槍ヶ岳PROJECT Y 2001
標高3180m、
山登りをする人なら、誰もが一度はその天を突く頂に立ってみたいと思うだろう。
若い頃の私にとってこの山は、穂高への入り口の山でした。
そんな思い出のいっぱいつまった槍ヶ岳に15年振りに登って見ました。
7月27日
新穂高温泉〜わさび平〜鏡平〜双六小屋

家族の山登りも、4年目にしてついにあの槍ヶ岳に向かうこととなった。
出発点は私の山デビューの地、新穂高温泉、デビューから21年。東海北陸道が出来て、アプローチが便利になったり、無料駐車場がかなり下になったりはしたが、新穂高温泉の雰囲気はあの頃と変わらない。
新穂高温泉からブナの林を歩く事1時間30分、
わさび平小屋に到着!
ウォーミングアップはここまで、まずは鏡平までの登りがはじまる。
林道を抜け、秩父沢に着く。雪渓から流れる水が冷たく気持ち良い。しかし、睡眠不足の体に照りつける真夏の日差し、そしてザックの重さが容赦なく襲い掛かる!
それでもペースを崩すまいと登りつづけるが、目の前にはおばさまおじさまの団体が立ち止まっている。
「すみませーん、止まらないでくださーい」
「はーい道あけまーす」
道を開けてもらったのは良かったけれど、行けども行けども団体さんが途切れない。
一気に20人は抜いただろうか。ペースを保つつもりで掛けた一言が逆にオーバーペースになってしまった。
止まらずに歩いて欲しかっただけなのに…
”団体追いぬき事件”で完全にペースを崩してしまった我々は足取りも重く、完全にバテ状態、とくにかぁちゃんのバテは重症だ。さっき抜いて行った団体にあっという間に追いつかれる。
「すみませーん、先に行ってくださーい」団体さんに道を譲る(屈辱!)
「ペース考えずに歩くとああなるんだよ!」
違うじゃろがい!この先もこの団体と一緒かと思うと、
「ふー、昼飯にしよか」予定を早めてイタドリが原にて昼食。かぁちゃんのザックの半分を持つ!ズシッ「重い!」双六小屋はおろか、鏡平小屋までもかなりある。「今日は鏡平までか…」
シシウドヶ原を越えるとようやく傾斜もゆるくなり歩きやすくなってくる。子供たちは快調に歩いて行く。ようやく、鏡平の木道についたそのとき、子供たちがお迎えに来た。
予定より2時間遅れの午後2時、ようやく鏡平に到着!
昨年の涸沢に続いて親の面目丸つぶれである。
名物のかき氷を食べ、宿泊申し込みをしようと覚悟を決めた頃。あの団体さんがご到着。
「今日はここで宿泊しまーす」
「な・な・なにぃ…あの団体が泊まるのか!」
あたりを見渡すと,団体だらけ…
予定の変更を白紙撤回!「双六まで行くぞ!」
双六の稜線に出ると、そこは高山植物の楽園、緩やかなアップダウンはあるが心地よい稜線歩きを楽しめた。特に子供たちは絶好調!
山登りのDNAを感じるひとときである
予定よりなんと3時間遅れで双六小屋に到着!死闘であった。
7月28日
双六小屋〜槍ヶ岳山荘

今日は、プロジェクトYのクライマックス、槍へと向かう日である。
しかし、かぁちゃんの機嫌がすこぶる悪い!「降りようよ!、私疲れたよぉー」
とうちゃんの怒りは頂点だぁ「お前、ぐたぐた文句が多すぎるぞ!、降りたかったら一人で降りろ!」しぶしぶかぁちゃんも歩き出す!いきなり樅沢岳への登りの開始、全員無言でひたすら歩く、昨日に引き続きかぁちゃんの荷物の一部を引き受けたとうちゃんがいちばんつらそう!「荷物持とうか?」とかぁちゃん。
「大丈夫だよ!」というものの、「お前の文句を聞くくらいなら俺が担いだ方が気が楽でぇ!」とは口が裂けても言えずひたすら歩く!
振り返れば、後方に薬師、黒部五郎、鷲羽etcが広がる、
「今日も一日頑張ろう!」
ガスが流れ槍が見え隠れする稜線を機嫌を取り直した我が家はのんびりと歩いて行く。
樅沢岳を過ぎ千丈沢乗越まではアップダウンを繰り返しながらいくつもピークを越えてゆく。
高山植物は美しいがガスで展望はきかない。
「こんな日は雷鳥に逢えるかもしれないよ。」
好天には好天の楽しみ方があり、
曇りには曇りの楽しみがある。
何事もプラスに前向きに、ポジティブに…
山登りをやっていなければ、こんな考え方にはならなかったろうな。
7月27日.新穂高温泉〜わさび平〜鏡平〜双六小屋
7月28日.双六小屋〜槍ヶ岳山荘
7月29日.槍ヶ岳山荘〜槍平〜新穂高温泉
だから、
「山はいい!ほんとにいい!」
硫黄乗越を過ぎ、お花畑や雪渓を見ながら、コースタイムを気にせずのんびりと歩いてゆく。
子供たちは鼻歌交じりで歩いている。口ずさむ歌はなぜか「地上の星」である。
”♪かぜのなかのすばるー、みずのなかのぎんがぁー”
小学生の中島みゆきファン!ちょっと不気味である。
高山植物は今が見頃のようでハクサンフーロー、シナノキンバイ、チングルマ、クロユリ、コバイケイソウ、まさに百花繚乱である。そして、登山道の脇に、ひなを連れた雷鳥を発見!
「わーい、雷鳥だ!」
「頑張った甲斐があったね」山からの思わぬプレゼントである。
子供たちが一番楽しみにしていた雷鳥を見せてやる事ができた。
親の面目躍如である(えっへん!)
双六小屋〜槍ヶ岳山荘(後編
雷鳥を見物する事20分、千丈沢まではあと少し、
稜線を渡る風がガスを飛ばしてゆく。
さっきまで見えなかった槍ヶ岳が姿を現した。でっかい!
「すごいねぇ!」
お疲れ気味のかぁちゃんもこの光景には感激した様子で、景色に見とれている。
北鎌尾根を従え、でっかく、聳え立つ!
手前にはこれから歩いてゆく西鎌尾根の稜線が険しく立ちはだかっている。
その姿は、まさにモンスター、ゴジラである!
さぁ、いよいよ千丈沢乗越に到着。
あとは2時間の急登だ!

千丈沢から槍の肩までは、すれ違う人が口を揃えて「あそこがきついよ!」という急登らしい。
15年前の秋は吹雪の中の登りだったのであまり覚えていないがやはりきつい登りらしい。
再び湧き出したガスのために、どの程度の登りなのかは分からない!
「本日最大の頑張りどころ!行くぞー!」
娘の口から信じられない言葉が…
「先が見えないから、あまりきつさを感じなくて良かったね!プラス指向、プラス指向!」
雷鳥を見て、花を見て、槍ヶ岳の大展望を見て、
いろんなものに感激した子供たちは、もう怖いものなしである。
すごい早さで、ぐんぐんと登ってゆく!
今日もまた、山登りのDNAを感じる瞬間である。
そんな子供たちにブレーキを掛けるかのように現れたのが、またも、雷鳥である!。
またも雷鳥ウォッチングで20分の休憩。
急登の辛さを感じる間もなく、槍の肩に到着。槍の穂先は山荘付近まで長蛇の列である。
なんと4時間待ちだそうだ!
      「面倒くさいので頂上はカット!」
      
鎖場や梯子で待ってるときに天候が変わったら…
事故が起こったら、穂先に取りついてる人はパニックだろうな。
頂上に登ることが山登りの全てではない。
子供たちが自分で行ける頃に頂上は行けばいいだろう。
さぁ、明日はいよいよ下山。残った食料で宴会だぁ!
7月29日
槍ヶ岳山荘〜飛騨沢〜槍平〜新穂高温泉
午前3時に目が覚める、山荘のテラスに出る。頂上へ向かうヘッドライトの列。
空は満天の星!遠くに北穂高小屋の明かりも見える。今日の好天は約束された。
しかし、今日は暑い暑い下界へ向かってひたすら下るのみである。
午前4時30分、家族全員で夜明けを眺める。
流れ星が見えたらしいが、残念ながら見逃してしまった。
標高3080m槍ヶ岳の肩からの荘厳な夜明けである。
目を転じると、南に穂高連峰、焼岳、乗鞍岳、御嶽。
西には笠、双六の奥に黒部五郎、薬師
東遠くには富士山、南アルプス、八ヶ岳、
北には剣、立山。まさに360度の大パノラマである。
圧倒されるような景観。このまま時間が止まって欲しい景色。
しかし、今日は最終日、下山の日である。
暑い暑い下界への、平凡な日常生活に向かっての下山である。

日本で一番高い峠、飛騨乗越
槍ヶ岳もこれで見納めである。
ここからから飛騨沢を一気に下る。
かつて、新穂高からフラフラになりながら一気に上った飛騨沢、
吹雪の中を新穂高へと下った飛騨沢、
その飛騨沢を家族で下ってゆく。
なんとも言えぬ気分である。
飛騨沢を下りきると、とうちゃんのとっておきの場所。ラーメンカンバの木につく。
ここは、新穂高温泉から上ってくるとようやく槍ヶ岳山荘が見え、飛騨沢のきつい登りが始める場所である。
登り始めるとちょうど昼飯のラーメンの時間にここにつくので、勝手にラーメンカンバと名づけさせて頂いている。
さぁここから新穂高温泉まで5時間のだらだらと下る。
木立の中を、槍平を過ぎ、滝谷出合で最後の水遊びを楽しむと、あとは温泉とビールをめざして歌いながら歩いていく。
♪おんせんなんてラララーラララーラ、かなり下ったせいかものすごく暑い!
穂高平避難小屋で我慢できずにビールを飲む!ものすごく美味い!
猛暑の林道歩きの末に午後1時新穂高温泉に到着。
暑く苦しい3日間のプロジェクトYがここに完結。
しんどかった、途中で何度も下山を考えた。
あきらめないで頑張って見る事!その結果素晴らしい充実感や感動を得ることができる。
これはあきらめないで頑張った人にしかわかるまい。
ProjectY2002。さて今度はどの山をめざそうか!