JANSSEN, T.
, General Maxims in Trade, particulary applied to the Commerce between Great Britain and France., London, Printed for Sam. Buckley, at the Dolphin in little-britain., 1713, 23, 12mo

 ジャンセン『特に大ブリテンとフランス間の通商に適用された貿易の一般準則』。初版。
 著者セオドア・ジャンセン(1658?-1748)は、オランダに生まれ、イギリスに移住し、帰化する。英蘭銀行の創設メンバーで、監事でもあった。準男爵に叙され、1717年には国会議員に選出された。巨万の富を築いたが、南海会社の重役であったことから、南海泡沫事件により、背任罪で有罪とされ、出資者に賠償するため資産を没収され、名誉も失った。

 18世紀初めに主にホイッグ党の手により推進された英仏間の「スペイン継承戦争」は、政情が変化しトーリー党主導のもとに講和が結ばれることとなった。1713年のユトレヒト講和条約である。この条約締結により、英国はフランスに最恵国待遇を与え、関税を軽減するのに反し、事実上フランスは英国製品に高い関税を課することになる協定を結んだ。このための法案を政府は提出したが、強烈な反対論を惹起した。
 新興産業資本家を代表するホイッグ派は、この法案に反対した。内実は、英国貿易差額にとって最重要な西インド市場(スペイン領およびポルトガル領のアメリカ)における毛織物および毛織物製品輸出が壊滅的な被害を受けると考えたからである。当時毛織物工業生産物は輸出の8割を占める重要製品だった。フランス王子フィリップがスペイン国王に就くことにより、スペインを経由した当該市場への英国毛織物製品輸出が圧迫されるとした。
 賛否両派は世論に訴えるための論争を展開した。政府側は、彼のダニエル・デッフォを主筆とする『マーケター誌』Mercator, or commerce Revived.を週3回発行しキャンペーン張る。これに対し、反対派はチャールズ・キングを主幹とする『ブリティシュ・マーチャント誌』The British Merchant, or commerce preserv’d.を週2回発行して対抗した(1713-1714)。
1721年キングは、同誌を編集し、資料を付加して3巻物のThe British Merchantとして出版した。その際、本書を再録したのである。私蔵本はこれに先立って1713年に最初に出版されたものである。

 本書は、23ページの薄い冊子である。まず、準則を箇条書きにしているので、少し長いが、記してみよう。
 最初に肯定的な準則をローマ数字にて、9箇条列挙している(本書、p.5-p.7)。
T.その国の特産品や栽培物から作られた製品を輸出する貿易は、疑いもなく妥当である。U.自国の余剰物の消費を助ける貿易も、明らかに有益である。V.国内製造用の外国原料の輸入、特にその商品が製造後ほとんど海外に送付される時には、議論の余地なく有益である。W.この国での製造のための外国原料輸入は、製品が主として国内で消費されるとしても、有益となることがある。特に当原料が国産商品と交換に獲得された時はそうである。X.この国でこれらの財に加工される外国原料、さもなければ既製品となって輸入されたものは、国家にとって貨幣節約の手段である。そしてもし節約が得られているなら、かの原料を獲得する貿易は利益ある物と見なすべきである。Y.製品と製品を、商品と商品とを交換する貿易は妥当である。Z.一部は貨幣、一部は財で購われた商品の輸入は、国家の利益となることがある。東インドの例のように、このように輸入された商品の大部分が再び輸出されるなら、そして一般的にいって再輸出される財の輸入はすべて、国家に有益である。[.一外国から他外国へ財を(自国船で)運搬することは貿易利益を生む一事項である。\.国家にとって欠かせぬ財を輸入する必要がある時、これらの財を主に貨幣で購うとするも、妥当でない貿易とすることはできない。
 次に否定的な準則を(なぜか)算用数字にて4箇条列挙している(本書、p.8-p.9)。国家にとって不利益な貿易として、
1.全部または大部分が国内消費される単なる贅沢品や享楽品の輸入 2.更にずっと悪いのは、ただ国内において消費されるだけでなく、自国品の同量の消費を妨げる商品を輸入する貿易 3.自国で製造するのと同様な商品を供給する貿易は、特に自国での消費に充分な製造が出来る場合には、著しく良くない。4.既に一国に導入されたような製品を寛大な条件で輸入することは、悪い結果をもたらすに相違なく、それら製造業の進歩を阻害する。賢明な国家は幼年期にある製造業を奨励することを好み、外国の同種製品に高税を課すのみならず、それらの消費を糾弾・禁止すること多々である。
 貿易平衡論の立場から、貨幣の国内流入を図るのが準則の基準となっているのが明らかだろう。この後には、フランスとの条約により影響を受ける自国産業の諸部門を論じ、産業の保護のため関税を高くする提案を書いている。
 
 The British Merchant(1721)版を1713年版と比べてみると、前者にはさらに21ページほどの文章が後ろに追加されている。この部分も、以下に摘記する。
まず、11項目の要約を連ねた後、「すべてを、より短い言葉で要約すると、このようになろうか;我国に最も潤沢に貨幣を流入させる貿易は、常に最良の貿易と見做して間違いない。わが人民をして、労働による生活向上を可能とし、土地価格を上昇させ、そして地代支払上昇の誘因となる。」(King, 1721, p23)
 次に、上記準則の適用例として、具体的に各国との貿易の得失が書かれている。ポルトガル、(フィリップ王以前の)スペイン、イタリーは貿易収支が出超で貨幣を英国にもたらし、トルコはほぼ収支均衡だが素材輸入が製造に必要である。ハンブルグ(と他のドイツ諸国)とは、収支差額を貨幣で受け取り、オランダとは財で受領する。これらの国との貿易は英国の雇用と国民生活に貢献している。
 どの規則によってもフランスとの貿易は王国の害であるとした上、差額を金銀で支払う貿易のすべてが悪くないとする。東方国(East Country 注)からの船隊備品(麻・ピッチ・タール等)輸入は毎年20万ポンドの金銀支払となるが、それ以上を海運で他国から得ているからである。同様なことが、中国と東インド貿易にもいえる。インド物産が再輸出され、他国から損失以上のものを得た。レヴァントとスペインとの貿易も入超であるが、輸入品は羊毛製品の染色剤として必需品で、羊毛製造品の輸出によって賄われているとする。

 フリードリッヒ・リストは、そのいくつかの著書でThe British Merchantを度々引用している。ダヴナントやチャイルドの引用もこの本を通じてのものである。リストは、幼稚産業保護について、このキングの本(のジャンセン著作部分)から例を取った。また、後進国が先進工業国と自由貿易を行った場合、先進国に隷属することになると説いた際、資料として用いたのもキングの本なのである。「最高の活力を持ち、経済史に関して評価を絶した価値を持つ、偉大な著作」(小林, 1950, p.147)とまでリストは、持ち上げた。このThe British Merchantの巻頭を飾ったのが、ジャンセンの本書なのである。

 イギリスの古書店よりの購入。紙は古いが、カビ等は見られない綺麗な本である。

(注)小林の本では、この部分に該当する要約で、この個所を「ノルウェイ・スエウェーデン」としているように思われる。East Countryがそうなのか私には不明。

(参考文献)
  1. 大塚久雄 『大塚久雄著作集 第六巻 国民経済』 岩波書店、1969年
  2. 小林昇 『フリードリッヒ・リスト研究』 日本評論社 1950年
  3. 高橋誠一郎 『重商主義経済学説研究』(高橋誠一郎経済学史著作集 第二巻) 創文社 1993年
  4. 高橋誠一郎 『古版西洋経済書解題』(高橋誠一郎経済学史著作集 第四巻) 創文社 1994年
  5. King, C. “The British Merchant; or, Commerce Preserv’d “ John Darby, London, 1721




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(H21.11.4記)



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