汚名を晴らしたいと思っても

法廷の場で身の潔白を主張する事が出来ないのです。

根本医師は、一生「カルテ改竄した医者」というレッテルを拭う事が出来ないのです。

(検察が控訴し上級審がその事を取り上げて否定してくれるなら別ですが)

このように、勝訴した人間に過失を認めるという行為は、とても慎重にしなくては

重大な人権侵害に繋がるのです。

過失の認定などは、今回の裁判においては最も重要な争点であったのですが

仮に検察が控訴をしなかった場合、病院・医師側はたったの一回の地裁判決で

医療ミス(?)の汚名を着せられ、それを法的に晴らす機会が与えられないのです。

判決が「無罪」なら、過失があろうがなかろうが基本的には関係ないのです。

どうしても必要な場合に限ってのみ述べるのは仕方ないとしても、上記の理由から

「過失あり」と述べるなら、相当の納得のいく理由が必要であると思います。

今回のケースは世間の注目もあり、過失の有無の認定を避けて、「どの道救命不可能だから

過失致死には当たらないので無罪」だけ言い渡すのも、それはそれで禍根を残す判決に

なるという意見もあるかもしれませんが・・・


で、更にその「過失」の部分に迫ろうと思います。

事件当初から、割り箸の折れた残りの行方や誰が割り箸を抜いたのか?など

色々と議論がなされていましたが、少なくとも今回のケースは特殊中の特殊なケースで

根本医師に与えられた情報の中で「割り箸の発見に至るまで辿り着かないと診断ミス」と

裁判所は述べる訳ですが、その事の困難さがまず一番にあげられます。

脳外科医などの専門家ならば、意識レベルの低下などの所見から、あわよくば

異変に気づき、何らかのはずみで割り箸を発見出来たかもしれません。

しかし、耳鼻科の医師である根本医師に脳の損傷による所見を適切に見抜く事を

要求するにはかなり酷なはずです。

百歩譲り、様子が変だと思って、「念の為」にレントゲンなりCTを取るとしても

最初から、その部位に割り箸の存在を意識して検査するのならともかく、単に

念の為程度の検査なら、やっぱり発見は難しいと思います。

CTにしても、動く子供相手に綺麗な画像を取る為には薬剤を投与しておとなしく

させるのですが、意識レベルの低下している子供に簡単に投与するべきものではなく。

また、被曝線量も馬鹿になりません。成長期の子供に簡単に浴びせていい量ではないのです。

しかし、今回の判決は「そこまでしないときちんとした診療をしたとは言えない」と言うものですので

今後は、ささいな頭痛でもくも膜下出血を疑って、どしどしCTを取らないと駄目になりました。

嘔吐の所見があれば、タリウム中毒や砒素中毒を疑う必要もあります。救急病院はクロマトグラフィ

を配備して、もしも配備していなければ適切な診療が出来ないという理由で「腹痛」「嘔吐」の

救急患者の受け入れを拒否出来ます。

なんて、事にも成りかねない、とんでもない判決だったのです。


日本の医療財政を破綻させてしまう判決を当委員会は認める事は出来ません。

「無罪」は間違ってませんが、「過失の認定」は間違っているとはっきりと明言します。

当委員会は、決して医療関係について専門的な知識や関心を寄せる団体ではありませんが

社会正義と公共の利益追求の為に一歩踏み込んだ意見を述べざるを得ません。

これは単に、根本医師や杏林大病院を庇う目的ではなく、広い意味での日本の未来の

医療体制の危機を救う為の発言であります。


今回は敢えて、前回で述べた母親の責任云々には触れたいとは思わないのですが

敢えて、今回の判決のように余計な駄文を付け加えるとこんな文になります

「割り箸が脳に刺さり、奇跡的に僅かな余命を得た子供にとって一番適切な診療とは

割り箸を発見して、即緊急手術を行って、術中に死亡するよりも、母親と一緒に過ごす事が

出来た今回の診断の方ではなかったのでしょうか?

もっとも、母親は打ち上げの飲み会に行って、不安がる子供のそばには

ついていてあげなかったらしいですが



P.S 今回の事故で亡くなられたお子さんの冥福をお祈りいたします