DAVENANT, C.,
An Essay upon Ways and Means of Supplying the War., London, Printed for Jacob Tonson at the Judge’s Head near the Inner-Temple-Gate in Fleetstreet, 1695, 8vo, pp160, with a folding plate

 チャールズ・ダヴナント『戦費調達論』初版。
 著者の父親ウィリアム・ダヴナントは、桂冠詩人でありシェクスピア劇の上演で有名なドルリー・レイン劇場のマネージャーである。父親の職を受け継いだ著者も、19才の時戯曲を著作している。本書が政治経済についての最初の著書。数々の官職に就き、トーリー党選出の国会議員にもなった。
 ペティの創始した「政治算術」の最も有能な継承者とされている。シュンペーターは「本来彼に属すべき第一流の地位に漸次に近づきつつあるが、今までのところでは、なおそこまでには至っていない」とし、ブローグは「党派色の濃い議論の中で、彼はしばしば一般原理を展開し、その中には、アダム・スミスの初期の著作を思わせるものもいくつかある。」とする。ふつう重商主義者に分類されるが、「ダヴナントによる交易の分析は、公収入のそれに比べて著しく精彩を欠いている」(大倉正雄)。交易論では二流、財政論では一流ということか。
 本書を著したのには、猟官の目的もあったようだ。国王ウィリアム三世(オレンジ公ウィリアム)はオランダの支配者でもあり、英・蘭防衛のため対仏戦争を遂行していたし、前国王ジェームスの画策に対抗するためアイルランドでも兵力を展開していた。これら戦費による財政難を切り抜けるため、財務省は増税か新税導入を迫られており、難局打開案の提案者には職が提供されるようになっていたからである。
 時のホイッグ党政府は膨大な戦費を国債によって賄っていたが、限界に達しつつあった。国債による戦費調達は、地主と外国貿易商人にのみ負担を強いるものとして速やかに廃止し、それにかわるに内国消費税(Excise)中心に人頭税の拡充、貨幣利子税の新設で調達し、一方関税は軽減するという提案を本書で行った。ペティの推測に従って、現在の課税法は英国々力の三分の一である土地・外国貿易に依存し、残りの三分の二を取り逃がしているとし、内国消費税を長期戦に際して最も適当な財源とした。また、消費税課税に適する商品は純然たる奢侈品であり、課税による値上がりは、贅沢を抑制し国民を勤勉に向かわせると主張した。

 著者は本書によって世間の知る所となり、以後の著書標題には「戦費調達論の著者」と掲げている。

 米国の古書店より購入。説明文には、本の上部にインクがかかり、専門家により漂白処理済みとの記述。写真を送付して欲しいとメールを送付したが、返答なし。外国人には売りたくないのか、はたまた実際売却済だが、こんな本も扱ったと誇りたいのか、売却済みと返事を貰った本がいつまでも、サイバー・カタログに載っている例をよく見るから、今回もその類かと疑いつつ、値段の安さにつられ、みずてんで注文をいれた。結果は正解、半革装に仕立て直したコンデションの良い本である。
 
(参考文献)
  1. 高橋誠一郎 『古版西洋経済書解題』 慶応出版社、1943年
  2. 高橋誠一郎 『西洋経済古書漫筆』  好学社、1947年
  3. 大倉正雄 『イギリス財政思想史』日本経済評論社、2000年





標題紙(拡大可能)

(H20.2.11記)



稀書自慢 西洋経済古書収集 copyright ⓒbookman