Project Y 2002
北岳・間ノ岳
14年ぶりに訪れた南アルプス、
標高3192m、日本第二の高峰北岳
出会いあり、涙あり、そこはとんでもない山だった。
8月10日.広河原→大樺沢二俣→右俣→北岳肩の小屋
8月11日.肩の小屋→北岳→北岳山荘→中白根→間ノ岳→北岳山荘
8月12日.北岳山荘→八本歯のコル→大樺沢二俣→広河原
深夜の中央高速をすっ飛ばし、韮崎から曲がりくねった道を走り、ようやく到着した広河原。今年の夏山は、ここ広河原から始まるのだ。
家族を連れて登り出したのが4年前、我が家の夏山登山もとうとう南アルプスを目指すまでになった。
広河原からは北岳がバッチリ見える。足取りも軽く歩き始める我々の背後に視線を感じる。振り向くとどっかで見た事のあるヒゲ面の方が
「Field Tourerさんですか?」
と声を掛けられた。
「まさか?もしかして、やっぱり亀足隊長さんですか」
初対面なのに、久しぶりに逢ったような感覚。そして、すごい有名人に会ったような感覚。生の隊長ははじめてなのであるが、ネットの中では何度もコミュニケーションをとっている。だから、まったくの初対面ではないのだ。
隊長は娘さんと仙丈岳だそうである。
アルペンプラザでまじめに登山届を提出し、広河原山荘でしっかり朝飯を作って、いよいよ本格的に歩き始める。樹林のあいだを登り、大樺沢沿いの登山道を登って行く、崩壊地を過ぎると大樺沢上部の雪渓が近づいてくる。二俣まではウォーミングアップ気分なのであるが、早くも子供たちは絶好調!ぐんぐんと登ってゆく!「頼むから待ってくれぇー」という静止の声もむなしく、まっすぐに続く大樺沢の登山道のはるか彼方に、子供たちの姿がみるみる小さくなってゆく。見える分だけ余計に悔しい。
早くも親の面目丸つぶれである。子供たちが強くなったのか、親が衰えたのか、ここでは触れまい、いや、触れたくはない!
大樺沢二俣で早めの昼食!沢で水を汲んで…のはずが、沢の水が涸れている(がぁーん)。
ポリタンを持って、雪渓の末端まで水を汲みにゆくはめになる。苦労して手に入れた水で作ったラーメンは美味い!たとえそれが、ハウス食品極つゆラーメン塩味だったとしても、”南アルプスの天然水仕立てのラーメン”なのだ。
Field隊恒例の長ーい休憩を楽しんだ後、大樺沢を離れ肩の小屋目指して樹林の中のジグザグの道をひたすら登ってゆく。ラーメンでパワーをつけた子供たちはさらにパワーアップ!1時間ほど歩くと樹林帯を抜け、お花畑に出る。ピークを過ぎたお花畑には申し訳なさそうに、シナノキンバイやキタダケトリカブトがチラホラと咲いていた。お花畑から先はまたもや急登の連続!ここまで来て子供たちはさらにパワー全開!みるみる小さくなってゆく。一緒に山を登るようになって4年、恐るべき成長である。
お花畑から登ること1時間30分、小太郎尾根の稜線に着く。
「小屋まであとどれくらい?」子供たちが尋ねる。
「そんな先のことを考えないで、一歩一歩歩いて行こうよ!」

TOP 8/10.広河原→大樺沢二俣→右俣→北岳肩の小屋
8/11@
8/11A
8/12
「今までの一歩一歩でここまで登ってきたんだよ。だから、これからの一歩一歩がもっと高いところまで登らせてくれるんだよ!だから、今の一歩一歩を頑張って歩こうよ!」
「なんで、山に登りながら子供に説教しなきゃならんのだ!」
「親の勤めですねぇ」っと後ろから来る人が微笑んでいる。
今までの積み重ねで今の自分がある、だとしたら今の積み重ねでこれから先の自分が決まる!
だったら、今を精一杯頑張るしかない。

歩きながら、ふとそんな事を考えてしまった。
振りかえると富士山がでっかい!そして気持ちのいい稜線が北岳まで続いている。
「よーし、歌っちゃうぞ!」
♪私は今日まで生きてみましたぁー、時には誰かの力を借りてぇー
♪私には私の生き方がある、それはおそらく自分というものを
♪知るところからはじまるものでしょう
♪けれどそれにしたって、どこでどう変ってしまうか
♪そうです わからないまま生きてゆく
♪あしたからのそんな私です
      (今日までそして明日から、by吉田拓郎)

稜線を渡る風は心地よい、
こんな道はゆっくりのんびり歩くに限るのだ。
TOP 8/11北岳肩の小屋→北岳山頂→北岳山荘
8/10
8/11A
8/12
4時起床、風がビュンビュンと吠えている。気温は7℃、空には満天の星。
肩の小屋から荘厳な御来光を拝み、あったかいかに雑炊で朝食を取り、5時30分小屋を出発。風は強く、寒い。
寒さのせいか子供たちの調子が上がらない。ゆっくりゆっくりと、岩稜を登ってゆく。風は仙丈の方角からまともに北岳めがけて吹いてくる。子供たちは怖じ気づいたのか昨日のようにビュンビュンとは歩かない。
こんなときに、寒さを代わってあげる事も出来ない。子供たちの方をふりむき「ニコ」っと微笑んで、あとは黙って登ってゆく。時折上の方から歓声が聞こえてくる。「頂上が近いのか?」いやそうじゃなかった。
振り向くと、仙丈の方からガスが沸いてくる。ひと登りすると、ようやく東からの日差しを浴びられる事が出来た。
西をみると、「あ、あれは…」

「ブロッケン現象だ!」
さっきの歓声はブロッケン現象に手を振る歓声だったのか。
「手を振ってみなよ」
「わー、丸い虹の中で影が手を振ってる」
「やっほぉぉぉぉぉぉーーーー」
さっきまで寡黙だった子供たちに歓声が戻る。
現れては消えるブロッケンを見ながら、またも歓声が聞こえてくる。今度こそ北岳の頂上だ。
「あと少し」一歩一歩踏みしめて山頂へと登ってゆく!午前6時50分、ついに北岳山頂だ!
標高3192m、家族全員でかみ締める北岳の山頂である。
「みんな、握手をしよう!」「おまえらすごいわ!」「よく頑張ったなぁ」
なんとも言えぬ感激が胸を貫いてゆく!
富士山・間ノ岳・塩見・荒川三山・甲斐駒・仙丈、見渡す限り息を飲む風景が広がっている。
「そうだ!おばぁちゃんに電話を入れよう!」
ずっと圏外だった携帯が頂上でつながるようになった。
「おばぁちゃん、しんどかったけど二人で励まし合いながら登ったよ」
(なんで二人なんやねん、親はどうした。)でも
”おまえら偉いぞ!”
一歩一歩踏みしめてついに登った北岳のてっぺん。日頃のうっとぉしいいろんなことなんてどうでもよくなるようなものすごい風景!
「俺はくだらんことで毎日うだうだ言ってるんだろう!」
ものすごい風景が広がっている。気がつけば涙が止まらない!
TOP 8/11北岳山荘→中白根→間ノ岳→北岳山荘
8/10
8/11@
8/12
感動いっぱいの山頂をあとに、北岳山荘に向かって下ってゆく。
北岳山荘への下りは結構な下りだ。風を避けて、トラバース道を歩く手もあるが忠実に稜線を辿って行く事にする。
子供たちはというと登ってくる人達に道を譲りながら「もう少しですよ!頑張ってくださいね」などと余裕をかましている。下りきると気持ちのいい稜線が続いている。稜線の向こうに間ノ岳が美しくそしてでっかい!
よーし、今日も歌ってみようか!

♪How many road must a man walk down
♪Before you call him a man?
♪The answer,my friend is blowin’in the wind
♪The answer is blowin’in the wind
    (風に吹かれて by Bob Dyilan)

”かぁーん”
近くで北岳山荘の鐘の音が聞こえる。
荷物を軽くして、さぁ次は間ノ岳だ!
北岳山荘に荷物を預け、ハイマツの稜線を間ノ岳へ向かう。
中白根までは緩やかな登りが続く、とうちゃんの調子はついにピークだ。絶好調だ!
振り向くと子供たちが見えない。「しまった、調子に乗りすぎた」
中白根でザックを降ろし、早めの昼食。深くなってきたガスと弱くなったとはいえ吹き止まない風に、子供たちは歩く意欲をなくしているようだ。追い討ちをかけるように霧雨が…。
「いつもいつもいい天気じゃない。これも3000mの山の姿なんだよ!」
「さぁ早くしないと雷が来るぞ!行くぞ!」
雷の鳴るような霧ではないが、ここは一芝居打ってみる。しかし
「北岳山荘に戻る!」
(しまった、逆効果だった。)
あと少しで間ノ岳だ!もう少し歩こう!(またもや子供だまし)
「いやだ!山荘に戻る!」
「いい加減にしろ!戻りたかったらおまえらだけで戻れ!」
こんどはかぁちゃんまでも戻りはじめた!
「お・お・お前らぁー、たいがいにしろよ!グタグタ言わないで黙って俺に付いて来い!」
とうちゃんの一喝でみんな無言で歩き出す。でもなんかきまずい雰囲気が漂う。
間ノ岳までは小さなピークをいくつも越えてゆく。
「あそこだよ!もう少しだ頑張れ!」登りきるとさらにピークが、越えても越えても、次々とピークが現れる。
「まだあるの?」アップダウンにうんざりしてきたかぁちゃんが何度も尋ねてくる!
「まだまだあるよー!」正直言ってどれだけあるのかまったくわからない。
「もうあたし帰るわ」ついにかぁちゃんが切れてしまった。最大のピンチである。

「ここまできて戻っちゃうんですか?もったいないなぁ」
「曇ってきたけど、雷雲じゃないし、頂上そこですよ!」
すれ違う人が笑顔で教えてくれた。
「おとうさんのうそつき!」
子供たちが、笑っている。

間ノ岳、標高3189m、日本第4の高峰。
無理やり登らせてしまった(^^:
「握手をしよう!」
全員でハイタッチ!霧の中景色はほとんど見えない。
でも、記憶に残る素晴らしい山に違いない。
北岳とは違った充実感を味わった間ノ岳をあとにし、今度こそ北岳山荘へ引き返す。
「まだまだピークが続きますよ!頑張ってください」
すれ違う登山者に声を掛ける子供たち。
さすがに絶句してしまう。霧も晴れ稜線歩きが楽しい。

”We are Field Tourers from Kansai!
 We are very happy, Thank you!

すれ違うフォーリナーにも軽ーく話しかける。
”コンニチワ!ガンバッテクダサイ!”
フォーリナーも絶好調!日本語で応えてくれる。
”シャシンヲトリマショウ”
おっといけねぇ、英語なまりの日本語になってしまった。
(これでは”南アルプスの天然ボケ”である
TOP 8/12北岳山荘→八本場のコル→大樺沢二俣→広河原
8/10
8/11@
8/11A
北岳山荘には今日すれ違った人達が何人か泊まっている。
子供連れもチラホラ。今回のコースを1泊2日で登るというつわものの御一家もいれば、高度障害になって酸素を吸ってる子供たちもいる。
かと思えばすっかり小屋のおねぇちゃんと友達になってすっかり従業員しているお茶目な姉弟がいる。
それぞれの山登り、それぞれの夏休みがある。
それぞれの思い出を胸に抱いて標高3000mの夜は深けてゆく。
空には満天の星。またもや涙が止まらない。
山はいい、本当にいい。
楽しかった南アルプスもいよいよ最終日。
朝焼けの富士山が美しい。
本日のハイライトはお花畑のトラバース道とバットレスを間近に見ながらの大樺沢の下りである。
広河原にはお昼頃に着けば余裕で家に帰れる。今日もゆっくりと歩こうぜ!
アップダウンを繰り返しながらお花畑のトラバース道を歩いてゆく。
いろんな花が咲いている。でもわかるのはシナノキンバイとハクサンフーローくらいしか分からない。
「今度は花のいっぱい咲いてる山がいいな」
「ぼくは鎖や梯子がいっぱいあるところがいい」
「どこに行こうかな、来年は…」
山荘を出発して1時間、山頂への分岐点に着く。縦走中ずっと見守っていた富士山もここが見納め。
ここからは梯子だらけの道を八本歯のコルまで一気に下る。そしてその先は…
考えまい。

八本歯のコル、間ノ岳ともこれが見納めだ。

稜線の彼方に間ノ岳が見える。
大らかに、そして優しく、そして美しく

見上げると、北岳が荒々しく聳えている。まるで大魔神のように…
「とんでもない山だよね。北岳って」
時には大らかに、時には凛々しく、そして時には荒々しく…。

かつて、この山にひとりで登った青年がいた。
あるときは、八本歯のコルからあえぎながら、
そしてまたあるときは、遥か塩見岳から…
青年は父となり、子供達とまたこの山にやってきた。

間ノ岳に向かって一礼する。

静寂をかき消すように子供達の声がこだまする。

「やっほぉー!」
「焼肉食いてぇー!」

(バカ、ムードぶち壊しなんだよ、でも子供に負けずに)
「ビールが飲みてぇー!」
八本歯のコルからも梯子の連続する急な下りが続く。
バットレスが徐々に高くなってゆく。
大樺沢まで下り、D沢の水場で、とっておきの休憩。
恒例の水場の宴会だ!果物の缶詰を沢に投げ込んで冷やす。冷えるまでのあいだに、
”最終兵器・メロンソーダ”の登場!
南アルプスの天然水仕立てのメロンソーダ!が美味しい!
心地よかった山の空気も、だんだんと暑くなって来る。

「これ以上の山登りはそんなには出来ないね」
本当にパーフェクトな山登りだった。
広河原まであと少し…。
名残惜しいけどあと少し。

Project Y 2003
これ以上の山登りが出きるだろうか。

最後まで元気いっぱいの子供達の声がする
「まだまだ先は長いですよ!頑張って下さいね!」

大丈夫だ。たぶん
長々とありがとうございました
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