建物の記憶
子供のころ、小学校の木製の机に落書きをしてしまった事は有りませんか?
小学校の木造校舎や校庭の噴水など印象にに残っているはずなのに今ではなかなか思い出せない。
でも、自分の机に授業中に隠れてコンパスで彫った何気ない落書きの手触り感が、突然よみがえって懐かしい情景が次々と思い出されることはないでしょうか。
意識しないうちに毎日、毎日手の触覚が体験している事は本人の意識は別の所に記憶されているのかも知れません。ある日突然同じような手触りを体験した拍子に数十年も前の記憶が甦り、懐かしい感触と共に当時の事を思い出す。そんな記憶への仕掛けがブレーメンにはあります。
学生時代の4年間は人生の貴重な1ページです。初めての単身生活や多くの人との出会いなど色々な体験が始まります。そしてすぐに時間は過ぎ去り多くの方が又この京都を離れて行きます。そしていつの日か学生時代が懐かしく、価値ある思い出となる日が必ず来ると思います。  
 そんな時にこのブレーメンが良き思い出、京都の街が楽しい思い出の舞台として記憶されますように願って設計されました。外観も他の流行のマンションには絶対に真似の出来ない古煉瓦風、出来る限り自然素材である木と土とレンガと草木を中心に構成されたイメージは周辺の深い樹木の緑を借景にして、個性的では有りますが安らぎと癒しのある空間を造り上げています。     

                      定礎
大きな建物や立派な建物には定礎石と言って建物の新築を記念して完成年月などを刻印した石盤などが嵌めこまれます。ブレーメンは規模も小さいし立派な建物でも有りませんので、予算的にもそのようなものは、取り付けられませんでしたがブレーメンの歴史の始まりとしては何か記念になる記録を残したいと思い階段手摺の一部に館銘と年号を自身で彫刻しました。
元々この場所には木材の保管用の倉庫が長年ありました、建築前に古い木材の移動や処分を行いましたが珍しいことにチーク材の切れ端が出てきたのでこれを利用しようと思い自身で寸法加工、削り仕上、サンドペーパーで仕上、彫刻刀で館銘を彫りました。
 チーク材は堅く変形が少ない事から古くから西洋では家具の材料として使用されていました。彫刻刀では堅くてなかなか彫りにくかったので、最後は昔の様にコンパスの針で削りました。予定では文字の他枯葉のレリーフなどを彫刻するつもりでしたが硬さと木目の流れでの彫りにくさから断念せざるをえなかったのです。
チーク材自体が非常に色が濃いので着色はせず透明のウレタンラッカー塗にしました。今から思えば友達が助言してくれたように自然油の乾拭きにした方が素材感が出て良かったのかも知れませんがあとの祭りでした。しかし大味な手触りと、コンパスの針でのガサガサした彫刻は落書きした小学校の机の手触りに似たものがありました。この触覚の記憶が将来いつの日か巣立って行った誰かのここブレーメンでの懐かしい記憶を呼び起こす引き金となる事を期待しながら取り付ける事にしました。