WICKSELL, K., Några ord om Samhällsolyckornas vigtigaste orsak och botemedel med särskildt afseende på Dryckenskapen. Upsala, In the author's publishers, 1880, pp.(1)+95, 8vo.Dedication by the author on the front cover.

WICKSELL, K., Om prostitutionen: huru mildra och motverka detta samhällsonda? : två föredrag, Stockholm, Kungsholms Bokhandel,1887, 56 p

 ヴィクセル『常習的乱酔の主要原因とその対策』、初版、著者献辞付き。
 英訳の題名は、’A few remarks on the chief cause of social misfortunes and the best means to remedy them, with particular reference to drunkenness’である。Knut Wicksell: Selected Essays in Economics Vol.2, London, Routledge, 1999に収められている。
 著者は、1880年2月19日(28歳)、禁酒同盟のウプサラ支部主催で、「常習的乱酔の主要原因とその対策」なる講演を行った。演題にかかわらず、その内実はネオ・マルサス主義の主張であった。この講演は、当時の保守的なスェーデンの社会では大きな反発を招いたが、若者を中心に強力な支持者も得た。要望に応えて、25日に再度の講演を行った後、翌月には講演内容をパンフレットで出版した。それが、このパンフレットである。詩人でもあった若きヴィクセルは、1878年に“Romancero”という匿名詩集を刊行しているが、年譜等から見て、学術書としてはこの冊子が処女作ではないかと私は思っている。同年、「批判者への返答」というパンフレットも上梓している。
 若きヴィクセルは、乱酔、売春、貧困と過剰人口の関係について関心を持った。低所得で、生活に希望を持てないことが、貧困階層を飲酒に向かわせ、売春に慰めを求めさせる。貧困層はまた、早婚でもある。人口と食料のバランスが取れていないことが、これらの根本原因である。
 その解決策を産児制限に求めた。これらの悪徳を除去するためには、人口の増加率を抑制して、資本の増加率以下にすべきだとした。そうすれば、労働は資本に対して相対的に希少となり、賃金は上昇するであろう。そのために、ヴィクセルが推奨するのは、マルサスの「道徳的抑制」に代えて、避妊である。後には妊娠初期の堕胎の合法化を唱えた。これら過激な提案によって、彼はウプサラ大学の教授連からにらまれることになる。後にヴィクセルが教職に就くのが遅れる一因となったであろう。
 ちなみに、ネオ・マルサス主義は終生の主張であったようである。1922年ロンドンで開催された「第5回ネオ・マルサス主義・産児制限会議」においても、報告を行っている(このことは、古書店の目録記載の本によって知った。Pierpoint, Raymond(ed.). Report of Fifth International Neo-Malthusian and Birth Control Conference, Kingsway Hall, London, July 11th to 14th., 1922, London, William Heinemann, 1922。この会議ではケインズも経済部会の会長を務め、報告書に寄稿もしている)。
 
 古書肆によるサイバー・カタログの解説は、スェーデン語で書かれているため、コンピューター英訳の助けを借りると、「著者自家版、表紙に著者の献辞がある」と読める。Herr  C. Wahlberg (?) 宛てに、献じられているようである。あとの文字は、私には読めない。稀覯な本ではないかと考える。
 

  ヴィクセル『売春について:この社会悪をいかに鎮静し、緩和するか:二講義』、1887年刊初版。
 タイトルの上には「1886年から1887年の冬に開催されたクヌート・ヴィクセルによる講義」と印刷されている。
 北野熊喜男の「伝記」と「年譜」には出版物として記載されていないが、1887年に”Vervandi Society”主催の公開講演会(昨年と約35回)を行い、1.売春と2.結婚について講演。反対教授と討論会とある。講演は、「売春から独身を防ぐものは早婚であり、養育の責任は母にあり、必要な資金は公的基金から出し、子供の数は制限すべきであるという。新マルサス主義を中心とし」(同、p.211)たものと書かれている。講演をパンフレットにしたものだろう。

 
いずれも、スェーデンの書店から購入。

(参考文献)
  1. 北野熊喜男「ウィクセルの伝記」および「ウィクセル年譜」(ウィクセル 北野熊喜男訳『価値・資本及び地代』 日本経済評論社、1986年の「付録」として所収)
  2. 都留重人 『近代経済学の群像』 日本経済新聞社、1964年



『常習乱酔』表紙(拡大可能)


同署名部分



『売春について』表紙


(2013/11/1記、2024/2/20『売春について』を追記)




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