JUSTICE, ALEXANDER
, A General Treatise of Monies and Exchanges; In which those of all Trading Nations are particulary Describ'd and Consider'd. With, An Account of all the Foreign Banks and different species and Denominations of Monies, ... , London, Printed for S. and J. Sprint and J. Nicholson, 1707, ppxiv+96+424+iv+98+120+72+48+28 with tables, some folding, Sm. 4to.

 ジャスティス『貨幣及び為替概論』。初版。
 標題紙には著者は「貿易繁栄を願う者」(a well-wisher to Trade)とのみ書かれているが、アレキサンダー・ジャスティス(Alexander Justice)の匿名とされている。ジャスティスには、他に著書A General Treatise of the Dominion of the Sea:1705 がある他は、詳細不明。
 本書は、外国本の翻訳と著者自身の著作の混交である。その翻訳も何冊かの本からなり、そこにも著者自身の修正が入り、解説も混じり込むという雑多な構成である。以下、主に本書の献辞と序文の助けを借りて、本書概要を記す。
 シティ商人のニコラス・リンカーンが、フランス語で書かれた貨幣と為替の本(オランダで発行)を招来した。これを、英語で発行すれば利益になると思われた。為替は貿易業務の中で最も入り組んだ部分であり、商売において馬鹿に出来ない技能である。しかし、為替について常識的な実践以上の理解を有している人は稀であり、完全に理解している者は、ほとんどいないからである。
 こう考えて、外国の著作物に英国の衣装を纏わせて、関心を持つ人の役に立たんことを著者は願った。翻訳についてまず考えたのは、この本を英国の現状に合うように必要な変更を行うことである。
また、原著が学習者に予備的な知識を与えることなく、直ちに込み入った議論に入ることから、入門の意味で一般的概論の序論を付すことが必要だと著者は考えた。これは為替科学の要論ともいうべきもので、海外の著書でも概論や原理はないので、便利であろうと。"An Introductory general Discourse on Monies and Exchanges"95ページである。この部分は、全く著者自身ものであり、著者が幾年間の貿易業務の経験を通じて、当主題について学んだ考えである。出来る限りわかりやすく工夫して、初心者でも、為替の実際と理論についての知識を得られるようにしたとする(注1)。
 さて、本体部分である貨幣及び為替の概論("A general Treatise of the Monies and Exchanges of all trading Nations")が始まる。第一論説(Article)は、ロンドンと女王陛下の統治する他領土の為替の論説である。原著のやり方を手直しし、著者の経験や他文献をもとに書いたので、原著には1割程度しか依存していないとしている。第二論説は、フランスの為替論説である。これも同様に原著への依存は少ない。第三論説がスペイン・ポルトガル、第四論説がイタリーと地中海諸都市の為替であるが、これらはほとんどオランダ本の原著によっている。第五論説が、ドイツとすべての北方諸国について、第六論説は低地諸国についてである。第七論説は、The Merchant`s Map of Commerceなる書で取り上げたスペイン・イタリアの諸都市に関する貨幣・為替の論議(Discourse)にリオン・フランクフルト等の市についての論議が付されている。第五論説以下もほとんどオランダ本の原著による。終わりに、Scarlet・Marius・Munn(注2)等の著書における為替理論の主要部分を付けている。この概論の論説は通計424ページである。
  以上に付録というべきか、大別して4つに分けられる下記の部分が付されている。
 まず、第一に次の題名の本が合本されている。標題紙も新たに別に付けられている。A general Treatise of the reduction of Exchanges, Monies and real species of most place in Europe, in two Extra Tablesである。ジャスティスによれば、「ヨーロッパの主要都市での貨幣と為替の換算表を含む論文を追加するのがよかろうと思った」(序文)からである。オランダ語でヘンリシー(Henricy)氏によって最初になされたものであり、商業数字や商業計算の理論と実際について、これ以上の本は今までなかったと思うとしている。具体的には換算表(別建てのフランス分と併せて、23ページ)および、為替表と換算表入門的解説よりなる。通計100ページほどのものである。
 第二が、"A General Discourse of Commerce being a view of Commodities and Merchandizes, produce'd in all Countries of Trade"(119ページ、ページネーションあり)である。英国の他の著書から集められたものであり、貿易と(特に英国と貿易関係にある)諸国の商品についての議論を入れておくのが便宜だと思われたからである。
 第三が"A General discourse of the Weights and Measures usual in all considerable Towns of Trade"ある。これは、これは為替論文の著者リカード氏が、フランスで作ったものである。海外貿易で使う度量衡の正確な比率を知っておくことほど、商人にとって必要なことはない。そこで、すべての著名国の度量衡についての一般論文を訳したものである(72ページ、付表2葉。ページネーションあり)。
 四番目が"An Additional Collection of Instruments and Forms of Wrightins relating to Commerce"(49ページ、ページネーションあり)。合名会社の約款、用船契約諸、信用状その他、商人や売買業者によく使われる文書の様式集を付け加えた。

 イギリス歴史学派のロジャーズはその著『英蘭銀行最初の9年間』(Rogers, J. E. T. The First Nine Years of the Bank of England)で、「この本は法外に稀覯(excessively rare)で、大英博物館にもなくボードリアン図書館(注3)ある」(Rogers, 1887, p.37)といったり「異例に稀覯(exceedingly rare)にして価値のある本で、著述している時代の外国為替の解釈には基本的な研究」(Rogers, 1887, p.30)と書いている。
 ウェッブサイトのカタログで調べると、現在では大英図書館に、一本が所蔵されている。ただ、米国議会図書館には所蔵されていない。私の知る限りでは、日本では慶応大学図書館に高橋の旧蔵書と思われる一本と、成城大学経済研究所の高垣文庫にも一本がある。

 オーストラリアの古書店よりの購入。持ち重りのする大部な書である。

注1:この「序論」の部分に、著者の貢献があるのであろうが、読んでいない(読む力がないが正確)ので、内容を詳しく紹介できない。高橋の本によると、為替の騰落は一国の鋳貨の通用価値の変化と他国の当該国通貨需要によって決まる等のことも書かれている。
注2:Munnは、トーマス・マン。Mariusは、Merchants map of Commerce の著者John Mariusか。Scarletは不詳。
注3:オックスフォード大学のメイン図書館。英国最古で、蔵書数は大英図書館に次ぐ。

(参考文献)
  1. 高橋誠一郎 『古版西洋経済書解題』 慶応出版社、1943年
  2. Rogers, James E. Thorold First nine years of the Bank of England; an enquiry into a weekly record of the price of bank stock from August 17, 1694, to September 17, 1703, 1887,Oxford, Clarendon Press




標題紙(拡大可能)

(H21.8.20記)



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