わし、ラッキー。

ラッキー わし、ラッキー。ホンマはそんな名前と違ごたんやけど、今はラッキーやってま。
今わし、100頭ばっかりの黒牛を飼うとってのお宅に居候してますんやけど、 ここに来るまでには紆余曲折があってな。
もともとの買主っていうのは、ちょっと変わったお人でしてな、 その家には永いことおったんやけど、 わし、ちょっと粗相をしまして、山ん中に捨てられてしもたんですわ。
何をしたかは聞いて欲しないけど、 白状しますと、小学校の給食室にお邪魔してしもたんです。 あそこ、ええ匂いがしますんや。たまりませんわ。 あれは、小学生の坊ちゃん、嬢ちゃんが食べてのもんやとは知っとったんですが、 ついフラフラーっと入ってしまいまして、 そうなったら最後、我を忘れて食べまくってしもて。
そんで、山ん中に置き去りですわ。わしにも帰巣本能とか言うもんがおまして、 テクテクと家の方向いて歩いとったところ、とある牧場にたどり着いたんですわ。
大きい牧場でしたけど、見覚えはない。でも、管理人さんには見覚えがありましたんや。 間違いない。この人は家の隣保のてっつぁんや。この人について行ったら家に帰れる。 そう思て、てっつぁんがダンプに乗ったら、慌てて老体に鞭打ち乗り込んだのに、 まんで反対の方向に行くやないですか。 この人、えらい働きもんで、車で30分ほど行ったところにある牧場と掛け持ちで管理してますんや。
牧場を行き来する時は車に乗せてくれますんやが、家帰る時は乗せてくれませんねん。 歩いて帰ろか思たけど、餌も貰えるし、てっつぁんもええ人やし、 暫く腰を落ち着けることにしましてん。 その頃のわし、ガリガリで、骨皮筋衛門でしたよって、 帰るにしても体力付けてからにしょうと思たんですわ。
てっつぁんとダンプに乗って、2つの牧場を行ったり来たり、 そんなことを何日続けましたやろ。 ある日てっつぁんが、近くのツレの家にわしを連れていきましたんや。
それが今おるお宅です。 ここの奥さん、サユリはん言うんやけど、かいらしいて、わし、一目惚れです。 わしの初恋のプードル、アニシアちゃんにソックリなんや。
サユリはん、わしのためにわざわざ飯炊いてくれて、 お陰でこのとおり、ガリガリやったわしも今では肥満体。 走ったら体が重うて、息が切れます。
お節介な人が痩せなあかんて言うたけど、 サユリはんは太ったわしが好きなんやて。 ちょっとしんどいけど、サユリ好みのわしでいたい。
サユリはん、死ぬまで一緒でっせ!

ラッキーの素姓については全く不明です。
この文章の内容はあくまでも私の創作であることをお断りしておきます。

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