MANDEVILLE, B.,The Fable of the Bees ;or, Private Vices, Publick Benefits. With an Essay on Charity and Charity-Schools. And a Search into the Nature of Society. The Fifth Edition. To which is added, A Vindication of the Book from the Aspersions contain'd in a presentment of the Grand-Jury of Middlesex, and an abusive Letter to Lord C.,London, Printed for J. Tonson, 1728, pp.xvi+477, 8vo.

 バーナード・マンデヴィル『蜂の寓話 私悪すなわち公益』第5版。 
 著者はイギリスへ移住したフランス系オランダ人で、名家相手の高名な医者だった。時はコーヒーハウスでの諸子横議時代。ベンジャミン・フランクリンが(「騙されて」行った)ロンドンで著者に会ったのもターバン(酒場)でのこと(『フランクリン自伝』第3章に書かれている)。ちなみに著者の姿が、同時代の記録に残っているのは、これだけとのことである。 
 元々は、『ブンブン不平を鳴らす蜂の巣、すなわち悪漢化して正直者となる』なる題の下、26ページの狂詩の冊子として1705年に発行された。日本の瓦版と同じように読み売りで販売されたものらしい。1714年にはこの「詩篇」に「緒言」、「序文」および「道徳起源論」と20編の著者注解を加えて、『蜂の寓話』と題名が付けられた。発刊後の轟々たる非難に対する反論を含めて1729年には第2部が出版された。著者生前は第6版(1732年)まで。
 スイフトと同時代の風刺文学とはいえ、経済学・社会学等に大きな影響を及ぼした。アダム・スミスの経済的自由論の先駆者とされる。スミスはマンデヴィルを厳しく非難しつつも多大な影響を受けている。本書の副題「私悪すなわち公益」をアダム・スミスは「私益すなわち公益」と読み替えた。もっとも、マンデヴィルのいう悪徳は諸々の欲望のことで、中世的道徳ないしは神学者から見てのものであり、今日いう悪徳とは異なる。
 スミスの重視した分業という言葉(the division of labour)と概念もまた著者に負う事大である。
 現代経済学の巨人もまたこの本を取り上げている。
 ハイエクは、ある秩序が設計なしに自己を形成する事を、著者は理解していたとし、「進化と秩序の自生的形成という双生児観念についての近代思想上の決定的な突破口を開いた。」(F・A・ハイエク田中真晴・秀夫訳 「医学博士バーナード・マンデヴィル」『市場・知識・自由』ミネルヴァ書房1986年、第四章p.102)とする。ケインズは、周囲のごとく、『一般理論』第23章「重商主義その他に関する覚書」の中で、有効需要論の先駆者として取り上げた。
 いずれも、いささか自己の関心に引き付けて読み過ぎかと思うが、古典とはこういうものか。

 経済学史家T・W・ハチスンの旧蔵書。英国の古書店からの購入。装丁に素人的な補修がなされているものの、値段はリプリント版より安いのではないかと思えるほどであった。重版であるが、現在私蔵本の内、最も刊行年が古いので挙げてみた。18世紀の本といえば、あとはスチュアート『経済の原理』の端本(重版)を数冊持っている程度である。
 
(参考文献)
上記にあげた文献の他、
1.泉谷治訳『蜂の寓話』 正・続、法政大学出版局 1985,1993年
2.上田辰之助『蜂の寓話 自由主義経済の根底にあるもの』 新紀元社 1950年
2.大河内一男『アダム・スミス 人類の知的遺産42』 講談社 1979




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(H19.5.6.記)




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