Knight, F. P.,
Risk, Uncertainty and Profit, Boston and New York, Houghton Mifflin Company, 1921, 8vo., pp. xiv+381

 ナイト『危険・不確実性および利潤』、初版。
 著者ナイトは、シカゴ学派の創始者とされ、「多面的(multi-faced)で徹底して折衷的(eclectic)であった。・・・人間のsocialな面だけではなく、asocialな面にも目をくばる社会哲学者であった。そして学説面でも、既存のものを否定することによって真機軸を強調するのではなく、既存の学説を整理し正確な解釈を加え直すことを重視した。したがって、ナイトの学説にはそれまでの経済学のすぐれた仕事がすべて流れ込んでいる。そのナイトを師と仰いだシカゴ大学の若い経済学者は、ナイトの多面的な研究業績の中から、自らの関心にもとづいてその一部を発展させ徹底化させたと見ることができる。(猪木武徳「シカゴ学派の経済学」根岸隆編『経済学のパラダイム』p197)

 「この書物には、根本的に新しいというものは、ほとんどない。」という序文で始まる本書は,ナイトの処女作にして代表作である。彼の取り組んだ問題は、既存の理論が説明できない利潤の存在と完全競争下の競争均衡の矛盾である。
 J.B.クラークらの利潤の「動態説」に対して「危険説」を説いた。「結局、利潤は動的諸変化――予知しえない――の結果生ずる不確実性にその発生根拠を求め、その不確実性を引き受けるのは「企業者」であるから、利潤は「企業者」に帰属するとなす。そしてこの不確実性とは、日常会話で、また実業界で「危険」といわれていることであるが、ナイトはこれを明確に区別し、「測定しうる不確実性を危険(客観的確率)といい、測定しえないものを不確実性(主観的確率)となす」。そして測定しうる危険は、事実上の確実性に転換でき、保険原則の適用によって固定的な諸原費に転換されうるが、測定しえない不確実性は、・・・企業者に独特な収入を与えることを説明するものである」(邦訳解説P.5~6)
 奥熊栄喜氏の文雅堂銀行研究社の既訳があるが、日本経済評論社の新約が予告されている。

 英国の古書店よりの購入。以前初版本として買った本は、LSE復刻版だった。復刻版を示す標題紙は巧妙に切り取られおり、よく見ると刊行年より後日付の序文が付いていて気付いた。オランダの著名な専門店からの購入だったから油断がならない。今なら、返品するのだが、気付いたのが遅かった。後から買った本物の方が、値段が安かった。




標題紙(拡大可能)



(H17.6.12記)



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