KEYNES, John Maynard (ed.) ,
Manchester Guardian Commercial. Reconstruction in Europe., Manchester: The Manchester Guardian Ltd. ,1922-23, Folio. Section 1-12

 ケインズが編集主幹を務め、1922年4月から1923年1月まで刊行した『マンチェスター・ガーデアン』(新聞)の『商業補遣』(付録)全12号。
 1921年以来,ケインズは『マンチェスター・ガーディアン』紙に定期的に寄稿し、自分の意見の発表の場としていた。22年には、『商業補遣』を編集する。「他のどこで得られるよりも完全な知識に基づいた、ヨーロッパにおける主流権威者が執筆したヨーロッパの財政的、経済的、工業的状況の網羅的総覧」と広告された。
 ケインズは毎号、テーマと議題を決定し、寄稿者を募り、支払規模を確定し、各号ごとの費用を計算し、翻訳をアレンジした。寄稿の依頼には彼の広い人脈が活用された。財務省勤務時の人脈や、外国寄稿者について、ドイツでは講和会議で知ったメルヒヨール博士の協力を求めたりした。寄稿者には経済学者や著名政治家の他、マクシム・ゴーリキー、アンリ・パルブュス、アナトール・フランス等文学者も含まれている。ケインズは、記事の見映えだけでなく、レイアウト、デザイン、掲載写真まで決める。ロゴ・デザインをブルムスベリー・グループのダンカン・グラントやヴァネッサ・ベルに依頼した。この仕事で彼が得た収入は併せて4,000ポンドに達したとされる。
 5か国語で印刷されると宣伝では、謳われている。ハロッド(1967、p.355)は、フランス語とドイツ語でも発行されたと書いているし、私が実際古書市場でみたのも、この2か国版だけである。英語版第1号は、1922年3月20日、30,000部印刷された。以後ほぼ3週間の間隔で、1923年1月4日まで発行された。1部1シリングの販売である。
 ほとんどの号にケインズの論文が掲載されている。重要な論文は、次のとおり。第1号には「為替理論と『購買力平価』」と「外国為替の先物取引」、第5号には「課税方法としてのインフレーション」と「貨幣価値の変化が社会に及ぼす影響」(ケインズ全集4巻『貨幣改革論』の「読者へのノート」参照)を執筆し、後にこれらは『貨幣改革論』収められることになる。第11号には「ヨーロッパの為替安定化(Ⅱ)」(全集邦訳18巻、p.83)において、フィッシャーを参照しながら、デフレーションを問題とした。ケインズが、デフレーションに警鐘を鳴らした初めての論文である。
 新工夫として10号までの巻末には、”BAROMETER”の題の下にヨーロッパ(ロンドンスクールオブエコノミクスによる)とアメリカ(ハーバード大学の経済調査所による)の景況指数が載っている。

 「ちなみに、この『マンチェスター・ガーディアン・コマーシャル――ヨーロッパの再建』には、のちの『貨幣改革論』(1923年)の基になるケインズ自身の論考だけではなく、アーサー・ピグー、アーヴィング・フィシャー、ピエロ・スラッファ、グスターフ・カッセルらの論考が掲載されている。もちろん、それらの内容の専門性はきわめて高い。しかし、その媒体は、体裁として今日の読み捨て新聞そのものである(筆者はイェール大学の図書館書庫の奥深くでほとんど朽ち果てそうになっているその現物を確認した)。メディアでの啓蒙とはいっても、当時はごく一握りの知識層を相手にしていればよかったということなのだろう」(野口旭、2006、p.216-217)
 
 各号の標題は次のとおり、
Reconstruction in Europe
  • Section 1 April 20, 1922, Foreign exchanges
  • Section 2 May 18, 1922, Principles of reconstruction; Shipping, inland water transport
  • Section 3 June 15, 1922, The Genoa conference ; The problem Austria; The textile industries of Europe; Financial and exchange questions
  • Section 4 July 6, 1922, Russia; The oil industry
  • Section 5 July 27, 1922, National finance of Europe; Tariff hindrances; Lavie chère
  • Section 6 Aug. 17, 1922, Population; Agriculture and food supply; The peasant revolution inEurope
  • Section 7 Sept. 7, 1922, Railways; Coal; Iron, steel, engineering
  • Section 8 Sept. 28, 1922, The problem of reparations; The devastated areas
  • Section 9 Oct. 26, 1922, The Labour problems of Europe; Oil
  • Section 10 Nov.16, 1922, The United States and Euope; Emigration
  • Section 11 Dec. 7 ,1922, Stabilisation of the exchanges; The historic bank of England; European banking
  • Section 12 Jan. 4 ,1923, The state of opinion in Europe; Disarmament and peace; The literature of reconstruction
  以前、日本の古書店で、この『ヨーロッパの再建』全12号揃いとして200万円以上の値が付いて、売り出されていた。それが記憶にあってこの揃い物を収集し始めた。バラバラに売りに出ているのを、長い期間をかけて揃えるのも蒐書の楽しみの一つである。次にどのように蒐書したのか経過を書いて、古書ファンの参考に供したい。

  1. 2005年4月、Section 1、2、3、5、7、11の6冊を英国の古書店より購入。私にとって少し値が張ったので、交渉で5冊分の値段に負けてもらった。
  2. 2005年8月、全12冊揃い製本したもの(但し、表紙、広告部分は削除したもの:詳細下記)を英国の慈善団体から入手。
  3. 2014年12月、Section 4 をドイツの古書店より購入。
  4. 2015年1月、Section 6 を英国の古書店より購入。
  5. 2015年4月、Section 8-12を製本したもの(表紙付き発行形態のまま製本したもの)を米国書店から入手。

 こうしてSection 11は重複したが、ケインズが編集した全12巻が、発行形態のままと省略形の2セット揃ったことになる。勝海舟がオランダ語辞書の「ズーフハルマ」(と思う)を借り出して筆写した際に、もう一部余分に書き写し、借賃の「損料」を回収したひそみにならえば、1セットを売れば一儲けになるのだが。

 
(2.の簡略製本分について)

 最初の6冊を入手してから、保管用に専用の桐箱を誂えた。あと6冊を、ゆっくりと揃えていこうと考えたのだ。嬉しい誤算というべきか、すぐに12冊揃いのセットが見つかった。
 「書店」は英国にある国際的なNGO団体。慈善のため一般人から寄贈を受けて販売しているようだ。発送がモタモタしているので、問い合わせたらABEに加盟したばかりで、要領がわからぬと。値付けも素人なのだろう。このようなのを「うぶい」本というのだろうか。
 12冊がまとめて製本され、背に”Reconstruction in Europe”の金文字あり。一冊毎の表紙や広告部分は全部省略して製本されている。
 6冊本はずいぶん安値で入手したと思っていたが、これは12冊併せて、上記入手本の1冊分の値段より安い。古い新聞の評価しかしていないらしい。説明文にケインズへの言及はなかったし、「ヨーロッパの再建」の言葉もない。ロイド・ジョージの序文や外国首相の手紙が記載されていることが強調されているだけである。

 (5.の製本分について)
 
 
Section 8-12の後ろに、次の2号が合綴されているが、general editorケインズの表示はない。”European Reconstruction Series”の表示は同じであるが、活字が小さくなっている。2番目のIRELANDは、表示の文字も緑で印刷されている(他は赤で印刷)。
  • Section13 March 29,1923 Raw Materials
  • Section1 March 15,1923 IRELAND
 製本の背には"MANCHESTER GURADIAN COMMERCIAL / RECONSTRUCTION IN EUROPE / 1922-23 / PART2"と表示。遊び紙には、"GIFT & EXCHANGE SECTION / HARVARD COLLEGE LIBRARY / CAMBRIDGE MAS. 0213 / U.S.A."のゴム印が押されている。

『ヨーロッパの再建』の号数について

 古書店の説明文やケインズ全集のXXX巻BIBLIOGRAPHY AND INDEX を見てみても、『ヨーロッパの再建』は、全12号だと思われる。しかしながら、大阪産業大学綜合図書館のHPデジタルギャラリイ(2017/12現在、同HPの「コレクション」→「経済学諸学派コレクション」でリストのみ見られる)を見たところ、1-16と16号あるように記載されている。
 近代経済学と経営学の分野で日本でも有数の蔵書を誇られる同図書館のご高配により書庫に入れて頂き、現物を確認できた。
 確かに16号あったが、general editor としてケインズの名前が記載されているのは12号までで、以後の号には消えている。ケインズが編集主幹として責任を持ったのは、12号までということだろう(上記(5.の製本分について)も参照)。

 (参考文献)
  1. ケインズ 中内恒夫訳 『ケインズ全集 第4巻 貨幣改革論』東洋経済新報社、1989年
  2. ケインズ 武野秀樹・山下正毅訳 『ケインズ全集 第18巻 賠償問題の終結 -1922~32年の諸活動―』 東洋経済新報社、1967年
  3. 野口旭 『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』 東洋経済新報社、2006年
  4. ハロッド、R.F. 塩野谷九十九訳 『ケインズ伝[改訳版]』 東洋経済新報社、1967年
  5. THE COLLECTED WRITINGS OF JOHN MAYNARD KEYNES, XXX Biography and Index, Macmillan, Cambridge University Press for the Royal Economic Society, 1989
  6. Skidelsky, R., JHON MAYNARD KEYNES Vol.2 THE ECONOMIST AS SAVIOR 1920-1937 , Macmillan, 1992


Sectin1-7と11


製本されたSection8-12


簡略製本分

 
   (2005/4.記。2005/8.追記。2009/5写真差換。2017/12/26全面改稿。2022/5/20各号の表題部分の訂正)




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