野草に思う6-
野草に思う6

2013.06.15
 明石城址から伊川沿いは私の散歩道だが、川の中にヤナギタデの群落がある。鮎の塩焼きを食べるときの「蓼酢」は本種だが、栽培種の方がえぐくない。そこで京都の料理屋は主として栽培種を使うそうだ。中には賀茂川で採集している料理人もいるという。祇園なか原の鮎は絶品だが、「蓼酢」に気を遣い栽培種を用いているそうだ。写真は、神戸の伊川だが、野生の群落が出来ている。この辺りは増水すると、水に浸かる。

神戸・ 089

■やなぎたで
Polygonum hydropiper 

(タデ科タデ属属)
 
 マタデ、ホンタデの別名があるように
「蓼食う虫も好き好き」のタデは、これが本種だ。辛みがあり、鮎の「蓼酢」はこれを使う。水辺に生える。




2013.01.01
 昔は山野でよく見かけたが、最近はお目にかからなくなった。この写真は神戸市立森林植物園の資料館併設の食堂の南側に咲いていた。ちょっとロックガーデン風に整備されたところだから、園が植えたものであろう。この場所は正月以降雪割草など絶滅危惧種に近い植物の花を思いかけず見ることが出来る穴場だ。ニリンソウも併せて見ることができる。属名のアネモネは、「風の娘」という意味だそうだ。たしかに属名のように可憐な花だ。キンポウゲ科だが属の違う正月の花「福寿草」も、ここでほぼ野生のように見ることができる。

神戸・ 088

■いちりんそう
Anemone nikoensis 

(キンポウゲ科イチリンソウ属)
 
 白い花が淋しげに咲くので、演歌などでよく歌われている毒草だ。茎葉に柄があるから、ニリンソウと容易に見分けることができる。




2012.05.04
  この頃、ヒメオドリコソウが繁茂しているが、「オドリコソウ」のような気品がない。私はこの本来種が好きだ。「ヒメオドリコソウ」のように目立たないが、どことなくさり気ないのがいい。なぜかこの野草を見ていると、清楚だが、何処か淋しそうなイメージから小磯良平の「踊り子」を思い出す。

神戸・ 087

■おどりこそう
Lamium album var barbatum 

(シソ科オドリコソウ属)
 
写真は斑入りだが、近年外来の「ヒメオドリコソウ」が繁茂しているが、本種は花も大きくなかなかいい。名前の由来は、花の形が笠をかぶった踊り子に似ていることから。




2012.01.01
 去年の暮れ、姫路城の「好古園」へ行ったとき、清水門外の石垣で見つけた。まだ充分に熟していない感じで私の好きな色に染まっていなかった。まだもう少し時間がかかりそうに思えた。今頃きっと、ガラス玉のようにキラキラでなく、いぶし銀のような渋みをもった色合いの、まさに珠玉となっているであろう。見ない方がその鈍色の輝きが一層煌めいているように感じる。野ブドウは髭があっても棘はない。その分やさしい。このように実が七色に輝くのは他にタデ科のイシミカワがあるが、茎に鋭い棘があって美しいのだが、近づきがたい。

姫路・ 086

■のぶどう
Ampelopsis brevipedunculata 

(ブドウ科ノブドウ属)
 属名はampelosブドウ+外観opsisという意味で「ぶどうに似た」だ。
写真は充分ではないが、実は熟すと、淡緑色、紫色、黒真珠、碧色などとなり、彩りが賑やかで楽しい。実の色の美しさはタデ科のイシミカワとこのノブドウを挙げておきたい。しかし食べられない。長い種小名は「短い花柄のある」という意味だ。





■姫路城清水門外のムクノキ

                                   


2011.08.24
 くずもちは私の好物のひとつだ。ときどき秘かに食べている。家には甘いものを食べる者は私しかいないが、冷蔵庫なんかに入れておくと、食べられてしまうのではないかと気になる。くずは、明日香など奈良県が産地らしいが、葛湯もうまい。写真のくずは、朝の連続テレビドラマ『おひさま』の舞台である安曇野・万水川に咲いていた。デジタルカメラを落としてしまい、液晶が壊れた直後、携帯で撮った写真だ。滔滔と流れる川は魅力がある。川の堤を誰かとゆっくり歩きたいものだ。

長野・安曇野 085

■くず
Pueraria lobata 

(マメ科クズ属)
 名前の由来は、根から取った澱粉を葛粉というが、それは奈良県國栖に語源があるようだ。根を乾燥させたものを葛根湯という初期の風邪に効くが、ひどくなると、効果がない。かえってひどくなる傾向にある。





■安曇野・万水川望む

                                   

2011.04.08
 ムラサキケマンは京都の宇治などの山野で群生しているのを容易に見つけることができる。ところが最近、伊川を散歩していたら河畔で「シロヤブケマン」が咲いていた。なぜか嬉しくなって写真を撮った。他のケシ科の花と違っているのがおもしろい。同じ仲間の「ジロウボウエンゴサク」はスミレと距を引っかけて引っ張り合う優雅な遊びがある。また子どもの頃に返って楽しみたいものだ。

神戸・伊川谷 084

■しろやぶけまん
Corydalis incisa

(ケシ科キケマン属)
 ケマンは漢字で「華鬘」と書く。仏殿の欄間などを飾る仏具のかたちに由来する。シロヤブケマンはムラサキケマンの花先だけがムラサキのものいう。2011年4月6日、京都府加茂町の浄瑠璃寺界隈でムラサキケマンが咲き始めていた。。





■浄瑠璃寺九体阿弥陀堂を此岸から望む


2011.01.01
 大阪の富田林寺内町を訪れたとき、宗教都市を衛る土塁の外にヤエムグラが繁茂していたが、男山・石清水八幡宮でも松花堂庵跡付近に生い茂っていた。ホップの仲間と説明した方が覚えやすいようだ。
本殿から、三川合流が見える展望台を経て、ケーブルカーの山頂駅へ至る道にヤブミョウガとともに多く見られた。木イチゴのような葉が特徴だから、よくわかる。

京都・石清水八幡宮 083

■カナムグラ
Humulus japonicus

(クワ科カラハナソウ属)
 ビールの原料の一つ、ホップはこの仲間だ。実はよく似ている。荒れ地などに繁茂する。雌雄異株で実はホップに似る.。なお、アサ科に分類するものもある。





■天王山から見える石清水八幡宮のある男山

2010.10.30
 洛南の名所、松花堂弁当で有名な松花堂庭園に江戸時代初期の文化サロンを覗きに行ってきた。サロンの主で石清水八幡宮の社僧松花堂昭乗の草庵は、たった二畳の大きさだった。「自ら薪をとり、湯を沸かし、茶を点て、人に施し、我のむ」という千利休の教えに叶うという。天井は藤の網代織りで日輪と鳳凰の絵が印象に残った。ヤナギタデはその帰りのバス停近くで見つけた。松花堂昭乗は、鮎を釣って蓼酢で食しただろうか。

京都・松花堂近辺 082

■やなぎたで
Polygonum hydropiper

(せり科)
 葉が柳に似ている。葉に辛みがある。これが「蓼食う虫も好き好き」の本種のこと。イヌタデは葉に辛みがないので、本当の「たで」でないと、イヌがついている。鮎の塩焼きのとき、つけるタデ酢は「ヤナギタデ」から作る。穂は垂れ下がる。




■洛南・松花堂庭園茶室「梅隠」

2010.07.13
 写真は私の明石城跡散歩コースの天守台の石垣下で撮影した。この道は春早くから次々と野草が咲き乱れなかなかおもしろいコースだ。季節の移ろいに合わせてキンポウゲやヒメウズやハルジョオンやアメリカフウロウソウなどの花ばなを楽しめる。散歩道の写真のイネ科の白い穂はチガヤだと思う。

明石・明石公園 082

■ヤブジラミ
Torilis japonica

(せり科)
 和名は双懸果と呼ばれる鍵状の曲がった毛がある実が衣服や動物に着く様子がシラミが取りついた様子に似ていることに由来する。葉は2〜3回の羽状複葉で、花は複散形花序である。




■明石城跡天守台下散歩道

2010.05.24.
 阪急芦屋川駅を降りてすぐの芦屋川左岸にあった。私はソラナムの花が好きだ。みんな同じ形をしていてナスの仲間であることを教えてくれて裏切らない。白いのや薄紫など花びらの色は微妙に違うが、雌しべや雄しべの黄色が愛らしく咲いて飽きさせない。ワルナスビなんか棘もあって近寄りがたいところもあるが、トマトのようなかわいい実を付ける。そういいえば、トマトもジャガイモもナス科だ。自家製の採れたてを食べている。

芦屋・芦屋川 081

■イヌホウズキ
Solanum nigrum

(なす科)
 名前の由来はナスやホオズキに似ているが、役に立たないからと付けられた。写真のように花序は茎の途中から出る。実を房状につけるのが特徴でアメリカイヌホウズキとの違いはここで分かる。漢方では前奏を乾燥し、解熱剤や利尿剤とする。。




■阪急芦屋川駅より上流を望む

2010.04.22.
 朝、いつも明石城址に散歩に出かける。震災で坤櫓・巽櫓の2つの櫓は損傷がひどく、両櫓とも引き家方式で建物を別のところに移動させ、石垣を修理したあと、元に櫓を戻した。そして図面や文献がないため唯一残されていた古い写真から震災前にはなかった両櫓の間の築地塀を復元したという。花序はみどりと黄色のコントラストがみごとだ。しかし、この花が人間を見ているように感じるのは私だけだろうか。写真は築地塀の石垣の下で撮影した。

明石・明石城 080

■トウダイグサ
Euphorbia helioscopia

(とうだいぐさ科)
 トウダイグサはとても特徴がある。杯状花序だ。杯状の苞葉の中に花がある。トウダイグサの名前は、船の航路を守る灯台でなく、雄しべは蝋燭、苞葉は台座を現していて灯明を立てる灯明台に似ていることに由来する。茎や葉から乳液が出る。




■明石城坤櫓から巽櫓八

2009.12.29.
 年の瀬にかねてから訪ねてみたいと思っていた石清水八幡宮へ行った。40年前だろうか、ただ一度だけ行ったことがある。夏の暑い日だったように記憶している。展望台から見た京都は印象的だった。桂川、宇治川、木津川が合流し、淀川となるところだ。谷崎潤一郎の名作の一つ『蘆刈』はこの淀川の中州を舞台にしている。石清水八幡宮がある「男山」の描写は大山崎から橋本への渡し上から満月を背にした男山の情景だ。現地の解説板にあるように夢幻能の効果を感じた。満月の晩に大山崎の堤から男山を眺めてみたいと思った。誰かと……。

京都・石清水 079

■ミヤマフユイチゴ
Rubas hakonensis

(きいちご科)
 小さな図鑑にはほとんど載っていなくて特定するのに困った。「フユイチゴ」の存在は知っていたが、見たのは初めてだった。冬に赤い実、しかも結構深い森の中だ。谷の湿り気のある地形は生育地として適しているようだ。萼の表に毛がほとんどない。



■石清水八幡宮展望台から

2009.12.06.
 野菊という名前を知ったのは伊藤左千夫の『野菊の墓』だったと思う。そしてそんな恋に憧れた。中学生になって初めて読んだ小説のような気がする。本棚から茶色に変色した角川文庫を出してみた。パラフィン紙のカバーがなつかしい。<「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のやうな人だ」>
 この年頃の少年は年上の女の子をまぶしく思うようだ。私も隣の家の姉さんが輝いて見えた。そしてなんで楽しいのかわからなままによく遊んだ。姉さんは家に独りでいるときはいつも私を呼びに来た。声を聞くと、身体の中が燃え立つように熱くなるのを感じた。

奈良・朝倉 078

■のこんぎく
Aster ageratoides

(きく科)
 野菊の仲間は多く、その見分け方はむずかしい。一般的には細かい分類はいらない。美しい野菊すべてが
「のぎく」でいいのではないかと思う。葉の表面はザラザラしている。また実に長い毛があるので、比較的分かり易い。


2009.9.20.
 万葉集の<道の辺の尾花が下の思草(おもひぐさ)今さらになど物か念はむ>
 古名の「おもひぐさ」はこれに由来する。しかし、どうもいつも振られている私には、縁のないものだ。暗礁に乗り上げたとき、深くあなただけと思い詰めると、傷口がなかなか塞がらないで困る。思いすぎると、その人を思っているのか、必死で思っている自分をいいなあと思っているのか、見さかいがつかなくなる。そしていつもの悲しい轍を踏む。

奈良・春日大社万葉苑 077

■なんばんぎせる

Aeginetia indica

(はまうつぼ科)
 葉緑素をもっていないので、寄生植物だ。全体的には茶褐色。名前は花の形が南蛮煙管に似ていることに由来する。ススキやミョウガやサトウキビなどに寄生する。万葉集では「おもひぐさ」という。(09.09.06撮影)


2009.4.23.
 09.4.19に北海道で「ミズバショウ」が咲いたと聞き、利尻島のペジ岬で「エゾエンゴサク」の紫の花を見る一週間前に、この花に出会った。このところ同じケシ科の「ムラサキケマン」も見つけたし、ケシ科づいている。興聖寺は山吹の名所で知られているが、この花が琴坂沿いに群生している様子がゆかしい。

京都宇治・興聖寺 076

■ジロボウエンゴサク

Corydalis decumbens

(けし科)
 花をひっかけて遊ぶ花相撲にちなんだ名前だ。スミレを「太郎坊」、エンゴサクを「次郎坊」と言ったことに由来する。丸みがある葉が特徴である。距は結構長い。蜜は多いのだろうか? 蜂に聞いてみたい。


2009.1.1.
 野菊の仲間はみんな同じような顔をして私たちの前に現れる。もちろんどれはどれと、あんまり神経質になる必要はないと私は思っている。みんな清楚で素晴らしい顔をしているし、野の草むらの陰で、ようこそ、と思いがけず出会う。そんなとき、そっと葉に触ってみよう。ざらざらしてたら、「のこんぎく」だよ。
 さあ、原っぱへ行こう。

奈良・吉野山 075

■ノコンギクロ

Aster ageratoides ssp. ovatus

(きく科)
日本の代表的な野菊だ。写真ではわかりにくいが、花は淡い紫色で、実に長い毛があり、葉の表面がざらざらしている。野菊の仲間はオオユガギク、ヨメナ、ユウガギク、カントウヨメナなどがある。